中国式じゃんけんの謎

江賀根

第1話

はっきりとは覚えていませんが、おそらく小学校一年生くらいだったと思います。

先に学校から帰った私が、こたつで再放送のアニメを見ていると、二歳上の姉が帰ってくるなり、私に言いました。


「中国のじゃんけん知ってる?」

「知らない」

「知りたい?」

「うん!」


唐突な話でしたが、異国のじゃんけんというものが魅力的で、私は観ていたアニメそっちのけで姉の話に食いつきました。

そんな私の反応に、姉は満足そうな顔を浮かべながら説明を始めました。


「日本と違ってね、出した指の本数で勝負するのよ。多い方が勝ち」

「ヘー(なんかめっちゃ面白そうだ)」

「やってみる?」

「うん!」


こうして、私と姉による、中国式じゃんけんが始まりました。

中国語はわからないので、掛け声は日本式です。


一回目

「じゃんけん、ぽん!」

姉5本 対 私5本

引き分け


二回目

「あいこで、ぽん!」

姉5本 対 私5本

引き分け


三回目

「あいこで、ぽん!」

姉5本 対 私5本

引き分け


「……」

「……」


中国式じゃんけん対決は、そこで終わりを迎え、そのあとは二人でアニメの続きを観ました。

それ以降、私たちが中国式じゃんけんをすることはありませんでした。




という記憶が、昨日の通勤中に、お題「手」について考えていると、ふと甦りました。

あれは一体なんだったのか……


そこで私は、会社に到着するまでの約30分を使って、(敢えてネットで調べずに)この出来事の考察を行ってみることにしました。


まずは、姉が一体どこから、この中国式じゃんけんの話を聞いてきたのかですが、なにしろ数十年前の出来事です。今さら尋ねたところで「そんなこと覚えてない」と言われるのがオチです。

あのときの状況からして、友達か先生に聞いて帰ってきたのでしょう。

そして確実に言えるのは、姉もしくは姉に中国式じゃんけんを教えた人が、ルールの解釈を間違えていたということです。


当時の私は「指の本数で勝ち負けを決めるとは斬新だ」と思っていましたが、この数十年で私も少しだけ成長したので、それでは永遠に5本対5本が続くことはわかります。

きっと、何か他のルールが存在していたはずです。


しばらく思案したのち、私は一つの仮説に思い当たりました。

それは、トランプのルールで見られるような「最大数(5本)は最小数(1本)に負ける」だったのでは?というものです。

そうであれば、「5本を出せば絶対に負けない」というルールの破綻はなくなります。


そうだ、きっとそうに違いない。私は確信しました。

よし、今度姉に会ったら、このことを教えて、数十年ぶりの再戦をやろう。

どうせなら、お互いの家族も巻き込んで、中国式じゃんけん大会をやってみよう。

そう考えた私は、大勢で中国式じゃんけんをやっている姿を思い浮かべました。



……ん?


そのとき、一つの疑問が浮かびました。

大勢で一斉に中国式じゃんけんをやった場合、決着はつくのだろうか。


私たちが普段やっている、日本式のじゃんけん(グー・チョキ・パーの3種)でも、5人くらいでやると、なかなか決着がつきません。

それを、出し手が5種もある中国式じゃんけんでやると、決着に相当な時間を要するのではないでしょうか。

しかも、ぱっと見では勝敗がわかりにくいため、都度中断して確認しなければなりません。

人口が日本の10倍以上の中国で、そんな面倒なことはやらないでしょう。

きっと私は何かを見落としています。


私の頭の中で、様々なパターンの中国式じゃんけんのシミュレーションを行ってみました。


1本 対 5本は、1本の勝ち

3本 対 2本は、3本の勝ち

4本 対 3本は……



——え?


続けるうちに、私はある重大なことに気がつきました。

なんで今まで気づかなかったんだ。


この、私の考える中国式じゃんけんにおいては、23のです。

それなら4本を出せばいいのです。

つまり、出し手は1本・4本・5本の3種しか必要ないということでした。


【私の結論】

出し手のかたちが、

日本式はグー・チョキ・パーの3種

中国式は指1本・指4本・指5本の3種

と異なるけど、その他のルール・仕組みについては同じ。


これに間違いない。

(もちろん、指の本数が1・4・5ではなく、1・2・3だったりする可能性はありますが)


会社に到着した私は、PCを立ち上げている間に、隣の部署の張さんのところへ向かいました。

せっかくなら、実際に中国人に聞いて確かめようと思ったからです。


「張さん、おはよう」

「おはよ。朝からどしました?」

「あのさ、中国にもじゃんけんってあるの?」

「あるよ。日本と同じグ・チョキ・パよ」

「……」










今日はなんだか仕事に集中できそうだ。







※このあと、結局はネットで調べたのですが、姉が聞いてきたのは、数拳などと呼ばれる、指の本数当てゲーム(の解釈間違い)だったように思います。



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