第2話 1-2 俺の犬は女の子に囲まれてモテモテなのに、俺にはゼロ!!!

ランタン市の冒険者のギルドは、荒くれ者の冒険者や頭の足りない連中の巣窟だ。

これは大げさな話じゃない。

どうしてかって? 腕の立つ冒険者たちは、ほとんど全員がランタナ市へ移っていったからさ。

ランタナ市に何があるかって聞かれたら、即答できるぜ。

あそこには「逆さまの塔」と呼ばれる危険なダンジョンがある。

そこから放出される魔力がとんでもなく強大で、飼ってる豚でさえ、ある日突然モンスターに変身しちまうほどだ。


ランタナの住民たちは、毎日三食の後にモンスターと戦ってる。

だがその代わり、モンスターの死骸から莫大な金貨を稼げる。

一方、俺たちのいるこのランタン市にはダンジョンはない。

だが、アリアルデル王国と無法地帯ドローヴェンハイムを隔てる、鉄菱山脈のすぐ近くにある。

山脈の中心には竜の煙突があり、そこから大量の魔力が漏れ出してる。だからモンスターの狩場には困らない。


ただ、一番恐ろしいのは……モンスターじゃない。盗賊だ。

ドローヴェンハイムは無法地帯だから、俺たちは盗賊の襲撃をほぼ休みなく受け続けている。

家の玄関の階段は、血痕で乾いたことがない。

普通の人間は、同族同士で殺し合うなんてしたくないもんだ。

それなのに、男の冒険者たちはランタナにみんな行っちまったのに、女の冒険者たちは何人もここに残ってる。

理由は……さあな。


俺、リオン・ランタン。今十七歳だ。


「リオン、今日は北の森で泣き虎を始末してくれ」


「了解」


俺はギルドの受付カウンターにいる女に返事した。

そいつの顔はとことん退屈そうで、俺の顔なんて一瞥もくれず、遠くをぼんやり見つめてる。

まるでこの世に興味がないって感じだ。

こいつはシルヴィア・マジェンタ。

受付に座ってるけど、実はギルドマスターだ。

本業の仕事? 全部部下に丸投げさ。

ここに座ってる理由は、きっと独身脱出のために男を待ってるんだろう。

少なくとも俺はそう思ってる。

でも、こいつの一番最悪なところは――


「ねえ。 シルヴィアさん、この弟にもうちょっと可愛くしてやらないと、誰も家に貰ってくれないよ?」


俺がそう言うと、姉ちゃんの頭の中で何かがプツンと切れた音がした。

危険な目が俺に向き、焼けつくような熱を帯びる。


「命が惜しくないのか?」


低く野獣じみた声で言って、人間離れした角度に体を曲げ始める。

俺の背中に冷や汗が伝う。

周りの冒険者たちは全員耳を塞いで、何も見てないふりをしている。

だから俺はいつものように叫んだ。


「だって本当だろ! 顔からして怖いのに、弟いじめばっかりしてさ。父さんが紹介した男に可愛くしてたら逃げられなかったのに!」


「死ね!!!」


次の瞬間、俺は冒険者のギルドから見事に吹っ飛ばされた。

まあ心配するな。これが日常だ。朝起きて顔を洗うのと同じくらい普通だ。


「泣き虎の首持ってこないと、二度と俺の前に顔出すんじゃねえぞ!!」


荒っぽい怒鳴り声が追いかけてきて、ギルドの巨大な扉がバタンと閉まる。


