元カノの顔は思い出せないのに、別れ話の悲しみだけ鮮明なのはなぜなんだ。

やさい

元カノの顔は思い出せないのに、別れ話の悲しみだけ鮮明なのはなぜなんだ。

五感の中で最も記憶に残るのはどれなのだろうか。


今朝、家を出た時、まさしく小学生当時の匂いがした。季節の変わり目、秋の風、少し冷たい匂いがするが、それだけが小学生時代の思い出ではない。住んでる場所も違う。ただ間違いなく、ランドセルを背負った昔の少年がそこにいた気がする。


視覚、触覚、嗅覚、味覚、聴覚。それぞれについて「懐かしい」と思う瞬間は間違いなくある。

数年ぶりに地元に帰り当時の通学路を歩いている時、よく通った公園を見て懐かしいと思う。

軟式の野球ボールを握ると、小さい頃に通っていた地域の少年野球団を思い出して懐かしいと思う。

実家に帰ると懐かしい匂いがする。

母親が作る「お茶漬けおにぎり」という創作料理を食べて懐かしいと思う。

昔流行った曲を聴いて懐かしいと思う。


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ここ最近、昔のことを忘れている自分に気づくことが多くなった。自信のあった記憶力はすっかり鳴りを潜め、少年の頃の思い出を忘れ始めている。

卒業アルバムを見て友人を思い出すなんて、ありえないと思っていた。誰がどのクラスにいて、当時の担任は誰で、こんな事件が起こったなど、仔細に思い出すことができていた。


小学生時代にやっていたミニバスのことを思い出していた。キャプテンだったなあとか、あのチームに負けたなあとか。その拍子、スターティングメンバーの内の一人の名前を思い出せないことに気付いた。

顔は思い出せる。名字もわかる。下の名前が思い出せない。

10秒ほど考えて、「秀行」だと思い出した。


夕飯の買い出しに行った。今夜はカレーにしようと、カレールーの売り場へ行く。2ヶ月ほど前に作った時、ルーをいつもと変えて、それがすごく美味しかった。だから同じのを買おうとしたのだが、ルーの名前が思い出せなかった。

15秒ほど考えて、諦めてそれまでいつも買っていたジャワカレーを買った。


正直なところ、元カノの顔を全く思い出せない。声は思い出せる。話し方も思い出せる。思い出も思い出せる。彼女がつけていた香水の香りとか、初めてのキスの感触とか、全部覚えている。なんなら髪型は思い出せるのに、ただ、肝心の顔がさっぱり思い出せない。


人間は重要じゃないことから忘れていくと、何かの本に書いてあった。では果たして俺は彼女の顔をさして重要ではないと考えていたのだろうか。もしくは、今思っているのだろうか。


今までの30年を全て覚えておくことはできないから、もちろん忘れていくことはある。でも忘れてほしいことは覚えているくせに、忘れたくないことは覚えていない。彼女の顔を忘れるくらいなら、放課後の下校途中、別れ話を切り出された時の悲しみを忘れさせてほしい。


もう15年は経ったぜ。なあ、さすがにもう、その記憶は重要じゃないだろ?


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人間の五感の中で、最も重要な感覚はなんなのだろう。最も早く失っていく記憶はどの感覚に紐づいているものなんだろう。


俺が死ぬまで覚えていたい記憶を、俺は覚え続けていられるだろうか。

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元カノの顔は思い出せないのに、別れ話の悲しみだけ鮮明なのはなぜなんだ。 やさい @zawa-831

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