終章 かぐや、かくて書く
手始めにと、翁と媼のもとを訪れたかぐや。久々の再会を懐かしむ。二人はもう超高齢といえる歳となっていた。
かぐやは二人と談笑し、幼き日々の話など聞きながら、夕食を楽しんでいる。
「稗の握り飯!」
「ふふふ……」
二人が寝た後も、かぐやは明かりをつけ、何やらしたためている。
また翌日、翁はイロハに支えられながらかぐやを発見したという竹林に行き、当時の様子を懐かしそうに語ってくれた。
さて、思い出話もいよいよ尽きようかという頃、かぐやは翁と媼に、記憶の消去をしなければならないと切り出す。かぐやの顔は、重く沈んだ。
顔を見合わせる翁と媼。
「もちろん娘とは思っているが、神仏の化身であるということもわかっている。この世に不思議なことはあるものだと、もはや疑いようもない」
「その娘が、そう言うのであれば。悲しいですが、受け入れざるを得ないでしょう。こうしてまた会えた記憶すら残らないことは寂しいことですが……これ以上を望むのは罪というもの」
「そうじゃな……あのときかぐやを見つけなかったら……面白みのない人生を生きていただろう……ありがたいことよ」
かぐやは翁と媼を見つめ、目に涙をためている。
―――これから、多くの人にも同じことをするのだ。身内だからこそ、一番にするのだ。申し訳なさと有難さ、思い出が駆け巡る。
しかしイロハは二人の様子を見て、媼はともかく、あの往生際の悪い翁が随分と聞き分けがいいな……と不気味さを感じていた。
意を決したかぐやが、催眠装置を起動しようとしたその時、突然、翁は不思議そうな顔で言う。
「はて?どちら様でしょうか……?」
「いえ、まだ起動は……」
「はて、こころあたりが……」
「お母様まで……」
「いや知らんな……もしかして昔の知り合いかのう。すまんが……気を悪くしないでくれ。いやいや、寄る年波には勝てんな……」
耄碌したふりをする二人。イロハも気づく。
「全く、そういうことか。浅知恵がすぎるだろ」
不思議そうにあたりを見回している二人を見るかぐや。仕方なさそうに言う。
「お二方ともあまりにお年を召されたようで、記憶を失われてしまいました。これは手間が省けましたね!」
「おい!あんな下手な演技を見過ごすのか?すっとぼけてるだけだぞ!」
「まぁ、様子見ということで……お二人はまた後日にしましょう。先に他をあたりましょう」
「いやダメだろ……ウタからもなんとか言って……って!?」
そこには、このやり取りを見て、号泣しているウタがいた。
「なんでウタが泣いてるんだよ!?」
「何と……何と美しい親子愛なのでしょう……!」
「どこがだよ!?……ってか、それ、どうやって涙出しているんだ!?」
「はい、少し改造を……」
「……お前の入れ知恵だな?ウタ」
「一体、何のことでしょうか?」
「とぼけるつもりか……?」
「そんなことより、月に戻ったら、母に頼んで見た目も成長させていただこうかと思っています。そろそろ、
茫然とするイロハに翁が声をかける。
「あの」
「何だ、たぬきジジイ?」
「今からのことは覚えているってことでいいのか?」
「何の確認だよ!」
かぐやは目に溜まった涙を指で拭いながら、やり取りを笑顔で見ている。
―――かぐやは本格的な文明汚染除去の旅に出る。
「私がそうであったように、人の記憶を操作するのはなかなか難しいもの。この先、万が一、人々の記憶操作が解けようと、この出来事を書として残しておけば、「ああ、この記憶は、書で読んだものだったか」と、かえってゆめかうつつかわららぬようになるはずです。また、伝え聞いた人々も、「なんだ、書の話をしていたのか」と思いなおすことでしょう」
「まぁ確かに……あんだけ派手な騒動になっていたのが、今じゃ平穏なもんだ」
「興味深い。現在すでに、あの出来事が物語の様に伝播していますが、年月が経ち人間の記憶はさらに曖昧になるでしょうから、物語と錯誤させるのは良い手です。しかし、それ相応の手間は必要となりますよ」
「ええ、それは仕方がないでしょう。イロハ、ウタ、手伝ってくださいますか」
「ああ、わかった。でも、記憶操作をする基準は?」
「そうですね……先進文明依存症の兆候というか……まぁ、二人の判断に任せます」
変装、変身、時に姿を消し、自分や月の技術にまつわる話を聞きだし書き記すとともに、技術のことを知る人、月の技術を知る人の記憶を消して周り、技術の遺物を月に転送する。
屋敷の使用人、訓練や戦闘に参加した兵士たちや工匠たち、様々な人々と再会し、会話をして記録し、そして別れる。
兵や工匠たちの中には、自ら記憶を消去してくれと頼んでくるものもいた。物語の完成を楽しみにしている、と言ってくれる。
