『72時間の箱庭』

@nemu0601

第1話

第1話「残り三日」

最初に感じたのは、冷たさだった。

背中に伝わる、湿った地面の感触。

暗はゆっくりと目を開け、視界いっぱいに広がる青色の空を見つめた。

朝なのか、昼なのか、それすら分からない。

「……ここ……どこ…」

喉がひりつく。

声は、自分でも驚くほど他人行儀だった。

体を起こすと、そこは小さな広場だった。

土の地面。雑草。

そして――不自然なほど整った建物の配置。

同じ大きさの家が、円を描くように八軒。

中央には古びた木造の食堂。

少し離れた場所に、錆びついた倉庫が一棟。

まるで、誰かのために用意された舞台。

「……夢じゃ、ないよね」

近くで、かすれた声がした。

暗が振り向くと、茶色の髪をした少女が立ち上がろうとしていた。

年は同じくらい。

制服でも私服でもない、見覚えのない服。

「ねぇ……あなたも、急にここに?」

暗は一瞬、答えるか迷った。

知らない相手。

ここが安全かどうかも分からない。

「……気づいたら、ここにいた」

それだけ言う。

少女はほっとしたように息を吐いた。

「そっか……私だけじゃないんだ。

私、灯」

「……暗」

名乗った瞬間、胸の奥で小さな違和感が走る。

本名じゃない。

けれど、そうだと疑問に思う余地もなかった。

——最初から、そう呼ばれていた気がする。

二人が会話している間にも、周囲で次々と人が起き上がっていく。

「私は、鋭だ」

短髪で、警戒心を隠そうともしない少女。「鋭」

「私は計です」

眼鏡をかけ、無言で周囲を観察する少女。「計」

「私は、仮だよ」

フードを深く被り、表情を読み取らせない少女「仮」

「わ、私は器です…!」

小柄で、落ち着きなく指先を動かす少女。「器」

「私は静、それだけ」

耳を澄ますように静かに立つ少女。「静」

そして、少し離れた場所で、腕を組んだまま誰とも目を合わせない少女。

「零」

八人。

誰も、詳しい自己紹介はしなかった。

する理由がない。

信用できる根拠もない。

「……これ、どう考えても普通じゃねぇだろ」

鋭が吐き捨てるように言う。

その瞬間だった。

——ブゥン。

空気が、震えた。

食堂の屋根の上に、黒い影が浮かび上がる。

人の形をしているようで、どこもはっきりしない存在。

全員の視線が、そこに吸い寄せられた。

『ようこそ』

声は、直接頭に流れ込んできた。

『選ばれし少女たちよ』

灯が、息を呑む。

鍵は、思わず一歩後ずさった。

『これより、第一のゲームを開始します』

影が、ゆっくりと村を見下ろす。

『参加者は八名。その中に――裏切り者が一人存在します』

ざわり、と空気が揺れる。

『裏切り者の勝利条件は、他の七名を全員殺害すること』

『残る七名の勝利条件は、裏切り者を殺害すること』

誰も声を出せなかった。

『舞台はこの村全体。

家、倉庫、食堂にある物は、すべて使用可能』

暗は、影から目を離さなかった。

逃げ場がないと、直感で理解していた。

『制限時間は――三日間』

食堂の壁が、赤く光る。

71:59:59

数字は、すでに動き始めていた。

『時間内に勝敗が決まらなければ』

一拍。

『全員、敗北』

残されたのは、8人の少女と、止まらない時間。

「……冗談、だよね?」

灯の声は震えていた。

計が、低く言う。

「冗談なら、こんな装置はいらない」

食堂のタイマーの横に巨大な爆弾らしきモノがある…

時間制限になったら、この箱庭ごと爆発するのだろう

暗は、誰の顔も見なかった。

代わりに、村を見渡す。

家の位置。

窓の数。

倉庫の扉の歪み。

食堂の裏口。

——一度見た光景が、頭に焼き付いて離れない。

赤い数字が、静かに減っていく。

71:41:32

このゲームで一番危険なのは、

刃物でも、罠でもない。

——

「誰が味方か分からない」という事実だ。

全員が疑心暗鬼になり、いつ戦いが始まるかも分からない

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