超越者クレバーは懺悔する
ルイ・TK
超越者
——これはニュージーランドの町でのこと。
ある町外れのマンションで、そこに住んでいた家族が忽然といなくなった。
近所の人は悲鳴を聞いたという――
そんなニュースを聞いたクレバーは、何気なさを装ってホラー好きなタイソンと(無理やり連れて行かれた)ジミーと現地に向かうことにする。
もしかしたら、「あれ」のせいかもしれない。そう予期しながら。
そのマンションはすぐ近くにあった。霧に包まれていて、全貌をよく目にすることができない。
なぜかその周囲だけ曇がかっていて、おのずと薄暗しい。
ドアノブに手をかけるダイソン。
扉は擦れるような音とともに開いた。
中はクレバーが思っていたよりも整っていた。
外からわずかながら光が入ってきているようで、読み声が聞く。
きれいに掃除されているかのように、ほこりひとつない部屋。
部屋の中央には、「My Life」とだけ書かれた日記が落ちていた。
タイソンはそれを手にする。
内容は主に家族に関することばかり。
しかし、あるページのところで、ページをめくるタイソンの手が止まる。
i want to see you ghost it's halloween
偶然か、今日もハロウィンだった。
しきりにミシミシと鳴る床の音。
Help!
ページのすぐには走り書きの跡が。
これはなんかあったな。
それと突然、部屋の空気がひんやりとしてくる。
何かが頬に、何かひんやりとしたものが頬に触れる。
すると突然、部屋の奥のクローゼットのあたりから霧が漏れ出していた。
タイソンはそこに注意を向け、注意深く見つめている。
しかし、ソレ、鍵括弧ソレは逆からやってきた。
泣き崩れるジミー。
その指先は、うわぁ。
泣き崩れるジミー、その指先は入り口の方を指していた。
巨大な霧の塊。
正面には黒ずんだ反転が3つ。
これってゴーストじゃない?
戦うと戦闘不能になったジミーをかばいながら戦うタイソンとクレバー。
それは、まさに、君だった。
物理攻撃にも光にも全く動じない。
痺れを切らした。体操は。ゴースト。ゴースト。
ゴースト。
しびれを切らしてゴーストにこぶしを一発入れに行ったタイソンは、それにとりこまれてしまい。
しびれを切らしてタイソンはこぶしをふき出した。
それを切らして、タイソンは拳を振り上げる。
ゴーストに取り込まれてしまい、その姿はみるみる薄くなっていく。
助けて。
そこに現れたのは、なんと、泣き崩れていたはずのジミー。
涙を拭いた手で、そのゴーストに触れる。
すると、わずかな水滴がゴースト全体に浸透し、それは灰色の埃の塊と化した。
ゴーストはそのままあっけなく地に落ちて、フワッと風が舞う。
マジか、ジミー。助かったよ。
いや、マジで。
二人が頑張ってる中、ゴーストは、ゴーストは、ゴーストは、ゴーストは、ゴーストは。
俺だけが座ってるとね、ちょっと歯がゆいじゃない?
なんかこの部屋、空っとしてるから、ワンチャン水でも効くんかなと思ったんよ。
ははは。
しかも埃少ないでしょ?
