第8話
放課後。
彩葉は、昨日より少しだけ迷わずに体育館へ向かった。
それでも、心臓はどくどくと速く打っている。
(……今日も、いるのかな)
扉の前に立つと、中から音が漏れていた。
昨日のような柔らかい練習音ではない。
もっと鋭くて、
もっと速くて、
もっと“本気”の音。
彩葉は、そっと扉の隙間から中をのぞいた。
そこにいたのは——
隼人だった。
スネアの前に立ち、
眉ひとつ動かさず、
ただひたすらに叩き続けている。
タタタタタッ——
タッ、タッ、タタッ。
音が空気を切り裂くように響く。
体育館の広さが、隼人の音に押されて狭く感じるほどだった。
(……すごい)
彩葉は、息をするのを忘れた。
昨日の体験入部で触れた“優しい音”とは違う。
隼人の音は、
まっすぐで、
鋭くて、
迷いがひとつもない。
スティックの動きは速いのに、
音はひとつもぶれない。
タタタタタッ——
タッ、タッ、タタッ。
汗が額に落ちても、
隼人は止まらない。
ただ前を見て、
ただ音に向き合っている。
(……こんな人、いるんだ)
胸の奥が、ぎゅっと掴まれたように熱くなる。
ひより先輩の優しさとも、
美咲先輩の落ち着きとも違う。
隼人の音は、
彩葉がまだ知らない世界の音だった。
(……かっこいい)
気づいたら、
そんな言葉が胸の奥に浮かんでいた。
隼人が最後の一打を叩いた瞬間、
体育館の空気が一気に静まった。
彩葉は、思わず息を吸い込む。
隼人はスティックを下ろし、
少しだけ息を整えた。
その横顔は、
さっきまでの激しい音とは違って、
どこか無防備で、
少しだけ幼く見えた。
(……ギャップ)
胸がまた、じんわり熱くなる。
そのとき——
隼人がふと、扉のほうを向いた。
彩葉は慌てて身を引いた。
心臓が跳ねる。
(……見られた?)
足が震える。
でも、逃げる気にはなれなかった。
扉の向こうで、
隼人がスティックを持ち直す音がした。
(……また、聞きたい)
その気持ちは、
昨日よりもずっとはっきりしていた。
「君の音に追いつきたくて」 かーき @ka-kiper
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