百合、縁側にて天気を食べる。
おおらり
百合、縁側にて天気を食べる。
青、紺色、水色、灰色、白……透き通るような色合いの羊羹が、5つ、白いお皿の上に並んでいる。お皿は花柄のお盆の上にある。透明なグラスに注がれた麦茶も、2つ。
「記憶を想起させる食べ物は数あれど、和菓子なのは珍しいね」
「ラーメンから流行ったんだっけ?」
クルミとチハルは、お盆をはさんでふたり、縁側にいる。クルミはボサボサの黒髪に部屋着のTシャツ短パンで、寝そべっている。
チハルは茶髪をポニーテールにして、お姉さん座りをしている。部屋着のキャミソールのワンピースだ。白地に、赤いちいさなお花がたくさん描いてある。
「そうそう。前に食べたときのことを味から想起できるラーメンね」
「それね。これは、お天気羊羹かー」
クルミは起き上がる。
初夏の昼下がり、青空からそよぐ風が心地よい。
「いま、晴天を食べてもよくわかんない気がするから、天気悪めなのからいきますか?」
「じゃあ、切りますか」
チハルは羊羹に添えられた平たい楊枝を手にとって、紺色の羊羹を切る。
刺して、クルミの口元に運んだ。
「はい、あーん」
「あー」
クルミは横髪をおさえながら食べる。
チハルも食べる。もぐもぐ。
「うーん、どしゃ降りだあ」
「わかる。クーと、動物園行ったときだよね。どしゃ降りになって園内周回バスに乗ってね」
「逃げ込んだよねえ。あれは、ひどい雨だった……」
ふたりは笑いあう。
次に、今度はクルミが灰色の羊羹を切り、チハルの口元に運ぶ。クルミも、もぐもぐ。
クルミは頬を赤らめ、チハルはニヤニヤする。
「当ててみよっか?」
「……」
「チューの味がするんでしょ?」
「……そうだよ、桜の木の下でね。天気が悪くて……チューしたよね」
チハルは白い羊羹を切る。
「さっきからおんなじ記憶だね」
「ずっと一緒にいるからねえ」
「白が何の記憶か当ててみない?」
「ふたりでひたすら雪かきした時じゃない?」
「かまくら作ろうとして失敗したときのやつ?」
ふたりは白い羊羹を食べて、笑う。
「当たり!」
クルミはふと疑問に思う。
「ねえこの水色って、何?」
「あられかな?」
「あられの思い出なんてあったかなあ……」
ふたりは、水色を味わう。
「むむ、味がしないぞ〜?」
「私も味がしないなあ……」
チハルは麦茶を飲む。
からん、と氷が音を立てる。
「また、一緒にいるときだと良いね」
「絶対にそうだよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
クルミは確固たる自信があるようだ。
縁側に置かれたチハルの手に手を重ねた。
「一緒にあられに降られようね」
「降られたいかなあ?」
「ふたり一緒なら、なんだって楽しいよ」
「そうかなあ……そうかも」
チハルは眩しそうにクルミを見て、手を握り返す。
笑いの絶えない、初夏の縁側でのこと。
百合、縁側にて天気を食べる。 おおらり @aur_rit
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