第4話
「小吉だ。びみょー」
「あははは。あんたらしいじゃん」
「そういう陽菜はどうだったんだよ?」
「じゃじゃーん! 大吉でーす!」
亮介と陽菜がおみくじを見せ合って騒いでいる。
……あれ?
いつの間に、亮介たちと合流したんだっけ?
『恒一さんはどうだったんですか?』
ミラに言われて、視線を落とすと、手にはおみくじがある。
開いてみると、そこには凶と書いてある。
「げっ!」
幸先が悪い。
こういうのは信じないけど、気にしてしまうタイプなのだ。
内容はというと――。
長年の夢がかなう。
自由になれる。
生まれ変わったかのように新しい人生が始まる。
そんなようなことが書いてあった。
あれ?
いいことばっかりじゃん。
なんで、これで凶なんだ?
そのときだった。
不意に、視界がぐにゃりと歪んだ。
「え?」
眩暈だろうか?
オレは人混みが苦手だ。
人がごった返す観光地ではしゃいだから、人混みに酔ったのかもしれない。
あんまり慣れないことはするものじゃないな。
なんてことを考えていると――。
『私のはなんて書いてあるんですか?』
そう言って、隣にいるミラがおみくじを渡してきた。
「えーっと、どれどれ。お! 吉だよ」
『吉?』
「2番目に良いやつ」
『本当ですか?』
「ああ。えっと……運命の人と出会える、だってさ」
『凄いですね……。おみくじって』
「え?」
ミラの顔が耳まで真っ赤に染まっている。
『そ、それ、当たってます……』
そう言って、チラリとオレの方を見てきた。
そして、オレも顔が物凄く熱くなるのを感じるのだった。
* * *
スカイツリーに着く頃には、空はすっかり暗くなっていた。
辺りはライトがつき始め、煌びやかになっていく。
「計画通りだな」
心なしか、カップルが多いような気がする。
なんとなく、周りの空気がいい雰囲気になってきている気がした。
「あとは展望台で告白するだけだ」
亮介がそう意気込んでいる。
「……勝算はあるのか? 正直、お前ら、恋人っていうより友達って感じだぞ」
「うっ!」
亮介と陽菜が話しているときは本当に楽しそうだった。
だが、それは友達と馬鹿をやるみたいな、軽いノリのように見える。
「このタイミングで告白なんてしたら、ポカンとされると思うぞ」
「……」
「最悪、今の関係が壊れるかも」
「お、お前……。ここに来て、裏切る気か?」
「別に裏切るとか、そういうんじゃねえけどさ」
すると亮介は大きく、ため息を吐いた後、ガシッと肩を組んで来る。
「しょうがねえ。ここはお前を支援してやるか」
「え?」
戸惑うオレに、亮介がニッと笑う。
「ミラちゃんのこと、好きなんだろ?」
「なっ! 何言ってんだよ!」
「ばーか! バレバレだっつーの!」
「うっ!」
今度はオレの方が突っ込まれる番になった。
「陽菜は日本に戻ってくるからな。今日じゃなくてもチャンスはまだまだある。けど、お前は違うだろ?」
「……」
「ミラちゃんも日本の大学に通うとはいっても、ここを逃せば、連絡がとれなくなる」
まだ陽菜を通して、なんとか連絡をとることも可能だとは思うが、オレと陽菜は友達というわけじゃない。
その場合は亮介を介してになるし、そこまで甘えるのもなんか違う。
やはりここは、せめて自分で連絡先を交換しないと。
「俺は陽菜とスカイツリー内を観光してるからさ、お前はミラちゃんと展望台に行け」
「……なんか、すまん。本当はお前の告白のための旅行だったのに」
「気にすんなって。親友だろ」
亮介と友達でよかった。
まさに親友だ。心からそう思った。
* * *
『凄く綺麗ですね』
展望台から見える景色は、まるで別次元とさえ思えるほど輝いて見えた。
「ここから見える夜景って、日没後から30分後が一番綺麗に見えるんだってさ」
『そうなんですか?』
「うん。その時間のことをトワイライトタイムとかマジックアワーっていうんだよ」
「魔法の時間ですか。確かに、幻想的な景色ですね」
「なんか、光ってるライトがさ、星に見えるよね」
『ふふ。星空を見下ろせるなんて、素敵ですね』
うっとりとした顔で景色を見ていたミラが、不意にこっちを見る。
「でも、きっと、この時間だから綺麗に見えるわけじゃないと思います」
「え?」
『誰と一緒に見るか。その方がずっと重要だと思いますよ』
「……それって」
「はい。恒一さんだから……。恒一さんと一緒だから、こんなに綺麗に……素敵に見えるんだと思います」
「……ミラ」
ここにはまるでオレとミラしかいないような感覚がする。
まさに二人だけの世界。
幸せで、儚い、夢のような空間だ。
「あの……恒一さん」
「なに?」
『朝に飲んだ、あの飲み物、とっても美味しかったです』
きっと渋谷でのことを言っているんだろう。
あの後、一緒にお店に行って……。
あれ?
あのとき、何を飲んだっけ?
「また、あのお店に行きたいです」
「うん……」
「だからその……約束してくれますか?」
「わかった。必ず連れて行くよ」
「本当ですか?」
「ああ」
「じゃあ、その……約束のために……」
「うん。これ、ぼくの電話番号」
「ありがとうございます。それじゃ、かけますね」
* * *
「じゃあね、亮介。また連絡する」
「おう! 気を付けて帰ろよ」
「恒一さん、また今度」
「ああ、電話するよ」
「……」
「……」
「じゃあ、行こっか、ミラ」
「はい」
「……行っちゃったな」
「ああ」
「てか、お前、いつの間にフランス語、話せるようになったんだ?」
「……前からだよ」
「ふーん。まあ、いいや。俺たちも行こうぜ」
「ああ」
「……って、どこ行くんだよ。そっちは旅館だぞ」
「じゃあどこに行くんだ?」
「いや、どこにって、家に帰るんだよ。飛行機に乗って」
「家って、どこだっけ?」
「はあぁ? 何言ってるんだよ。ボケたのか? 〇△×だよ」
「ああ、そうだったな」
自宅:〇△×
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終わり。
一日で始まって終わる恋愛事情 鍵谷端哉 @kagitani
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