甘いは正義
放課後の校舎は、昼間よりもずっと広く感じる。
部活の掛け声と、ボールを打ち返す金属の音が、遠くからぼんやり聞こえてくる。
俺は、旧校舎の空き教室を目指してあるいている。今日は久しぶりに七瀬との会合の日だ。
特に決めているわけではないが一週間に一度くらいで集まるというのが暗黙の了解となっていた。
目的地にたどり着いた俺は扉をあける。
「よっす」
聞き慣れた声。
「青木くん」
七瀬がいた。
カーディガンの袖から可愛らしい手を覗かせ菓子パンを食べていた。
「めずらしいな、パンを食べてるなんて」
「購買のパンが余っていたみたいで……貰えました」
机を見るとそれなりに大きな紙袋が置いてあるのが目に入る。
「食べきれなくて……よかったら、少し食べますか?」
断る理由もなかったので、俺は七瀬が座っている席から少し間をあけ、椅子に腰かける。
「……このメロンパンおいしいな」
「ですよね」
「ていうか、何個あるんだ?」
「お腹いっぱいにさせる気満々ですよね」
あえて太る、という言葉は使わない七瀬。七瀬のスタイル的には少しくらい肉がついてもいいような気がするが……。
「何見てるんですか?」
「ナンデモナイヨ」
少し怒気が入ったような声。少し見ていただけで気付かれた。
七瀬の隣で邪なことを考えるのはやめておこう。
そんなどうでもいい会話。
不思議と落ち着く。
「青木くん、今日は元気ないですね」
「そうか?」
「はい、いつもの……三割くらいしか覇気がないです」
なぜか具体的だ。
「そんなわかりやすい?」
「うん、少しだけですけどね」
七瀬はパンをちぎりながら、ちらっと俺を見る。
「最近、佐々木さんの妹さんとよく一緒にいるから」
「……見てたのか」
「偶々ですよ」
責める感じじゃない。
ただ、事実を言っているだけの声。
「大変そうだなって」
「……まあ」
それ以上、七瀬さんはそれ以上何も聞かない。俺もこの件に関してはプライベートなことだから話す気もない。
ただ、自分のパンを差し出す。
「これ、あげます」
「なんで」
「なんとなく」
受け取ると、チョココロネだった。
「……甘いな」
「甘いものを食べると、だいたい元気出ます」
それもどうでもいい理屈だ。
しばらく二人で黙って食べる。
遠くで吹奏楽部の音が聞こえてくる。
「青木くん」
「ん?」
「困ってるとき、黙るタイプですよね」
よく見ているな……。
「……そうかもな」
「でも、それでもいいと思います」
七瀬は空になった袋をたたむ。
「無理に話さなくても、ちゃんと考えてるの、たぶん……伝わってます」
誰に、とは言わなかった。
「そろそろ帰りますね」
「ああ」
立ち上がる七瀬。その背中は以前と違って見える。
「またね、青木くん」
「……またな」
夕焼けの中に溶けていく七瀬を見送りながら、
俺はさっきのチョココロネをもう一口かじった。
恋愛相談に乗っていただけなのにいつの間にか本命になっていた件【連載ver】 はるさめ14 @haruharu14
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