つまり湿気がないってことや。
てことは、水、水。
ジミーが武勇伝を。
ジミーが、ジミーの武勇伝をよそに、クレバーは日記を開いていた。
その日記には、ゴーストに会いたいという文字が消えていた。
もしかして、これ。
日記に何やら文字を書き込むジミン。
それと。
すると、二木から一本の光が、天井までを突き抜ける。
空を思わせる、透き通った色。
その先は、部屋全体に広がる。
その光、一本の光は、どんどん広がっていき。
ついには、部屋全体を真っ青に照らした。
気づいたときには、三人はマンションの前に。
そこには、いなくなったはずの家族が。
トリック&トリート。
二人の無邪気な声が聞こえてくる。
そんな二人をよそに、クレバーは独白する。
「やはり、あの日記は健在だったのか。あの日、日記が消失して以来、まさかちっちゃい子供の手に渡っていたとはな。今回は悪気がなかっただろうから、幸せな生活を送れるようにしてあげたが……次は、そうとはいかないだろう」
そう言い残して、クレバーは跡形もなく消えてしまいました。
それに気づいているのかいないのか、ふたりは、何事もなかったように笑い合っています。
——
クレバーが次に現れた場所は、何もない空間でした。見渡せば見渡すほど、どこまでも続く、真っ透明な地平線。ここには、ただ一本の線の束がありました。
「ここは、超世界。」
独白する彼の目は、真下を向いていた。黒い線は幾重にも広がり、どこまでも続います。それも、一点に収束するまで。
「あの点こそが、すべての始まりだ。そこから、徐々に世界線が伸び、枝分かれを繰り返して、今に至ってる。世界線は今もなお、一定のスピードで伸び続けている。」
「なぜ、枝分かれを繰り返すのか。それは、世界線の内部にある原子が複雑に作用し合い、ある方向へ進んだり、別の方向へ進んだりするからだ。こう考えてみればいい。
例えば、ある日、たまたま雨が降ったとする。すると道路の状態が悪くなり、車がスリップして事故を起こす。結果、渋滞が起きる。その時に彼が不注意をしなかったらって考えたら、また違う宇宙の広がりが考えられるだろう。そんな些細なことでも、十分世界線の向かう先をずらしている。」
彼の目は、真下を向いていた。
どこまでも続く、くねくねとした線。それは、ある一点から始まっている。
「あの点から、この世界は始まっている。はじめの方は、かなりまっすぐ進んでいた。なぜか?それは、そのころは世界が、すべて非生物で構成されていたからだ。非生物というのは、生き物ではないもの——空気や土、そういった存在だ。
しかし、地球が生まれて、すべてが変わり始めた。そこで、生物が誕生したのだ。バクテリアが生まれ、生物が生まれ、植物が生え、恐竜が生まれるにつれて、たった一つの星の歪みは、世界線全体をゆがませるようになった。やはり、生物が現れると、世界は複雑になる。それまでは、化学反応だけで構成された、必然だけの世界が広がっていたのだからな。
生物というのは基本的に、「自分が生き残ること」と「子孫を残すこと」の二つで生きている。敵が来れば逃げ、獲物があれば追い、死骸があれば群がる。軽くプログラムされたコンピューターのようなものだ。
だが、やがて人間が現れた。人間は、この世界線を、比べ物にならないほど大きく揺らしている。なぜか? 人間は、意識を得てしまったからだ。
それまでの生物は、いわば無意識だけで生きてきた。しかし、人間は、その1%とはいえ、意識で動いている。ほとんどのことを無意識で行いながら、ときに、はっと自分自身や世界について考える。そして、なるがままにならず、自分の意思で行動する。
それが積み重なることで、世界線は大きくずれてくる。
世界線とは、数億、数兆——とてつもない数の線が集まってできているものだ。それら一本一本の線は、磁石のように互いに反発し、引きつけ合い、なんとか均衡を保っている。しかし、その中の一本でも、意識によって少し違う行動が起きれば、その変化はすべてに波及し、世界線は歪む。
人類の到来によって、その歪みは爆発的に増えた。だから、今の世界線は、こんなにもぐねぐねになっている。
「その歪みを是正できるのが、この本だ。これを使って、世界がある一定方向に傾きそうになったとき、それを修正する。それが、僕の役割だ」
「僕がいる、この長軸では、一つだけ、やってはいけないことがある。それは、線に触れることだ。今もなお伸び続けている、その線に触れれば、こなごなになって消えてしまう。だから、この本を使って間接的に世界戦を修正する。この本は、書いたとおりに世界戦を動かすことができるのだ。」
「そして、世界線の崩壊が、やがてその根元にある核にまで至れば、この超世界までもが崩壊する。ある意味、この長軸と世界線は、一心同体の存在だ。
この核から、まず超世界が生まれ、さらに核が成長することで、世界線が作られていく。では、その核が生まれる前には、何があったのか。それは、全能だといわれている。
