異界融合/不死身の白狐

夜明快祁

プロローグ 

 空が裂けた日のことを、誰も忘れない。

 いまから百三十七年前。世界は一夜にして変わった。


 天より降り注ぐ光。地より這い出る闇。次元の狭間が音を立てて崩れ落ち、二つの世界が激突した。人々はそれを後に『異界融合』と呼んだ。


 夜明けとともに、常識は死んだ。


 空にはドラゴンが翼を広げ、海にはクラーケンが触手をうねらせた。ユニコーンが街路を駆け抜け、ゴブリンが路地裏から這い出した。見たこともない獣が咆哮を上げ、名も知らぬ魔物が人を襲った。


 街中に現れた『迷宮ダンジョン』からは、絶え間なくモンスターが溢れ出した。


 この世界の住人と、異界から来た者たちは、互いを恐れ、憎み、殺し合った。血は血を呼び、憎悪は憎悪を生んだ。争いは半世紀にわたって続き、世界は終わりなき混沌に沈んでいった。


 ――だが、絶望の淵で、七人の英雄が立ち上がった。


 彼らは人と異界の存在、両者の間に立ち、終わりなき戦いに終止符を打った。剣を交えるのではなく、手を取り合う道を選んだ。彼らの名は伝説となり、その功績は歴史に刻まれた。


 七人の英雄が遺したもの――それは、共存という希望だった。


 そして『異界融合』がもたらしたのは、破壊だけではなかった。


 人々の多くは、魔力という新たな力を得た。炎を生み出し、水を操り、風を纏い、大地を揺るがす。かつて奇跡と呼ばれたものが、今や日常となった。


 迷宮の深部から採掘される魔晶石は、無尽蔵のエネルギー源として文明を加速させた。百年という短い年月で、人類は飛躍的な発展を遂げた。高層ビルが立ち並び、空には飛行船が浮かび、街には魔導機械が溢れている。


 混沌から秩序へ。絶望から希望へ。


 異界融合は、世界に新たな可能性を切り開いた。


 ――しかし、それでもなお、世界は完全ではない。


 魔力を持つ者と持たざる者。融合を受け入れた者と拒む者。迷宮に潜む未知の脅威。そして、忘れ去られた真実。


 百三十七年が経った今もなお、異界融合の影響は続いている。

 そして、ある一人の少年が、この世界の真実に触れようとしていた。

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異界融合/不死身の白狐 夜明快祁 @shibasenri

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