魔法少女プリティ・タンク
かきのたね
第一話
放課後の商店街。
しかし、突如として空から響く不吉な咆哮。巨大な岩石の体を持つ怪物がビルをなぎ倒し、逃げ遅れたお年寄りや子供たちが瓦礫の影で震えている。
「そんな……。誰か、誰か助けてあげて!」
るなの足は震えていた。けれど、悲鳴を聞いて黙ってはいられなかった。その時、足元にピンク色の奇妙な生物――キュピ太郎が駆け寄ってくる。
「るな! 街を救いたいなら、僕と契約するっピ! 溢れる魔力の光で、悪い奴を粉砕するっピ!」
「私が……みんなを助けられるの? ……わかったわ、やる! 私を魔法少女にして!」
るなは差し出されたコンパクトを握りしめ、救いたい一心で叫んだ。
「マジカル・フィジカル・チェンジッ!!」
まばゆいピンクの光が彼女を包む。るなの心には、可憐に舞い、杖の一振りで魔法を放つ自分の理想像が浮かんでいた。
光の中で、るなの肉体に魔法の衣装が編み上げられていく。 最高級のシルクのような質感のフリル、何層にも重なったパステルピンクのスカート、胸元を飾る大きなサテンのリボン。まさに完璧、理想の魔法少女のドレスだ。
だが、衣装が完成すると同時に、彼女の内側が牙を剥いた。
「えっ……嘘、身体が……熱い!? 何かが膨らんで……ッ!!」
しかしッ!るなの魔力量は、キュピ太郎の想像を絶していたッ!
膨大な魔力エネルギーは、すべて筋繊維の超圧縮・高密度化へと変換されるッ!
まず、可愛らしいパフスリーブの中で、彼女の三角筋がメロンのように丸々と膨張したッ!しかし、魔法の布地は破れないッ!その強靭な伸縮性により、膨れ上がった上腕三頭筋の三つの頭を、衣服の上からくっきりと、残酷なまでに浮き彫りにしたのだッ!!
「嫌ぁぁ! 腕が、丸太みたいに……! フリルが食い込んでるぅぅ!」
続いて、胸元のリボンが悲鳴を上げるッ! 大胸筋が岩盤のように厚みを増すッ!左右に激しく張り出したのだッ!!
そしてリボンはその巨大な筋肉の溝に深く沈み込み、逆に大胸筋の厚みを強調する視標と化したッ!
背中では、フリル付きのボレロが限界まで引き伸ばされていたッ!
広背筋が翼のように広がり、僧帽筋が首の付け根から盛り上がるッ!それはもはや、可憐な少女の背中ではないッ!広大な大地のような
「ナイスバルクだっピ! キレてるっピ!るな、最高の仕上がりだっピ!」
「やめてぇ! なんでお腹がボコボコしてるのよぉ!!」
ドレスのウエスト部分は、極限まで絞り込まれるッ!
脂肪が一切消失したその腹部には、彫刻刀で深く刻んだような
仕上げに、ミニスカートの下で大腿四頭筋が爆発するッ!
四つの巨大な筋肉の山が、スカートを内側から押し広げ、まるでテントのように突っ張らせるッ!レースの縁取りは、世界一太いと言わんばかりの太ももを飾る哀れな花輪へと成り果てていたのだッ!
そして、光の中から、可愛らしい一本のステッキが現れる……。
「あ、可愛い! これなら魔法で遠くから……」
期待に胸を膨らませたるながステッキを握った瞬間、彼女の上腕筋と腕橈骨筋がミチミチッと音を立てて爆発的に膨張するッ!
魔法の杖は、るなの魔力を吸い取り、瞬時に
「……重っ。重すぎて、持つのに全力で力入れなきゃいけないんだけどぉ!」
光が収まったとき、そこにいたのは……。 顔だけは清楚で愛らしい美少女。だが首から下は、完璧に可愛い衣装をパツパツに着こなした(物理的に収まっているだけの)、
「ギ……ギギガッ!?」
岩石の怪物が、その巨体を震わせた……。知性を感じぬ化物が、明らかにドン引きしているッ!
目の前に現れたのは、フリルとレースに身を包んだ魔法少女だ。しかし、そのドレスの質感は、内側の筋肉によって異常なほどに張り詰め、一歩動くたびに大腿四頭筋が波打ち、スカートの裾が鋼鉄の板のように跳ね返されているッ!
「……助けなきゃ。みんなを、助けなきゃいけないのに……!」
るなは半泣きだった。自分の腕を見れば、パフスリーブの中で上腕二頭筋が「長頭」と「短頭」に分かれ、まるで二つの砲弾を詰め込んだかのように脈動するッ!
怪物が耐えかねて、巨大な岩の拳を振り下ろした。 るなは反射的に、自分を庇うように両腕を
「来ないでぇぇ!!」
ガギィィィィィィィンッ!!!
凄まじい火花が散るッ!周囲に衝撃波が走るッ!!
怪物の拳は、るなの腕に触れることすらできなかったッ!いや、彼女の腕を守る魔法の布地を介して、その下にある前腕伸筋群の圧倒的な密度に弾かれたのだッ!!