中には月の技術を活用しようとする人間もいたが、その場合は会話の後、イロハやウタが光学迷彩で姿を消し、記憶操作を行っていく。
かぐやが人々からの伝承をまとめ、物語を書いていく。
「なかなか大変な作業ですね……」
「想定より順調だ。で、こいつらはどうする?」
イロハはかぐやに、公達の一覧を見せてくる。
「……その人たちは願いできますか?書き上げる作業も溜まってしまっていますし、私はもう関わりたくもないので……」
「いいけど、曲者なんだろ、こいつら?後で文句言うなよ。」
「なんで私が文句を言うのです?」
「しかし、どのように接触しましょうか?」
「まぁ、そうだな……帝の勅命といって記録をかかせるか?」
「その、帝はどのようにしましょう?」
「まぁ……右大將、じゃなかった、今は大臣か。大臣に頼んで聞き出してもらうか……はたまた、かぐやに変装でもして……」
———後日
「聞いてきたぜ」
「ご苦労様です」
「手間がかかったぜ、まったく」
「皆、元気そうでしたよ」
「そうですか。あれは、もう、何年前になるか……まぁ、別に懐かしくもないんですが……皆さんも私のことなど忘れてしまっているかもしれませんので、そう書き残すことはないのかもしれません」
さて、五人の公達から集めてきたという証言の内容を見るかぐや。急に肩が震えだす。
「何ですかこれ!?私が性悪で強欲でわがままで冷たくて傲慢で世間知らずみたいに書いてますけど!」
「世間知らずはあってるだろ」
「あくまでも、彼らはそういう認識であると」
「全部彼らの自業自得じゃないですか!」
「十分予測できただろ、こんなの」
「認められません!むしろ、私が正確に、彼らの浅ましき様子を教訓として後世に伝えるべきでした!」
「おい……目的が変わってきてるぞ」
筆を取り、書きなおそうとするかぐや。
「他人の失敗を喜ぶとか……それに、こんな嫌味な歌、詠むわけないです……」
「詠んでないのか?」
「詠んでませんよ!あなたまで……それに何ですか……?息絶えた……?」
「はい、物語だと伝えたところ、より悲劇的に仕上げたいとのことだったので。」
大きなため息をつき、頭を抱えるかぐや。
「……まぁ任せたのは私なので……仕方ないですね。」
気を取り直して物語の続きを書こうとする。
「そういや帝も、かぐやと相思相愛だって言ってたぜ?」
イロハは帝の証言を手に持ち、かぐやに言う。
それを聞いて盛大に書き損じるかぐや。
「なぜそのように思われたのか……」
「さぁ?聞きたければ自分で聞いて来てくれ。もっとも、もうかぐやの事は覚えてないけど」
「え……?」
「成り行きで……記憶は消しちまった」
イロハがは口笛を吹き、場をごまかそうとしている。
ウタが諭すように口を開く。
「読み物としては事実より多少の脚色があったほうがよいでしょう。言いたいように言わせておけばいいのです」
「ですが……これは脚色とは言いません!完全に誤った情報の流布です!」
「落ち着いてください。これも物語の妙というもの。情報が錯綜するのは良い傾向です。このウタが言うのだから間違いありません」
「しかし……」
「それに、本当の心を知ってほしいという人には、自ら説明するべきかと」
「本当の心……」
怒りが収まらないかぐやであったが、ウタに冷静に言われ、少し落ち着く。
「……わかりました。この調書は、な、る、べ、く!生かしつつ、公平に、公正に記しましょう」
「……」
「……」
遂に物語は完成する。翁が光る竹を見つけるところから始まる物語―――
「……そもそも痕跡を消しにわざわざ来たってのに……償うつもりがあるのかね。」
「懸念はそれだけではありません。権力者を貶めるような内容なので、このままでは禁書とされるかもしれません」
「まぁ、そこは……受け取り手次第ですね」
かぐやはイロハとウタに、月へ戻り、女王へ除染が完了したこと、また、経過観察のために地球にとどまることを伝えるよう依頼する。
「じゃあなかぐや。みんなによろしく」
「ええ」
「かぐや、申し訳ありません」
「どうしました?ウタ」
「水の残量がないため、別れの涙を流すことができませんが、悪く思わないでください」
「……気持ちだけで、十分ですよ」
二人は宇宙船に乗り込み、月へと帰っていく。
———かぐやは歩き出す
帽子をとると、髪はすでに、肩ぐらいまで伸びていた。風になびく髪。
しばらく歩くと、見覚えのある風景、古いお寺の参道。
かぐやはいつの間にか、駆け出していた―――
真っ青に晴れ上がった空には、上弦の月が浮かんでいる……
竹取物語 ー月読飛翔編ー @kaya_taka
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