よく、我々はビッグバンの前は何があったかに思いをはせるが、その前にあったのが全能なのだ。そして、その全能の中心から核がまかれることによって、ビックバンが起き、世界線が伸び始める。そして、その世界戦を守るようにしてドーム状の超世界が生まれる。全能の内部は、ここと同じような超世界が無数にある。
全能がこれほど多くの世界線を作っているのは、優秀な後継となる超世界を見つけ出すためだと、言い伝えられている。超世界が全能になった時、超世界の核は、全能の核となり、その中で新たな超世界の核を蒔いていく。
ここで、一つ疑問が生まれる。では、選ばれた超世界の中の核はどうなるのか。僕の推測だと、その核を本体として、これから作られる世界線のもととなる。いわば、ほかのものはすべてコピーとなる。そのたくさんある中のコピーから、またうまくいったものが一つ選ばれる、そうではないか。
そう考えると、先人たちが本を手にしていた理由がわかる。この世界線が、次なる全能の候補なのではないか。それを見守るために、僕たちは本に選ばれたのでは。本当に本に選別されてから、僕の人生は大きく変わった。
あの日、目が覚めてると枕元に寂れた本があった。表紙にはMy Diaryとだけ書いてある。それを手にするや否や、自分の意識が浮遊していくのを感じた。まずは自分を見下ろすような感じになり、そして家を抜け、そのまま引っ張られるようにして暗黒と青い境界線のはざままでに来た。見下ろすとどこまでも広がるマーブル。見上げるとたくさん散らばる彩のビーズたち。体がふっと軽くなるのを感じた頃には、青い星が見渡せるくらいのことろにいた。これが、地球... 幼子ここながら地球儀で見たまんまのそれを見てはしゃぐ。引っ張る力は弱まらない。むしろどんどん加速していって、たくさんの星々に囲まれるようになったころにはそれはもう小さな点になっていた。突然、ぱっと視界が開ける。目前には、うねうねと広がる真っ黒な線が。中にはたくさんのビーズが埋め込まれている。
『お前はこの世界線の面倒を見る気はあるか?』そこにいた若い男はそっけなく言い放った。なんといっていいかわからず、突っ立っていると、彼は乱暴に本を取り上る。いやなら次のを見つけるよ。
本を今にも世界線に向かって投げ込もうとする彼。
『まって』
幼かった自分の高い声は 思った以上に響き渡った なんだやるのか
彼に向かってうなずく。わかったまあお前も魂に選ばれた者だからな。
彼は、この世界について、古き敵について、超越者としての心得をつぶさに語る。 かくして、超世界と現世を行き来する生活が始まった。 こっちに来るのは簡単で、 メタビジョンをして宇宙から抜け出し、戻るときは、逆に世界線に焦点を合わせて、そこに思い描いた自分に意識を合わせていく。彼は超世界を超えて全能を「見る」ことができたそうなのだが、僕はそんなスキルを持ち合わせていなかった。先人の話から全能の姿を想像する日々。
そんなある日、本が消失した。ずっと超越界に保管していたはずなのだが、 していたはずだから誰かに手に渡るということはないだろう。 この超越界には僕はしかいないはずだから。 一瞬、古き敵とやらの存在が脳裏に浮かんだが、そんな雲をつかむような話を考えに入れることをやめた。ここから、本を探すために出る。誰にも助けを求めることはできない。あの凛々しい男も、若くして死んだ。自分で考えて動かなければ。
現世では、不思議と僕の存在を覚えている人はいなかった。僕がいなくなっても、後で世界線が書き換えられ、適当に人々の記憶の埋め合わせがされるからだ。 これも、あの本の作用だろう。 紙面に書かれたものを具現化させるだけでなく、世界の秩序を保つためのプログラムが内蔵されている。あるとき、 ごく一般的な学生としてニュージーランドで暮らしているとき、不可解なニュースを耳にした。 それは、まるであの本が発動したとしか思えないような話だった。
普段から 意識的に 深い幻想マニアとつるんでいたので その手の情報は早かった。
自然とマンションに行くメンツが集まり 現地へ赴いていく。
そこでまさか本を手にするとは思いもしなかった。あの時は自然を装って『家族が戻ってくる』と書いたが、無論それはその本の正体を知ってのことにほかならない。 しかしそれにしてもあのジェミーがゴーストを倒すとは。本が作り上げた世界線の歪みを世界線の側から変えられないこともないが、それを一人でやってのけたのはとんでもない。ビビリでもやるってやつか。
「ビビリとはなんだ。」
「誰だ?」
その声は、まさにジミーのそれでしたが、どこか迫力があり、先ほどのあの怖がりな純粋な少年は、どこかへ行ってしまっています。
「お前、どうしてここに」
「フフフ。私は、ただ視察に参っただけだ。よりによって、ここに目当たるものがあるとは」
その目は My Life に釘付けになっています。
「まさか、お前……トランスポーターか?
