シトリウム

天橋 詩空

消滅

〇‪✕‬〇〇年 〇月 ‪✕‬‪✕‬日

人工知能製造施設「トレス」が爆発

原因は新人の一人が誤って、ロットのご飯となるクシアと言う薬品とロットの性能を一時的に上げる薬品であるメニスを合成させてしまった事による爆発と出火


それにより世界は一瞬にして滅びた


何が起こったのだろうか、先程まで響いていたはずの人々とロットの声も染み付いた薬品の匂いもロットが動く鈍い音も何も分からなくなった。耳が痛い、大きな音がしたんだきっとそれのせいだろう。私を包み込む暖かさだけが感じ取れる。暖かいのに冷たい、これはロットの腕だろうか。必死にお父さんを呼んだ「お父さん!お父さん!」返事は返ってきた。しかしそれは、父親ではなかった。「メタ」と言うトレスの中で唯一父親に気に入られ自分の意思で動くことの出来るロットだ。「はい何でしょうか」とメタは私に問いかける。分からないよメタ…何が起こったのだろう、どうして私たち二人だけが生きているのだろう。このまま考えている訳にもいかないと思い皆が居るはずの方へメタと共に向かって歩き出した。


そこで見た景色は、地獄だった。

焼け焦げた死体にオイルの匂い、そこには爆発により吹き飛んでしまったお父さんの姿もあった。信じられないというより信じたくない。先程まであった当たり前の声も匂いも全て一瞬にして無くなった。メタは私の方をずっと心配そうに眺めている。そんな風に見ないでよ堪えているのに泣きたくなるじゃないの。メタが作られた年も確か私が生まれた年と一緒なのだから同い年なはずなのに何故かメタの方が大人に見えた。


「鈴菜…泣いていいよ」と予めプログラムされたような言葉をメタは続ける。きっとメタも私もこの事件で大切な何かを失ったんだ。二人になってしまった私たちにはもう必要のない何かを。幸いにも父親が緊急事態のために作っていた地下備蓄庫に食料が少しとクシアも少し入っていたので少なくとも一ヶ月は過ごせるだろう。「ねぇ、メタ。旅に出よう。」そう言ってメタの手を引き私はトレスを後ろに進んで行った。トレスにはもう何も無い思い出も命の音も愛されたという証も。きっともう戻ってこないだろう。大丈夫、二人でいれば何も怖く無いよ。


そう言っても食べる物も永遠にある訳では無いし行くあてもなければそもそも誰も居ない。普通ならこの静けさはむしろ嬉しいくらいだ。しかし、今はそんな優雅なことを言っていられるほどの余裕は無かった。雨が降ってはメタのシステムに異常が起こるかもしれないので公園の壊れかけの遊具の中で寝泊まりした。寒くても熱くてもメタが体温調節をしてくれるため対して気にはしなかった。「鈴菜、寒くない?熱くない?」「鈴菜、お腹すいてない?」ことある毎に話しかけてくる、まるでお母さんみたいだ。


私のお母さんは私を産んで亡くなった。

山上夏芽、お父さんは可愛くて優しい女神のような人だったと言っていた。一度は会ってみたかったな。お父さんが発見したラックと言う人間の魂がもしも本当にあるのならお母さんの魂は私を見守ってくれているかな。メタはそんな私の心を感じたのか「鈴菜…メタじゃだめなの?」と聞いてきた。正直、ダメかどうかの問題では無いのだ。唯一無二の母親という存在を何かで代替するのは無理なことなのだ。それでもメタを見て私は「メタ、ありがとう。」と答えた。


今の時代スマホという小さな一台で大抵の事は出来てしまう。しかし、全てが無くなったこの世界ではスマホなど無意味に近い。ロットは充電する必要が無く、薬品と内部にあるモーターが反応することでエネルギーが発生し動いている。つまり、薬品さえ無くならず何かエラーが起きなければロットは永遠に動き続けることが出来るのだ。特にメタはモーターの動きが他のロットよりも優れており少量の薬品でも大量のエネルギーを生み出すことが出来た。スマホが使えなくなった事からの暇つぶしか、それとも二人で世界を生きた証を書きたかったのかは自分でも分からないがお父さんの研究記録を真似て自分でも日記らしいものを書いてみることにした。


 一日目

まだ信じられない、世界がこんなにも静かだなんて。メタは何時もと変わらず正常に動いている。


 二日目 

公園の遊具が崩れて良い感じに雨を凌げそうな屋根ができていた。今日からここを拠点にしようかな。メタは昨日と変わらない。


 三日目

せっかくなので外を少し探索してみた。地図が無いからあまり遠くには行けなかった。ロットに地図機能は着いていないみたいだ。外に出ることは無かったから必要が無いものだったんだろう仕方ない。


 ‪七日目

一週間が経った、少しずつだけどこの生活にも慣れてきたかもしれない。それでも前の生活に戻りたい。

        ‬‪  

そして、色々な所に出かけた。

それでもほとんどが爆発により壊れかけていたり元の姿が想像できないほどになっていたりするので出かけると言うより歩いているだけだった。それでも何もしない訳にはいかない。それに、トレスの外に出たことがない私たちは外の世界を欲していたのだ。歩くことがこんなに好きになったのは初めてだった。しかし、私は人間でメタは機械だ。何時か限界が訪れるだろう。


 十四日目

二週間が経った、メタが軋んだ音を出した気がするんだけど気のせいかな。気のせいなら良いんだけど。


 二十一日目 

気のせいではなかった、明らかにメタの動きが鈍くなっている。なんでもっと早く気が付かなかったんだろうか。


その日は突然やってきた。

爆発による大気圏への影響なのか急に天気が悪くなることが増えていた。メタが濡れてしまってはいけないと何時も天候には気をつけていたはずなのにその日は急に雨が降ってきた。直ぐにメタと雨が凌げそうな場所まで走った。金属の軋む音、メタから聞こえる機械質な声、昔から聞き馴染みのある音のはずなのに今は怖くて後ろを振り返れない。メタ、置いていかないで。メタ、私を一人にしないで。まだ、メタと話したいことが沢山あったんだ。いや、それよりもこの滅びた世界で一人になるのが嫌で怖かった。



「1人にしないでよ。」  


「鈴菜、泣かないで。」

メタがずっとそれを繰り返している。段々音が小さくなる、あぁ消えてしまう!消えないで、また一緒に出かけよう。やっと屋根を見つけたけどメタのあちらこちらがボロボロでモーターが浸水してしまっていた。メタが小さな声で何かを伝えようとしていた。私は泣きながら必死に耳を傾けた。一言一句聞きもらさないようにと。「鈴菜、鈴菜…。」周りは雨で冷たいはずなのにボロボロで小さな声が発したその言葉はとても暖かく優しかった。私はそっとメタを抱きしめた。あの日メタがくれた温もりを返すように。涙が雨水と混ざってメタの上に零れ落ちた。      


「鈴菜」


「私の…」               


「可愛い鈴菜」


「mもu…いちど」



「またねe」



「だいsuきだよ」



「わたしのm」



そして世界には誰も居なくなった

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シトリウム 天橋 詩空 @Amahasi

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