「……え?」
怪物の拳には、深い亀裂が入っていたッ!るなの腕は、パフスリーブの中でピクリとも動いていないッ!それどころか、るなが恐怖で腕に力を込めた瞬間、上腕三頭筋が爆発的にパンプアップし、怪物の腕を逆に跳ね返したッ!
「すごいっピ! そのままサイド・チェストの要領で、魔力をステッキに集中させるんだっピ!」
「何のことだかわかんないわよ!」
るなはパニックになりながら、手近な杖を全力で振り回すッ!骨間筋、虫様筋が軋み、摩擦で杖から湯気が上がるッ!!
「あっち行ってぇぇ!!」
本来なら星屑の光が舞うはずの軌道。しかし、現実に起きたのは空気の爆縮ッ!!
発達しすぎた広背筋と大円筋の連動によるフルスイングッ!ステッキの先端についていた可愛いハートの装飾が、怪物の岩石の体にめり込んだッ!!
――ベキィッ、ドゴォォォン!!
圧倒的……衝撃ッ!!
ステッキが岩に触れた瞬間、魔法の光線が出るよりも早く、ステッキの硬度と質量が怪物の体を圧倒。岩石の巨体は粉々に砕け、さらにその余波で背後のビルにまで巨大な陥没穴が空くッ!追撃で放たれる光の柱ッ!穿つべき相手は既におらず、消滅したのは背後のビルのみッ!!
「……こ……これ、確かに魔法は出たけど……。誰がどう見ても、ただの撲殺じゃないのぉぉぉ!!」
るなは唖然として自分のステッキを見つめた……。
魔法のステッキは無傷。しかし、その下にある腕は、先ほどの打撃の余韻で総指伸筋がビキビキと波打っているッ!
「キレてるっピ! 街の平和は、るなの大胸筋が守り抜いたっピよ!」
「平和は嬉しいけど……これ、どうやって元の姿に戻るのよぉぉぉ!!」
粉砕された怪物の破片が降り注ぐ中、フリルをなびかせ可愛いステッキを肩に担いだ鋼鉄の乙女の叫びが、静まり返った街に虚しく響き渡った……。
怪物の核が砕け散り、街に平穏が戻った。
周囲で隠れていた人々から、おずおずと歓声が上がる。
「助かったんだ……」
「すごいぞ、あの魔法少女! あの細い……?腕で、岩の怪物を一撃なんて!」
「……ひっ、見ないで! お願いだからこっちを見ないでぇぇ!!」
るなは猛烈な勢いで、近くの路地裏へと逃げ込んだ。
一歩駆けるごとに、スカートの下で内側広筋が爆発的な推進力を生み出し、地面をえぐっていくッ!まさにその姿は可憐な跳躍というより重戦車の突撃であるッ!
路地裏の暗がりに飛び込むと同時に、魔法の光が粒子となって霧散していく。
「……あ、ああ……。戻った……?」
カチカチだった上部僧帽筋がふにゃりと解け、丸太のようだった太ももが、見慣れた華奢なラインへと収まっていく。 そして、彼女の身体には、魔法の力で修復され、汚れ一つない元のワンピースが残され、足元には変身に使ったコンパクトが転がっていた。
「よかった……。服、破けてない……。本当に、本当によかった……」
るなは胸をなでおろし、自分の身体を抱きしめた。
けれど、安堵の直後、全身を超・筋肉痛の激痛が襲う。
「あだだだっ! 腰が、腰が……火を噴いてるみたい……!」
「るな、お疲れさまだっピ! 衣装が無事なのは、るなの筋肉が『布地を突き破る前に敵を粉砕した』からだっピ! 最高のコスパだっピね!」
「そんな理由いらない! 凄くお腹も空いたし……もう、立ち上がれない……」
るなはその場に座り込み、ふと、無傷で戻ってきた自分の服を見つめた。
魔法で生成されたあの衣装とは違うデザイン。いつもの見慣れた服。魔法が解けた今、彼女がそれを着ても、あの圧倒的な張りも立体感も、どこにもない。
「……夢、だったのかな」
そう呟き、立ち上がろうとした時だ。
るなの視線が、自分の腕に釘付けになった。
「…………え?」
確かに腕は細く戻っている。
けれど、力を入れて重いカバンを持ち上げた瞬間、皮膚の下で上腕二頭筋がピクッと一瞬だけ、魔法少女だった時のように鋭いキレを見せたのだ。
「るな、気づいたっピか? 筋肉は裏切らないっピ。たとえ変身が解けても、魔力が鍛え上げた『筋肉の記憶』は、るなの身体に確実に積み重なっていくんだっピ!筋肉が喜んでるっピ!」
「嫌だ……嫌ぁぁぁぁ!! 私、普通の、ひ弱で守られちゃうような女の子に戻りたいのぉぉぉ!!」
夕暮れの街に、乙女の悲鳴が再び響き渡る。パンケーキも食べれなかったし明日から始まる筋肉痛との戦いと、いつまたバルクアップさせられるか分からない恐怖。
(完)
魔法少女プリティ・タンク かきのたね @inumohumohu11
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