いやさか
三日月未来(みかづきみらい)
第1話 ハイタッチ
葛城恵子と進一は互いの右腕を絡めて蛇の目のお猪口に口を寄せた。
「
白いお猪口が木製柄のテーブル上に静かに戻された。
狭い室内に小さな乾いた音が響く。
[コツン]
「ケイ、弥栄っていつ知ったの 」
「あれはね、ある年の新年会だったんじゃないかなあ 」
「ほら、有名な阿闍梨の新年会よ 」
「思い出した。高野山の阿闍梨だよね 」
「その時、ゲストで登場したのが西川さんよ 」
「その西川さんと弥栄が関係あるの。ケイ 」
「関係も何も、西川さんは愛国者で硫黄島の慰霊にも幾度も参加された人よ 」
「でも弥栄とは 」
「その西川さんは新年会の会場で弥栄を手短かに説明したの 」
「ああ、思い出したーー 何か言ったあとにビールグラスを上げていたよね 」
「乾杯じゃなく古来の習慣にね 」
「やっぱり、西川さん格好いい 」
ケイは古いビデオを手にしてポータブルプレイヤーにセットして言った。
「これ、覚えている 」
「覚えているも何も、昨日のことのようだよ 」
映像は西川さんの銀座の街頭演説の映像だった。
妨害活動をしている反勢力の白いプラカードが無数に写っていた。
「プラカードをわざわざ準備して妨害なんて手法ーー 狡猾だと思わない 」
「彼らの手法の中には妨害しかないのかなあーー だいたいプラカードを持っていたら手も疲れるよー 」
ケイは次のビデオをセットして言った。
「これ、覚えている 」
「知っているも何も、これ渋谷のハチ公前だろう 」
ケイは進一にビデオを見せたあとで言った。
「明日の午後、西川さんの街頭演説が近所であるからーー どう 」
「わかった、付き合うよ 」
⬜︎⬜︎⬜︎
黒髪がポニーテールで長身の葛城恵子は坊主頭の夫の進一と駅前の人混みを縫うようにして進んだ。炎天下の中の軽装の二人はホワイトジーンズに淡い水色の半袖シャツにジョギングシューズを履いて青い野球帽で熱中症対策をしていた。
「シン、日傘を忘れたわ 」
「・・・・・・ 暑い 」
雑踏の中に目立つ人影を見つけた恵子が進一の耳元で囁く。
「シン、あそこに丸山警部と部下の門田警部補がいるわ 」
「じゃあ、近寄らないようにして距離を置こう 」
進一が恵子と会話していた時だった。
私服姿の門田警部補の大きな手が背後から伸びてきて進一の肩に勢いよく置かれ進一は驚く。
進一と恵子が見ていた丸山と門田は鏡の中の姿だった。
シルバーグレー色の派手なスーツの門田が進一の前でハンバーガーを頬張りながら無邪気な笑みを浮かべている。
進一は肩を落とし、諦めながら言った。
「門田さん、食べてていいんですか? 」
門田はキョトンとした表情を浮かべ恵子の方を見た。
恵子は門田の無神経さを知ってか無視を決めている。
上司の丸山が恵子に声を掛けた。
「恵子さん、ここは危ないので安全な場所へ 」
「丸山さん、意味がわからないわ 」
「進一さんも、急いで移動してください 」
⬜︎⬜︎⬜︎
人の行列の塊が移動を始めた。
大勢の警察官と要人警護のSPが西川総理をガードしながら恵子と進一の方に進んで来た。
西川総理が恵子の顔前に右手を高く上げて微笑んでいる。
恵子の顔前に他の無数の手が伸びてくる。
「ケイ、西川総理とハイタッチして 」
恵子は人混みに埋もれながら西川総理の手に合わせた。
西川総理が言った。
「
「総理、
いやさか 三日月未来(みかづきみらい) @Hikari77
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