第2話 偽りの温もり

 部屋に戻ると、暖炉に火が入って、部屋が暖かくなっていた。

 暖炉の上に、鉄板が敷いてある。

 やかんが載っていて、その横でフィアスが調理している。朝ごはんか…


 フィアスが私に気が付いて、私の足元の手桶を指差した。

「身体、ちょっと汚れてるだろ、拭いたら」

 手桶から湯気が上がるのが見えた。

 お湯の中に魔石が見えた。そう言えば、暖炉もそう。

 寝室の灯りもそうだ。

 そうでした。フィアスは、この国では実力で群を抜いた元賢者。

 不便しかない一人暮らしの山小屋生活を楽しめるのは、その実力からか。


 なるほど…私はガウンを脱いだ。


 手桶を少し奥にずらせて、フィアスに背中を見せて身体を拭く。

 これは、多分、彼の好意なのだ。

 別に私の裸が見たくてじゃないと思うけど、覗き見はまた別物かもしれない。

「お優しいのですね」

 わざと身体を捻って、彼に話しかけた。

 あ、私の乳房を見た、そして調理中の肉に視線を戻した。

 もちろん、見せてあげたのだ。尻だけじゃ不満だろうし。

 クスクス笑いながら、身体を拭いた。

 男が自己中、無神経、やりたいだけ、という私の考えが少し偏っていたのか。

 彼が歳、あるいは賢者だからかもしれないけれど…


 期限まで、明日の夕方、これは、案外簡単な仕事かもしれない。


 ただ、持ち込んだ下着は、少し痛んだババシャツ、色気のない下着に、深緑色のセーターに、黒っぽいくすんだズボン。色気のへったくれもない。化粧道具も、安っぽい物が少し。まあ、疑われる物は持ち込んでいない。

 すこしは、色っぽいのを持ち込むんだった。

 どこが、フィアスに刺さるかは、私にはわからないのが、心配。

 さすがに、朝食の支度の手伝いはしないと…

 私は彼の横に立とうとする。

「じゃあ、これっ」

 と、持たされたのは蔦で編んだ籠。

 そこに丸いパンを暖炉に上から、彼は慣れた手つきで入れる。

 言われるがままテーブルへに運ぶ。

 私はテーブルを拭いて、お皿を並べる。

 さすがに、フィアスの”調理場に近づくな”オーラは分かる。

 そう言えば、スレイマンも、野営の際は、焚火での調理を仕切っていた事を思い出した。歳をとるとこだわりがあるのだろう。

 ならばと、私は部屋の端に置いた大きなリュックを開いて、ジャムと野菜の酢漬けの瓶を取り出した。棚に並んだ瓶を見て空だと思ったから。

「持ってきたの全部買うから、並べといて」

 こっちを見ていたフィアスから声がかかった。

「あ、ありがとうございます」

 なんだか押し売りをした感じがした。

 その全部に私も入っていたのだろう、もう開封済み。

 今さらながら、昨晩のは、仕事とはいえ、いや、済んだこと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

籠の鳥は、闇を喰らう<Pretender> ささやん @daradarakakuo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画