沖田総司 正月の寺にて

@Rabimama

第1話

寺院は、正月の朝から人で埋め尽くされていた。


「押さないでください。ゆっくり進んでください」


新撰組の羽織は、正月の人混みの中でもよく目立つ。

総司は、気づけば自然と危なそうな場所に立っていた。


しくしく、と小さな声。

振り向くと、参拝客の波に押され、子供がべそをかいている。

周囲は気づかず、人の流れは止まらない。


「お家の人、見つからないのかい?」


手を伸ばすと、子供はぎゅっとその手をつかんだ。

壁際へ導き、ひょいと肩に乗せる。


「おっきな声で叫ぶんだぞ。

 きっと見つけてもらえるから」


子供は最初はびくびくしていたが、

やがて必死に、親の名を呼び始めた。


ほどなくして、子供は無事に親元へ戻った。


少し離れたところで、その様子を見ていた斎藤が目を細める。


「危ないことを……両手を塞ぐなんて」

「大丈夫。お寺さんの前だしさ。

 それに、斎藤くんがいるじゃん」


沖田は、にこっと笑う。


「それに――」

「それに?」

「正月ですし」

「そういうのは、油断というんだ」

「はは、手厳しいなあ」


寺の鐘が鳴る。

低く、ゆっくりとした音が、胸の奥まで響いた。


人々は一瞬だけ足を止め、

願いを置いていく者、

まだ胸に抱えたままの者――

それぞれの思いを抱えて、また流れていく。


(みんな、必死なんだよなあ)

生きることに。

守ることに。

ただ、今日を無事に終えることに。


沖田は、そっと刀の柄に指をかけた。


さきほどの子供の、柔らかく温かい感触。

べそをかきながら見上げてきた、あの目。


油断、と言われればそうなのだろう。

けれど――


ああいう人たちを守るために、

新撰組は、今ここに立っている。


「おきたはん、今日はありがとさんです」


一日の終わり、

住職に頭を下げられ、

沖田は、ふかぶかと頭を下げ返した。

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