第2話

毎日毎日、こいつは同じことをしている。頭と穴を往復する。

たまに這いにくいのか、ものすごい遅い時もある。そんな時はやけに太っているんだ。

でも穴から出て来ると普段の大きさになってる。

捕まえようとしたがどうやっても触れない。ふざけたやつだ。

でも穴を覗くことはできた。穴の中は真っ暗。こいつはその中で苦しそうに身体をくねらせると、何かを身体からだす。

トイレで気張ってる感じで。

僕は誰も彼もにこいつがいることを知った。でも見えているのは僕だけみたいだ。あちらこちらに、穴、あな、アナ。

暗い口を開けている。


僕は通学中、電車で暇なときに座っている人の穴を覗くことにした。ただ真っ黒に見えた穴の中に、ときどき何か見える。ぼんやりと浮かんでは消える顔や景色。

いつもと同じように人の穴を覗いていたある日、ものすごい音がした。

電車が急ブレーキをかけて僕は車内の床に頭を打ち付けから倒れている。

でも、それとは違う?

何かが破裂した音のようだ。

僕はキョロキョロと辺りを見回したが、その源らしいものはない。

何かとんでもないことが起こったようだ...んっ。

その瞬間から僕の記憶はなくならない。朝起きて寝るまでの全て、大事なことも下らないことも。

そして僕の頭から、虫も、あのドアの音も、奇妙な穴も消えていた


寝ている間にもその日の記憶や過去の記憶を繰り返す。そんな夢をみる。

記憶の反芻だ。記憶を反努し苦しむ自分を見ている...を見ている自分...を見ている自分...夢....?

重なっていく苦痛の記憶。バイトで言われた「キモい」の一言。今聞いているかのように鼓膜に響く彼女の声。

周囲の嘲笑。

汚いものを見るように自分に向けられた視線。永遠に続く..無間地獄。

何日もこの状態が続いた。

そして僕は引きこもり、人との接触を避けた。苦悩苦痛の記憶が僕を飲み込んでいく。あらゆる行為が厭な記憶を呼び覚ます。何も出来なくなり生きていることに悩んだ。

やがて僕の頭の中に、この状況から脱却する方法が浮かぶ。


〇月〇日未明、〇区の路上で大学一年生のB子さん(18歳)が〇〇専門学校生A(18歳)に〇〇されました。Bさんは事件を目撃した同バイト店員により119番通報され、近くの病院に搬送されましたが、胸部と頭部に致命傷があり〇〇しました。


僕はあのとき確かに彼女の虫を手にしていた。でもどうやって自分の頭の中に入れるかまでは考えていなかったんだ。

まごまごしてるうちに、虫は僕の手の中で次々に破裂して死んでしまった。

僕が彼女に決めたのは彼女には何匹も虫がいたから。

するいよ。僕には一匹もいないのに。

一匹くれって言っただけなのに...くれなかったから力づくで奪ったんだ。

僕だってこんなことしたくなかった。

僕は裁判所でこと細かに正確に証言をした。忘れることなんて出来ないのだから。

判決は心身喪失状態と見做され不起訴処分、精神病院送致となった。

統合失調症および記憶障害、サバン症候群の一種と診断された。


でもひとつ分かったことがある。

人の頭から取り出した虫は触ることができるんだ。

またやればいい...

僕は笑いが止まらなくなった。

了。





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頭のおかしな話 @aimu-0224

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