第3話・許され……?

 いつも会話の中心にいるヒメ様が小さく寝息を立て始めると、田辺さんがパソコンに打鍵する音、そして私がノートにシャーペンを走らせる音だけが部室に響いていました。

 しばらくすると外から聞き慣れた足音がこちらへ近づいてきて、ドアが優しく開かれました。

「おはようございます。遅れてごめん――っ」

 演劇部では基本的にどんなTPOでも使用される挨拶をした檻宮さんが、少し息を切らしながら私を見て一瞬、眉をひそめたのを見逃しませんでした。

「すみません、ヒメ様、さっきまで熱心にいろいろなアイディアを出してくれていたのですが……」

 同期が白熱した台本会議を繰り広げていると思って慌てて来たのに、いざドアを開けてみたらスヤスヤ寝てる光景は、流石の檻宮さんでもちょっとムッとしちゃいますよね……。

「ううん、別にそれはいいんだけど……」

 いつもの軽やかな笑みを浮かべた檻宮さんは、静かに歩いて私の隣に腰を下ろしました。

「?」

 私の頭にハテナマークが浮かんだのには理由があります。

 演劇部室は中央に正方形の大きめのテーブルが置いてあり、それを囲むように長椅子やソファが置かれており、さらにそれらを囲むように本棚や小道具入れ等が置かれています。

 窓側のソファには既に私とヒメ様が、その反対側には田辺さんが座っています。

 そんな状況下で、檻宮さんはバランスがとれる田辺さんの隣でも、空いている椅子でもなく、私の隣を選んだのです。ソファは割とぎゅうぎゅう詰めです。

「ねぇ、犬倉さん」

「ひぅ!」

 いきなり耳元で囁かれてびっくりしてしまいました。不思議な感覚……こそこそ話は文字通りこそばゆいのですね……!

「なんでしょう?」

「……今日、犬倉さんのおうち……行ってもいい?」

「今日ですか?」

「うん、今日」

「……は、はい。大丈夫ですよ」

 あまりにも急な提案でしたが、そこまで散らかっているわけでもありませんし、断る理由も……ありません。

 今までは私からお誘いしても断られていたのに、どういう心境の変化があったのでしょうか。

 とはいえ、檻宮さんが遊びに来てくれるのは私としても嬉しいです!

 今日をきっかけに檻宮さんが頻繁に遊びに来てくれたら、台本の読み合わせをしたり、アニメやドラマを一緒に観たり、手料理を一緒に作って食べたり……夢が広がりますね……!

「泊まりでも?」

「へっ……?」

 泊まり……おとまり……宿泊……? 私の家で……檻宮さんがシャワー浴びたりスヤスヤするってことですか!?

「えっと、えっと……」

「お願い、犬倉さん」

「んんっ」

 そんなに近づかれたら田辺ちゃんに怪しまれちゃ……パソコンに集中しててそれは問題なさそうですね……。

「わかりました、わかりましたから」

 とりあえずここは一旦、離れていただくことを第一に考えましょう。

「そうだ、せっかくならヒメ様と田辺ちゃんも誘いますか? 女子会しちゃいますか?」

 名案。もしかすると檻宮さんは三人でワイワイ相談してたことに寂しさを覚えているのかもしれません。

「二人は誘わない」

 即答。全然違いました。ごめんなさい。

「私一人で行く。……それでも、いい?」

 いくらヒメ様が一度寝たらなかなか起きないといえ、徐々に檻宮さんのボリュームが上がりひやひやしてきました。

 こんな風に檻宮さんと密着してるところをヒメ様に見られたら怒られちゃいます……!

「はい、それはそれで全然……」

 お客様用の布団がないことなんて一旦忘れちゃいましょう。だってねぇ、なんと言っても私たちは恋人同士、添い寝くらいしたって許されますよねぇ!?

「じゃあ決定だね。必要なものは帰りに一緒に買って行こう?」

「わかりました。……あの……檻宮さん、なにか怒ってますか……?」

 どことなく滲み出る語気を感じ取り、念のために確認をしておきます。謝るべきことがあったら迅速に把握したいですから。

「…………怒ってないよ」

 良かったぁ〜! そうそう、私の勘なんて当てにならないんですから。杞憂しててもしょうがありません。いつもの笑顔よりも陰りがあるように思えますけれどこれもきっと杞憂です!

「でも……覚悟だけしておいて」

「なんの覚悟ですか……?」

「ふふっ、秘密」

 もしかして……サプライズですか!?

 さっきまでの不安はどこへやら、とてもワクワクしてきました!

 このあとに待っている楽しい楽しいお泊まり会のためにも、今日の稽古はより一層頑張りましょう!

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へたれタレ目猫背長身女子と(元!)女子校の王子様。 燈外町 猶 @Toutoma

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