僕と犬としょぼい花
名渕 透
僕と犬としょぼい花
ぼくは今日、お母さんに「きらい」って言った。 だって犬を飼わないって言うんだもん。
友だちはみんな飼ってる。 柴犬とか、プードルとか、なんかすごいやつ。 ぼくも犬がほしかった。かわいいし、一緒に遊べるし、ぜったい楽しい。
でもお母さんは「すぐお世話できなくなるでしょ」って言った。 だからぼくは泣きながら「大きらい!」って言った。
そしたらね、お母さんが急に泣きだしたんだ。 え、そこ泣くとこ?って思った。
きらいって言われたら、ちょっと悲しいかもしれないけど、 泣くほどじゃないだろう。
ぼくはどうしていいかわからなくなって、家を飛び出した。
しばらく歩いて、公園に着いた。 だれもいない公園。つまんないな。
ベンチにすわったら、白い鳩が一羽、目の前に降りてきた。 すっごく白くて、目が赤かった。
鳩はぼくを見て言った。 「そんなに犬がほしいのか?」
え、しゃべった。 でも、なぜかあんまり驚かなかった。
「ほしいよ。かわいいもん」
すると鳩は羽を広げて言った。 「じゃあ、お前を犬にしてやろう」
次の瞬間、ぼくは犬になっていた。
たぶんビーグル。耳がでかいやつ。
すごかった。 走るのがめちゃくちゃ速い。 ジャンプもできる。 鼻がよくて、なんか全部わかる。
学校のにおい、商店街のにおい、 おじさんの家の方向までわかる。
これはもう、犬最高だと思った。
公園をぐるぐる走って、知らない道にも行って、 ちょっと迷ったけど、なんか楽しかった。
途中で川を飛び越えようとして落ちたり、 猫ににらまれて逃げたりしたけど、 まあ犬だし、そういうもんだと思った。
でも、ふと思った。
お母さん、まだ泣いてるかな。
ぼくは家に戻った。 ドアは開けるのが大変だったけど、なんとか入れた。
自分の部屋でベッドに飛び乗って、シーツにくるまった。
はだかだったけど、毛があったから、ガサガサだけど、最高だ。
しばらくして、お母さんが部屋の前に来た。
「私のこと、きらい?」
ちょっと困った。 さっきは大きらいだったけど、今はまあ、そこまででもない。
「そんなに」
って答えた。そしたらお母さんはまた泣いた。 なんでだよ。
そのあとね、ぼくは犬のまま、また外に出た。 なんとなく。
そしたらね、家の前の街に、小さい花が咲いていた。 すごく小さくて、正直しょぼかった。
でも、なんか気になったから、くわえた。
理由はよくわからない。 犬だからかもしれない。
家に戻って、その花をお母さんの前に置いた。
お母さんはびっくりして、 ちょっと笑った。
「……ありがとう」
え、これで?
花なんて、そのへんに生えてるのに。 しかもめちゃくちゃ小さいのに。へんなの。
でも、お母さんはもう泣いてなかった。
そのあと、気がついたら、ぼくは人に戻っていた。
お母さんはぼくの頭をなでて、 「犬は、もう少し大きくなってからね」って言った。
まあ、いいや。
だってさ、 しょぼい花で機嫌なおるなら、 次はもっといい花持ってくればいいじゃん。
それに、犬になる方法も、もう知ってるし。
とりあえず今日はラッキーだ。
明日、犬買いに行けるかもしれないし。
次の日公園を通ったら、白い鳩が降りてきた。 なんか偉そうだった。
「もう一回、犬にしてよ」 って僕は言った。
鳩はこっちを見て、 「ポー」 って鳴いて、どっかに飛んでった。
なんだ。ただの鳩か。
僕と犬としょぼい花 名渕 透 @decode77
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