普通は不可能なはずの世界線を飛び越える輩。
先人が“古き敵”と言って、恐れていた……」
「その通りだ。時空を歪ませることができる我々は、こうやって数々の世界線に影を作って回っている。影は、いわば時空の切れ込みのようなものだ。影の中は漆黒の世界だ。ゆういつの光と言えば、影の出入り口のみだ。まるで無数の目のように散らばっているんだ。出入り口からは、どの超越世界にまでも時空を超えて最短距離で行ける。このどこでも行き来できる裏のネットワークを作って、その一冊の本を探し求めていたのだ。影にはもう一つメリットがある。影の中にいさえいれば、そっちからは俺の姿が見えっこない。」
「まあもう滅する身の君に対してこれ以上種明かしをする必要はないだろう。では、そろそろ頂戴するとするか。」
ただ地平線のみが空間に広がる。
ただ地平線のみが広がる空間から、手が伸びてきます。
影は、もうどこにでも張り巡されている。
お前に逃げ場はない。
「渡すか――」
クレバーは、本を抱きながら身をひるがえして、その手をよけます。
そして、距離をあけた隙に、すかさず本に書きつけます。
「なぜ」
その顔はあぜんとしています。
「お前は、この世界について何も知らないんだな。
まさに井の中の蛙だ。
まあ、全能に出るどころか、『見る』ことすらできないのなら、そんなもんか。
その本は、世界線の中にしか効果はない。
平行世界にいる俺には、全く効かねーんだな。
超越者になるには、100年早い。」
言い切る間もなく、ジェミーが他の影から腕を伸ばしてきます。もはや超世界は影では李めぐされていて、彼の腕はどこからともなく出てきてはクレバーを翻弄します。
防戦一方だったクレバーはフェイントをかけ、左手に持っていた本を腕が届くや否やさっと真上に投げます。
それを追おうとしたジェミーは、一瞬その半身を露にします。
クレバーも、すかさず――。
「ヴッ」
上に伸びる腕に対して、体を下から斜めに滑り込ませ、その本体をつかみ取ります。
もがくジェミーをよそに、後ろに回り込んで左手で首をがっちりと固めるクレバー。
「俺は、お前にこれを渡すわけにはいかない。
なぜか、わかるか?
お前が、この本をそこまで欲しているというのを裏返せば、お前の世界線は安定していないのだろう。」
「そこまで世界線の中が、私利私欲にまみれていて、歪んでいるならば、その世界線が――その世界線が――次なる全能になって、他の超越世界の母となるような肝っ玉があるわけがない。」
「俺は、この世界線を、そしてこの全能のすべてを守るために、ここにいるようなものだ。」
「お前ら一行は、この本を私利私欲に使うだろう。
だから、君には、今ここで一緒に朽ちてもらおう。
もちろん、本も一緒にだ。」
「おい、待て!」
クレバーの手は、ガッチリとしていて――。
彼は、全く放しません。
僕が、ずっと見守ってきた世界線。ここは情に満ち溢れていて、くねくねはしても、折れ曲がりそうになることはなかった。僕がいなくても、本がいなくても、きっと次の全能としてやっていける。
クレバーは、一も二もなく、それに触れました。
パリッと、ガラスがぶれるような音がして、数々の白い点を包み込んだその世界線は、粉々になっていきます。
その崩壊の波は、どんどん上下に広がっていき、とうとう核に達しました。
心臓が破裂するような生々しい音を立てて、核は超世界ごと破裂しました。
その衝撃で、魂の爆破。
魂の本は、飛ばされていきます。
ただ、次なる超越者を待って、ひたすらに――。
物音一つない全能の中に、パリッと音を立てて小さな玉が生まれてきます。そこから何やら黒い物体が伸びてきました。「お願いだから、世界線だけは救ってあげてくれ」全能に浮かぶ一枚の紙きれには、そう書かれていました。
超越者クレバーは懺悔する ルイ・TK @Napoleon_tk
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