弩×ラエモン ~亡国の男爵令息、人生二周目では不思議な道具いっぱいで祖国を反乱から守護らねばならぬ……!

ナイカナ・S・ガシャンナ

第1話 未来からの子孫

 王都が燃えていた。




 私の名はラエモン・ノヴァタ・ノーヴィー。この国――ポケット王国の男爵だ。今年で四十歳になる。取り立てて得手もない――というより、どちらかというと落ちこぼれと評価される底辺貴族だ。


 特別に幸福という訳ではないが、特段に不幸でもない。ただ貧乏くじを引く事は多い。そんな人生を生きていた。だから、これからもそんな風に生きるのだろうと漠然と思っていた。


 しかし今、私の命は尽きようとしていた。この王都と共に。


 事の発端は貴族達の腐敗だ。華美と享楽に耽溺し、国の政治を省みなかった我々の愚かさについに民衆が激怒し、決起したのだ。鎌や鍬、熊手など武器らしい武器など持っていなかった彼らだったが、集まれば数の暴力になる。加えて、騎士達も彼らに寝返った。醜く堕落した我々に彼らも我慢の限界だったのだ。

 その結果がこれだ。王城は炎に包まれ、殆どの貴族は無残にも殺された。私も胸を刺された。逃げる途中の路地で見つかってしまったのだ。


 出血が酷い。私は間もなく死ぬだろう。彼らもそう思ったからこそ、私にトドメを刺さず先に行ってしまった。


 独りぼっちだ。だが、それも仕方ないのかもしれない。腐敗貴族共に加担こそしなかったものの、私は奴らの悪行を見て見ぬふりをした。保身と日和見主義ゆえにだ。民草からすれば、それだけでも大罪だ。このまま息絶え、骨も残さず燃え尽きるのが道理なのだろう。


 壁を背に座り込み、瞼を閉じる。炎が近付いている。失血死よりも先に焼け死に……いや、煙による窒息死の可能性の方が高いかもしれない。

 何ともはやつまらん人生だった。だが、是非もない。そう観念した。その時だった。


「……いいえ、貴方はまだ死んではいけません」


 不意にそんな言葉が降ってきた。誰かと思い、閉じた瞼を開けると、目の前に二人の人間が立っていた。


 一人は青年。恐らくは二十代なのだろうが、痩せぎすなせいで一回り年上に見える。黒髪黒瞳のどこにでもいそうな印象の薄い見た目だが、どことなく我がノーヴィー家に似た顔付きをしている。


 もう一人は少女。白黒のエプロンドレスを纏った青髪の女の子だ。年齢は十代半ば。スカートはロング、青髪はセミロングに切り揃えている。頭部に猫耳が生えているから獣人だろう。獣人メイドだ。


「誰かね? 反乱軍の者か? だったら、ここは危ない。私になんぞ構っていないで、火の手が回る前に逃げなさい」

「いいえ、僕は貴方に会いに来たのです。ラエモン・ノヴァタ・ノーヴィー」

「?」


 私に? 一体何の用だろう。このしがない男爵――しかも反乱され、滅びゆく国の貴族である私にわざわざ会いに来る用事があるのだろうか。


「時間がないので手短に言います。僕は未来から来ました。貴方の子孫のセワッシ・ノーヴィーです」

「未来? 私の子孫? ハハ、それはまた荒唐無稽な事を言う。……それで?」

「ここには過去を変える為に来ました。今日、反乱で滅ぶポケット王国。その滅びを回避する為に」

「そうか。では、遅かったな。今、王国は滅んだところなのだから」


 話半分、というより殆ど信じず軽口で返す。未来から自分の子孫が死の間際に現れたなどというトンチキな展開、到底受け入れる気にはならなかった。そんな私の内心を知ってか知らずか、青年は真剣な表情で語る。


「いいえ、まだ手はあります。貴方を過去に送ればいいのです」

「私を? いや、こんな死に掛けを送るよりも君が行けばいいだろう?」

「僕はもう駄目です。生身での時間遡行は一回が限度。もう一回やれば肉体が崩壊します」


 そうなのか。この時代では、時間遡行タイムリープどころか時間に関する魔法は秘中の秘で、誰も何がどうなるか理解していないものだったが。


「しかし、この傷では過去に行ったとしてもその場で死ぬのでは?」

「いえ、貴方には魂だけで時間遡行して貰います。同一の時間軸に同じ人間がいると、タイムパラドックスが起きて貴方が死んでしまいますので」

「ああ、成程。この時代ならまだ君は生まれていないから時間遡行できた訳か」


 理屈は正しい。この青年の言う事を信じればの話だが。


 青年が私の前に跪く。私の胸部に右腕を伸ばし、燐光を放った。何らかの魔法を発動した証だ。光の粒子が雪のように舞う。


「王国が滅んだ後の国は酷い事になりました。反乱前よりも圧倒的に。民衆が政権を手にするには早すぎたんです。お願いします、この国を――僕達を救って下さい。二周目となる貴方の人生で」

「…………」


「彼女を供につけます。彼女は自律人形です。生身の人間ではないので二回の時間遡行にも耐えられます」

「君はどうするのかね?」


 私が訪ねると青年は笑みを浮かべた。痩せ我慢を隠した無理な笑顔だった。


「僕はここまでです。どの道、過去が変われば僕の存在は消えます。王国が存続すれば、過去に戻ろうとする僕はいなくなりますからね。未来でセワッシ・ノーヴィーが生まれても、それはこの僕ではありません」


 そんな。なんという事だ。では、この青年は自分が消える事も覚悟の上でここに来たのか。そこまでしてこの国を救いたいというのか。そこまでして私を助けに来たというのか。


「セワッシ……!」

「――ありがとう御座います。貴方が名前を呼んでくれただけで、僕は報われました。お祖先じいさん」

「――――」


 青年――セワッシの笑顔が変わる。晴れやかな、何かから解放されたような会心の笑顔だった。


 直後、私の意識は光に包まれ、更に暗転した。

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