丙午女も祝っていいんじゃない?

つとむュー

丙午女も祝っていいんじゃない?

 お正月に泊まりに来ていた孫娘が私に尋ねる。


「ねえ、おばあちゃんって、ウマ年生まれなの?」


 あら、それって娘に聞いたのかしら。

 その通り、私は午年生まれ。六十年前の。


「そうよ、丙午だけどね」

「ひのえうま……? ってなに?」


 ごめんごめん、聞きなれない言葉を出しちゃって。

 さすがに丙午ひのえうまは知らないか、午年うまどしは知ってても。

 そりゃそうよね、十二支は使っても十干と組み合わせるなんて今はしないもの。


「それはね、特別な馬なの」

「特別な馬?」

「そうよ。男っぽくて、男に勝っちゃうって感じ?」


 本当の丙午女の迷信は「気性が激しく、夫の命を縮める」だけどね。

 それを十一歳の子供に言ってもきっとわからないから、やさしく言い換えてみる。


「男の子に勝っちゃうの? それってすごい! ウォッカみたい!!」


 えっ、ウォッカ?

 それってお酒の?

 小学生にしてすでに酒豪……なんてことはないよね?

 今度は私が目を白黒させる番だった。


「ウォッカってね、男の子みたいに走るのが速いウマ娘なんだよ」


 走るのが早い馬娘?

 そっか、競走馬のことね。

 そりゃウォッカは男どもを蹴散らしてダービー制覇しちゃうんだから、その通りかも。

 ていうか、娘は孫にもう競馬を教えてるの?

 私は再び目を白黒させた。


「ねえ、なんでおばあちゃん浮かない顔してるの? おばあちゃんはウォッカなんでしょ? それってすごいじゃん!」


 すごい? そんなこと言われたの初めてかも。

 だって今までずっと「男を食らう」なんて言われ続けてきたから。

 そんな迷信のせいで、六十年前の出生数は前年の百八十二万人から四十六万人も減って、百三十六万人になっちゃったんだから。

 今の時代なんて六十六万人しか子供が生まれないのに、そこから四十六万人も減ったら高市首相も真っ青の大惨事になっちゃう。それくらい丙午女は嫌われていたんだから。


「おばあちゃん、ウマ年で良かったね! 私、ウォッカを応援する!!」


 孫娘に言われたらこっちも笑顔になっちゃう。

 迷信なんて忘れ去られた現代。丙午だって応援してもらえる時代になったんだ。

 ——六十年の月日が「呪い」を「祝い」に変えてくれた。

 無性に嬉しくなった私は、思わず孫娘を抱きしめていた。


「おばあちゃんも頑張るよ。ウォッカみたいにね!」


 空に向かって誓う。

 二〇一九年に無念の死を遂げたウォッカ。

 そのことは孫娘には黙っていようと思った。

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