「兄さん、もうあの人をからかうのやめたら?」


後ろから聞き慣れた声がして、小さな手で俺を起こしてくれる。


「サンキュ、ミトラ」


「いや、兄さんは自業自得だと思うけど」


口は悪いのに、声にはいつもの甘えた響きが混じってる。


「今日、泣き虎狩りに行くんだけど、一緒に来る?」


「ああ、あの名前からして美味しそうなやつ?」


「そうだよ……」


俺は苦笑いした。

妹が「美味しそう」なんて呼ぶけど、現実は逆だ。

あいつらが俺たちを食うんだ。

泣き虎は中型のモンスターで、素早くて鋭い爪と強力な噛みつきを持つ。

赤ん坊の泣き声を真似て人を誘い出して殺す。

一番厄介なのは群れで行動し、組織的に狩ること。

最初の一匹を倒しても、残りが一気に襲ってくる可能性が高い。


「行きたいけど、今日は自分の仕事があるの」

ミトラは可愛く微笑んで、手にした依頼書を掲げた。

無理な仕事じゃなければいいけど。


「うん、気をつけてな」


俺が言うと、彼女は頷いて歩き去った。

結局、俺はまた「あいつ」と狩りに行くのか……。

仕方ない、市场で準備を整えておこう。


準備を終えて、街の中央噴水広場に来た。

ランタンは小さな街じゃない。

広場や广场もいくつかあるけど、一番目立つのは数百年の歴史を持つ中央噴水だ。

白大理石が整然と積まれ、緑の苔や傷跡が歳月と誇りを物語る。

水音は通りすがりの人々に街の長い歴史を語りかけている。

でも今日、その優雅な水音は完全に霞んでしまった。「あいつ」のせいで。

住民の娘たちも冒険者の女たちも、噴水のそばで何かを囲んで大騒ぎだ。


「スコールちゃん、今日も可愛いね~~」


露出多めの女冒険者が、地面で転がってる何かを抱きしめている。


「スコールちゃん、毛並みふわふわ~」


女騎士が撫で続ける。


「スコールちゃん、お姉ちゃんの膝枕どう?」


言い終わらないうちに、魔導士の女の膝に顎を乗せてる。


くそっ……


俺は全力で人垣をかき分けて進んだ。

目の前にいたのは、体長約二メートルの威厳あるフェンリル。

銀青の毛に白い腹、鮮やかな赤い目の縁。

女冒険者パーティーに全力で可愛がられている。

そう、「あいつ」は五年前に俺が拾って育てた子狼だ。


「スコール!!」


俺が厳しく呼ぶと、威厳あるフェンリルが顔を上げて俺を見て、短く答えた。


「いや」


それからまた美人魔導士の膝に顎を戻す。

てめえこのクソ犬、誰が拾って育ててやったと思ってんだ!!


「今日は北の森で泣き虎を狩る任務だ。さっさと立て!」


もう一度叫ぶ。

今度は犬だけじゃなく、女たち全員の鋭い視線が俺を蜂の巣にする。

ぐっ……俺は歯を食いしばった。

家での序列は最下位でも、犬より下になるのは絶対に嫌だ!!


「お前も知ってるだろ、この季節の泣き虎は脂が乗ってて、焼いたら甘くてジューシーだ。塩、コショウ、ローズマリー、レモンの皮すりおろしもある。狩りが終わったら焼いてやる。お前、俺とミトラが二人で食ってるのを見たいか?」


