オウロードサーガ(原作版)

PaChI

第1話 盗賊退治(その1)

 古の神が作った人の世界。

 移り変わる時代の中で、一人の青年が人助けの旅に明け暮れていた。


◇◇◇◇


 透き通るような青が広がる空を、自由に舞う鳥。それを見つめながら、思いにふける一人の少女。


人探しをしていた。

記憶の中のあの人を見つけるために、家を飛び出し…右も左もわからないまま知らない土地を巡り歩く当てのない旅。

だったけど…


 視線を落とすと、太陽に引き延ばされた大きな十字の影が地面に映っており、その先にはガラの悪い男たちが群れをなして、ニヤニヤと少女を見ていた。

 

どうして…こうなった…。


 少女は盗賊に拉致され、十字架にはりつけにされていた。

 どこかから盗んできた建築用の角材を雑に組み合わせて作られた十字架に、手足と首を強めに縛り付けられ、全く身動きが取れない状況。

 更に十字架の根元には、薪やその辺に落ちていた木の枝が大量に積み上げられ、松明たいまつを持った盗賊たちが、頭目の『火をつけろ』という合図を今か今かと待ち望んでいた。


怖い…めちゃくちゃ怖い。

だってこれ火刑だよね?本でしか見たことない残酷なアレだよね?

でも、今にも殺されそうなこの状況で…私の隣にいるこの男は


何で!

十字架に!

サンドイッチされてんのよ!


 その謎の男もまた、盗賊たちの火炙りショーの生贄だったわけだが、何故か二つの十字架に挟まれ、何本ものロープでガチガチに固定されていた。


「…zzz」


しかも寝てるし!

顔にロープめりこんだまま!

爆睡してるし!!


◇◇◇◇


 1日前。

 

 商人で賑わう街『ダリータール』

 街の北側に位置する通りには露店がずらりと並んでおり、旅人と商人の取引する声で賑わっていた。少女はそこで、宝飾品を扱う露店商に声をかける。


「すみません、ちょっとお尋ねしたいんですが…」

「…ん?」


 店主が声のする方に顔を向けると、白いブラウスに、ブラウンのベストとハイウエストスカート。淡い金髪をお団子のようにまとめた、少しあどけなさを感じる少女が立っていた。


「この人を探してまして…」


 店主に渡された一枚の紙には、少女の探し人と思しき人物が描かれていた。


「あっ…えっと…」


 しかし、あまりにも絵が下手くそすぎて、店主は思わず言葉を詰まらせてしまった。

 少女はその場にしゃがみ、店主と目線を合わせながら質問を続ける。


「オールバックで丸い眼鏡をかけてて、学者のような見た目をした背の高い男性なんですけど、その人が最後にネックレスをくれたんです。宝飾品を買った人の中に、この似顔絵のような男性はいませんでしたか?」

「う、うーん…いないねぇ…大体うちのお客は女ばかりだよ」

「そうですか…」

「まあ、背が高い男なら隣にいるけど」


 店主が指差した方向を見ると、確かに背の高い男が立っていた。

 白髪で短髪。白いシャツに厚い革手袋。ポケットの多いベストと、年季の入ったブーツ。狼の毛皮のようなフサフサしたファーが襟元についたマントを身に纏った青年は、少女の探し人ではなかったが、貧しい露店商が売っている腐った玉ねぎを、真剣な眼差しで見つめていた。


「あー…全然違いますねぇ」

…え?え?ちょっ…もしかして、アレ買おうとしてるの?

いや、まさかねぇ…。


 少女は店主に返事をしつつ、青年が腐った玉ねぎをどうするのか気になっていた。


「すみません、ありがとうございました」

いや、あんなもの買ったところで食べられないし、なんなら何匹か小バエ飛んでるからね。見た目からしてヤバいって子供でもわかるわよ。

うん、私が心配しなくても絶対買わないはず…。


 聞き込みが終わり、青年の近くを通り過ぎようとしたそのとき


「おばちゃん、20ルベンスでどうだ?」

「ちょーーーーーーーーーっっっ!!!」


 提示されたあり得ない金額。あまりにも価値の差を持つ取引に、少女は青年の正気を疑った。

 とっさに振り返って彼の肩を掴み、待ったをかける。


「あっ…あんた!ちょっ!それ!」

「何だよ、お前誰だよ」

「しかも20ルベンスって、一回落ち着こう!ねっ!ねっ!」

「うるせーな、俺が何をいくらで買おうと自由だろ」

「いや、そうだけど!もうちょっと考えない!?」


 しかし、少女の忠告も虚しく、青年は腐った玉ねぎを買った。


「じゃあなー」

「まいどありー♪」


 腐った玉ねぎをいくつか抱えて歩きながら、笑顔でおばさんに手を振る青年。隣でそれを見ている少女は、ほとほと呆れていた。

 

