第4話 この手は、誰の手なのか
ヴェイル王国は、軍事大国の突然の侵略により滅亡した。国王は死に城も街も残らず死に絶えたが、一人娘である王女の行方は知れぬままとなっていた。
曇天の空にざあざあと雨が降っていた。
遠いどこかの町の外れの古小屋に、小さな灯りがともっている。
中には、簡素な服を纏った少女がぼんやりと椅子に座り、窓の外を眺めていた。
顔立ちは整っていたが、表情は感情を全てどこかに置いてきてしまったかのような、虚ろなもので。
ほとんど家の外に出ることがなく、人は彼女を幽霊か何かかと噂する者も居るらしい。
「フィー。そんな薄着だと、冷えちゃうよ」
そんな彼女の肩に上着をかけたのは、彼女と共に町に訪れた青年。
年は少女と同じ位で濃い赤色の髪が特徴だった。ある時、いつの間にか町外れの無人の小屋に住み着いていた。町には時折、買い出しに訪れるくらいである。
どこぞで駆け落ちでもした恋人達ではないかという噂があるのは余談である。
「いくらフィーが冬の生まれだといえ、この時期は風邪を引いてしまうからな」
からり、と笑い彼女に語りかける青年にも、彼女は表情を変えない。ぼんやりと彼に顔を向けるだけ。その瞳は硝子玉のように無機質なものだった。
あの日、全部が変わってしまった春の日。
炎に落ちていく城を背に、泣き続ける彼女を抱えてひたすら遠くへ逃げ続ける日々。
大国の追っ手から逃れる中で、いつの間にか髪が紅に染まっていた。洗っても、雨に打たれても落ちないそれは血の色か、それとも炎の色か。青年は確かめる気すら起きない。
「町でいい野菜が手に入ったから俺、スープ作ってみた」
「僕もフィーも熱いの得意じゃないけど」
「身体が冷えてしまうよりはましだからな」
少し離れた所にあるテーブルには簡素な器と匙。器からはほのかな湯気がたちのぼっている。
「.....冷めない内に飲んだ方が身体にいい」
ふいに、彼女の瞳が青年の顔を映した。
その言葉はいつかの昔、城で言われた小言だ。
あの時、誰に言われたのだっけ。
「──?」
小さく、本当に小さく呟かれた二文字の名に青年は否定も、肯定もしない。
ただ、曖昧な笑みを浮かべて彼女に手を差し伸べただけだった。
差し出された手を、少女はそのままとる。
その手は誰の手なのか。
少女は、フィーロはわからぬまま、彼の手をとり立ち上がった。
この手は誰の手か、終ぞ知らぬ 白藍彗 @tomlaw
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