第16話「宵篝の夜祈り」

 夜が、深まっていく。


 宵篝の篝火は、

 消えるどころか、

 さらに赤みを増していた。


ミリア:「……人、増えてない?」


 周囲を見回しながら、

 小声で言う。


レオン:「祭りか?」


 気楽に返す。


セリア:「いいえ」


 首を横に振る。


セリア:「これは……

     夜祈りです」


カイ:「夜祈り?」


セリア:「宵篝に古くからある儀式です」


セリア:「夜、篝火の前で願いを口にする」


セリア:「本来は、

     神に感謝を捧げるものでした」


 通りの中央。


 人々が、

 円を描くように集まっている。


 それぞれが、

 篝火に向かって、

 何かを呟いていた。


町人A:「どうか……

     今年こそ、

     商いが上手くいきますように」


町人B:「あの人が……

     戻ってきますように」


 声は、

 必死だった。


 祈りというより、

 願いだった。


セリア:「……集まりすぎています」


 眉を寄せる。


セリア:「このままでは、

     また“燃えます”」


 そのとき。


 ミリアの胸が、

 再び熱を帯びた。


ミリア:「……っ」


 足が、

 止まる。


レオン:「ミリア?」


 周囲の音が、

 遠のく。


 篝火の揺らめきが、

 ゆっくりと歪んだ。


???:「……名を、

     呼べ」


ミリア:(……また……声)


ミリア:(でも……

     今度は、

     怖くない)


 視界の奥。


 燃えるような光の中に、

 女性の輪郭が浮かぶ。


 炎のようで、

 しかし、

 優しかった。


???:「……願いではなく、

     守るために」


???:「それが、

     お前の祈りなら」


ミリア:(……あなたは)


 光が、

 胸の奥に、

 すっと収まる。


ミリア:「……カグツチ」


 思わず、

 口から零れた。


 瞬間。


 篝火が、

 一斉に静まった。


 燃え盛っていた火が、

 落ち着き、

 人を照らすだけの光になる。


町人たち:「……?」


 ざわめきが、

 広がる。


レオン:「……今、

     何した?」


ミリア:「……わかんない」


 でも、

 確かに言える。


ミリア:「……でも、

     “抑えた”」


 セリアは、

 静かに息を呑んだ。


セリア:「……火の神、

     カグツチ」


セリア:「間違いありません」


カイ:「神……

    もう、

    宿ったのか?」


セリア:「いいえ」


 首を振る。


セリア:「まだ、途中です」


セリア:「目を覚ましかけている、

     段階」


 ミリアは、

 自分の手を見る。


 熱は、

 もうない。


 だが、

 確かに――

 何かがいる。


ミリア:「……ねえ」


 顔を上げる。


ミリア:「私、

     これから……

     どうなるの?」


 セリアは、

 答えなかった。


 答えられなかった。


 代わりに、

 レオンが言う。


レオン:「どうなるかは、

     分かんねえけどさ」


 軽く、

 笑う。


レオン:「一人には、

     しない」


 宵篝の夜祈りは、

 静かに終わった。


 だが、

 ミリアの中で――

 火は、灯ったままだった。

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灯命の天神地祇 -てんじんちぎ- 門 勇 @monyou

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