「まさか本当に買っちゃうなんて…腐ってんだよ?それ」

「ったく、わかってねえな。そんなことぐらい知ってるさ」

「…え?」

「子供二人をおんぶにだっこ。服もボロボロ。売ってるモンもロクな品がない。明らかに金に困ってた」

「まあ、確かにそう見えたけど…」

「そりゃ善意で金だけ渡すこともできたけど、相手の気が咎めるかもしれないだろ?だから、取引って形で渡したんだよ」

「だ…だけど、あの人たち…」

「何だよ?」

「昨日、路地裏で大量の小銭数えてたわよ」

「なにぃぃぃぃいいっ!!」


 実は、少女はおばさんがボッタクリ商人だと知っていた。だからこそ、青年を止めようと必死だったのだ。


「商人とは揉めたくなかったから、あの場で具体的に言えなかったけど…多分あの人、困った人を装ってめちゃくちゃ儲けてるんじゃない?」

「う…嘘だろ」

「だって腐りかけの玉ねぎなんて、仕入れなくても貰えるじゃん。てか、そこに捨ててあるし」

「だはーーーーっ!!」


 辛い事実を突きつけられ、青年は思わず膝をついてしまった。


「まあ、しかし…そうだったとしても。誰かのためになるなら、別にいいさ。」


 青年はショックこそ受けていたが、善意につけ込んだおばさんを恨む素振りは見せなかった。


「…随分お人よしなのね」

「悪い人よりマシだろ?」


 切り替えが早いのか、それとも究極のポジティブ人間なのか、その思考は少女にとって理解し難いものだった。



 特に示し合わせたわけではないが、二人は街の中心地に向かっていた。道中会話がないのも寂しかったので、少女は自己紹介をしつつ青年が何者なのか尋ねてみた。

 

「私はヒイロ、あなたは?」

「スバル」

「ねぇ、何で旅してるの?」

「理由は色々あんだけど、今は墓参りかな。親父の命日が近いんだ」

「そっか」

「そっちは?」

「私は人探しだね。昔お世話になった人にもう一度会いたくて」


 ヒイロは、探し人の似顔絵をジャケットの内ポケットから取り出して広げた。


「こんな顔してる、背の高い学者風の男性なんだけど…見かけたことない?」

「い、いやぁ…残念だが心当たりはないな」

へ…下手すぎてよくわからん。

「はぁ、またかぁ…」


 探し人のヒントが一向に掴めず、少女はまたしても、ため息をつくこととなった。

 そうこうしているうちに、二人は街の中心地に到着する。


「お、道標みちしるべじゃん。じゃあここが市門に続く分かれ道ってことか。えーっと?俺は東側の門だから…8番の道だな」

「え?ちょっと距離あるけど、ここから見えるの?案外目がいいのね」

「路銀稼ぎで1週間ほど羊飼いの手伝いをしたことがあって、そんとき鍛えた」

「そんなんで目が良くなるわけないでしょ…しかも1週間て」


 門の場所を確認しようと、ヒイロも道標に近づく。


「えーっと、私は西側の門だから4番ね」

「しっかし、数字付きなんて随分親切だな」

「ここは商人の街よ?旅人の他に、材料や商品をお店に納品する業者も沢山行き来するんだから、通りに数字付けてわかりやすくした方が便利でしょ?」

「なるほどー。ヒイロって物知りなんだな」

「まあね。おかげで、ぼったくられたことはないわ」

「で、ですよねー。」

忠告を無視したことを遠回しに指摘されているようで、スバルは少し気まずくなった。


「じゃあここでお別れだ。探し人に会えるといいな」

「そっちも、無事故郷に着くといいね」


 こうして束の間のひとときは終わった。二人はそれぞれの旅路に戻るのだが、去り際にスバルがヒイロを呼び止める。

 

「あ、そうだ。せっかくだから選別やるよ、ほい」

「え?なになに♪ちょっと嬉しいじゃない」


 渡された紙袋の重さに期待を寄せつつ、ヒイロが中身をあらためたところ、先ほどの腐った玉ねぎが一つ残らず入っていた。


「こんのっ!!…って、あれ?もういない!」


 忽然こつぜんと姿を消したスバル。

 辺りを見渡したが、人の往来に紛れてしまっては発見も難しかった。


「何よあの男!!」


 ヒイロは、玉ねぎを突き返すことも文句を言うこともできず、途方に暮れた。

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2027年1月17日 08:00

オウロードサーガ(原作版) PaChI @ishizuki-kazefumi

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