それを聞くと、威厳あるフェンリルは立ち上がった。

先ほどまで可愛がってくれた女パーティーに向き直り、座って頭を下げ、可哀想な顔をする。


「ごめんなさいお姉様方、スコールはお仕事に行かなきゃいけないんです。でないと意地悪なご主人様がご飯をくれない……」


スコールは悲しげな顔で嘘を並べ立てる。

女たちはまた俺を刃物のような目で睨む。

誰も見てない隙に、こいつは俺に悪戯っぽい顔をチラリ……。このクソガキめ。


「行くぞ!!」


俺は父さんっぽい声で命令した。

少なくとも俺はランタン男爵の息子だ、少しは遠慮しろよ。でも無駄だった。


「この意地悪男!」


女たちが石を投げてきた……


北の森は鉄菱山脈との境目で、古い洞窟が多く、魔力が漏れ出している。

そこの野生動物はモンスター化する危険があるので、定期的に討伐が必要だ。

俺とスコールは森の奥へ進む。

枝が擦れる音が金属を削るように響く。

この辺の木は鉄菱の魔力の影響で異常に硬く、伐採も難しい。

山に近いほど木は頑丈になる。

だからこの森はもう一つの名前で呼ばれている――鉄菱の森。


「小動物の気配が草むらに隠れた。中型動物が急いで逃げてる」


スコールが足を止めて小声で言った。

赤ん坊の泣き声が徐々に近づいてくる。

足音は女性の歩幅に近い。

それを聞いて俺は目を細め、ミトラが作ってくれた鉄釘付き八角木棍を構えた。


「来た」


茂みを掻き分けて何かが猛スピードで飛びかかってくる。

泣き虎が爪を振り上げ、大きく開けた口で俺の首を正確に狙う。

悪いな虎、俺はお前の餌じゃねえんだよ。

構えていた俺は全力で棍棒を振り回し、泣き虎の体を木に叩きつけて気絶させた。


「十……いや、十一」


スコールが喉を鳴らし、警戒態勢で顔を上げる。


「おいおい、まさか俺たちが泣き虎の家族パーティーを邪魔しちまったってのか?」


「親族の大宴会と言った方が正しいな」


偉大なフェンリルが言う。

ああ……腹が痛くなってきた。

成獣の群れのリーダーはさらに進化する可能性があり、それがここにいる……

偽りの赤ん坊の泣き声が響き渡り、茂みから一斉に飛び出してきた。


「スコール!!」


「分かってる!!」


俺が叫ぶと、相棒フェンリルは高く跳び、魔法を唱える。

大量の氷槍が生まれ、嵐のように七匹の泣き虎を串刺しにして倒す。

俺は残り四匹を突破し、リーダーの位置へ突っ込む。

泣き虎は速いが脆い。

釘付き棍棒で飛びかかるやつらを次々吹っ飛ばす。

そして最後はリーダー。

俺と同サイズの巨大泣き虎で、白い髭が生えている。

以後「幼児老虎」と呼ぼう。

子供のような大声で咆哮し、衝撃波を放つ。

俺は棍棒で防ぐが、音波の中に含まれた何かで体中に小さな傷ができる。


「音の魔法か? でもこんなのじゃ足りねえよ」


父上や屋敷の騎士団のスパルタを思えば、こいつは子猫だ。

ミトラと比べたら、こいつのレベルは水棲ダニ並みだ!!!

俺は体を捻って衝撃波をすり抜け、至近距離で棍棒を顎に叩き込み、顔を仰け反らせて追撃。そして幼児老虎は動かなくなった。


「ふううう」


息を吐き、妹が作ってくれた棍棒で念のため頭を突き刺す。


スコールの側も終わっていた。


「よし、運ぶぞ」


「腹減った!!」


終わった途端、相棒フェンリルが遠慮なく叫ぶ。


「家に帰ってからちゃんと焼いてやるよ」


「いやだ、今腹減った!!」


俺は歯を食いしばり、手が白くなるほど握り、目が震え、呼吸が荒くなる。


「このクソ犬が……」


「やめろよリオン。噴水広場で誰が『狩り終わったら焼いてやる』って言ったんだ? 終わっただろ。約束破ったら街中の皆に言うぞ、母上や姉上にもな」


爪が食い込んで血が出る。この犬め!! 調子に乗って!!


でも母上と姉上に告げ口されたらヤバい。

あの二人は俺よりこいつのほうが可愛いんだ。ヘタしたら馬小屋に追放だ……


「分かったよ」


歯の間から絞り出し、腰の長ナイフを抜いて泣き虎の解体を始めた。


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拾った子犬を育てたら、気高きフェンリルに育ってしまって、街の女の子たちみんなに溺愛されまくり、俺は完全に無視されるんだが ゼリオニック @Xerionic

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