第二十二章 配達完了、そしてこれからも
それから、さらに月日が流れた。
五年。十年。二十年。
正配の髪は白くなり、顔には皺が刻まれた。七十五歳になっていた。
だが、相変わらず郵便局で働いていた。
窓口に立つことは減ったが、局長としての仕事は続けていた。
「局長、お客さんです」
若い局員が声をかけた。
正配が窓口に出ると、見覚えのある顔があった。
「ルカ……か」
「はい。お久しぶりです、局長」
かつて、最初の配達を頼んできた少年だった。今は、立派な大人になっている。
「あれから、二十年か」
「はい。おかげさまで、母とは毎年会えています」
「そりゃよかった」
「今日は、お礼を言いに来ました。あの時、手紙を届けてくれたおかげで、僕の人生は変わりました」
ルカは深々と頭を下げた。
「ありがとうございました」
正配は笑った。
「礼はいらない。仕事だ」
「仕事だとしても、感謝しています」
「そうか。なら、受け取っておこう」
*
ルカが去った後、正配は局長室で休んでいた。
疲れやすくなった。年のせいだろう。
「局長」
シルフィアが入ってきた。彼女も、白髪が増えた。だが、目の光は変わっていない。
「そろそろ、引退を考えた方がいいかもしれません」
「引退か」
「あなたは、もう十分に働きました。後進に任せる時期です」
正配は考え込んだ。
「そうかもな」
「局長の座を、誰かに引き継ぐべきです」
「誰に」
「ミミはどうですか。彼女は、もう四十年以上ここで働いています。実務は、誰よりも熟知しています」
「ミミか……」
正配は窓の外を見た。
郵便局の周囲には、大きな町ができていた。二十年前とは、比べものにならないほど発展している。
「いいだろう」
「え?」
「ミミに、局長を引き継ぐ。俺は、名誉局長にでもなろう」
シルフィアは驚いた顔をした。
「本当に、いいんですか」
「ああ。俺も、もう七十五だ。いつまでも、第一線にはいられない」
正配は立ち上がった。
「ミミを呼んでくれ」
*
ミミは、正配の提案に驚いた。
「私が、局長に?」
「ああ。お前なら、やれる」
「でも、私なんかが——」
「お前は、四十年間ここで働いてきた。誰よりも、郵便局のことを知っている。自信を持て」
ミミは俯いた。
やがて、顔を上げた。
「……分かりました。引き受けます」
「よし」
正配はミミの肩を叩いた。
「頼んだぞ」
「はい。頑張ります」
*
正配の引退式は、盛大に行われた。
四王国の代表者、守護者、アクアリア諸島の首長。多くの人々が、正配を祝いに来た。
「局長——いえ、名誉局長。長い間、ありがとうございました」
ミミが新しい局長として、挨拶を述べた。
「あなたがいなければ、この郵便局は存在しませんでした。この世界も、今とは違っていたでしょう」
「大げさだ」
「大げさじゃありません。あなたは、この世界を変えたんです」
正配は苦笑した。
「俺は、ただ届けただけだ」
「それが、世界を変えたんです」
会場から、拍手が起こった。
正配は、照れくさそうに手を振った。
*
式が終わり、夜になった。
正配は、局舎の屋上で星を眺めていた。
二つの月が、静かに光っている。
「お疲れさまでした、局長」
シルフィアが隣に来た。
「名誉局長、だ」
「そうでした。名誉局長」
二人は並んで、星を眺めた。
「長かったな」
「はい」
「でも、楽しかった」
「はい」
「まだ、終わりじゃないけどな」
「え?」
「俺は引退しても、手紙を届けることはやめない。たまには、配達に出かけようと思っている」
シルフィアは笑った。
「あなたらしいです」
「だろう」
正配は空を見上げた。
「届けるべき想いは、まだまだある。俺がいなくなっても、郵便局は続く。みんなが、届け続けてくれる」
「はい」
「それが、俺の作った——いや、俺たちが作ったものだ」
シルフィアは頷いた。
「これからも、届け続けましょう」
「ああ。届け続けよう」
*
翌朝。
正配は、いつものように早起きした。
体は重いが、動けないほどではない。
窓口に向かうと、すでに列ができていた。
最初の客は、若い女性だった。
「手紙を届けてほしいんです」
「どこに」
「遠くにいる恋人に」
正配は紙とペンを差し出した。
「書いてください。必ず届けます」
女性は笑顔で頷いた。
正配も笑った。
これが、自分の仕事だ。
届けること。繋ぐこと。
たとえ世界が滅びようとも、届け続けること。
それが、転生郵便局の使命だ。
*
物語は、ここで終わらない。
郵便局は、これからも続いていく。
届けるべき想いがある限り。
待っている人がいる限り。
郵便局は、永遠に続いていく。
*
エピローグ
数十年後。
白髪の老人が、郵便局の窓口に座っていた。
郵川正配。転生郵便局の創設者にして、名誉局長。
九十歳を超えてなお、彼は現役だった。
「おじいちゃん、今日も元気ですね」
若い局員が声をかけた。
「当たり前だ。届ける手紙がある限り、死ぬわけにはいかない」
正配は笑った。
窓口に、客が来た。
小さな少年だった。
「あの、手紙を届けてほしいんです」
「どこに」
「お母さんに。遠くにいるお母さんに」
正配は紙とペンを差し出した。
「書いてごらん。必ず届けてやる」
少年は、一生懸命に手紙を書いた。
正配はそれを受け取り、目を閉じた。
届けたい。
この想いを、届けたい。
手紙が光に包まれ、消えた。
数秒後、少年のポケットが光った。
返信だ。
少年は手紙を開き、読んだ。
そして、泣いた。
「お母さんから、返事が来た……」
正配は微笑んだ。
これが、自分の仕事だ。
届けること。
繋ぐこと。
そして——
笑顔を、作ること。
「届けました」
正配は呟いた。
「配達完了」
窓の外では、二つの月が静かに光っていた。
転生郵便局の物語は、まだまだ続いていく。
届けるべき想いがある限り。
永遠に。
『転生郵便局は世界を繋ぐ ~配達不能な想いはございません~』
——完——
郵便局員×異世界転生_転生郵便局は世界を繋ぐ ~配達不能な想いはございません~ もしもノベリスト @moshimo_novelist
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