カラオケボックスの怪人「オペラくん」
学生時代にバイトしてたカラオケボックスで、お客様にあだ名をつける先輩がいた。 「スカンク」「小銭虫」「鍵っ子」「中肉中背低学歴」「ミカヅキモ」「売春ゴリラ」「叩き上げ」「シャクレ神戸」「藻」等。 他にもあったが、基本的にはお客さんにばれたら即クビのあだ名ばかりだった。
そんな失礼な先輩から「オペラくん」というあだ名をつけられた色白ぽっちゃり男がいた。
オペラくんは、毎週土曜日の19時から20時に1人で来店し、きっかり一時間で帰っていく。 毎回、ノドをいたわる為にウーロン茶を最初に3杯注文し、マイクを使わずに全力で歌い続ける。一度も腰かけることなく、真っ直ぐと画面に向かって立ち、肩幅で足を開いて、腹に手をあて声をだす。 その姿はオペラ歌手さながらで、まさにオペラくんだった。 オペラくんは親切で礼儀正しい人だった。私のようなバイトにも礼をかかさず接してくれる。むしろ過剰なぐらいペコペコする謙虚な人で、従業員の中でも密かに人気の高いキャラだった。 ある土曜日、いつもの様にオペラくんが1人で来店してきた。
「今日もよろしくですー」と深々と頭を下げる。 私はオペラくんが、お気に入りの304号室まで案内した。 注文はもちろん、いつものウーロン茶3杯。 「すぐお持ちします」と伝えると、オペラくんは「あっ、はい!よろしくですー」と愛想よく頭をさげた。 急いでフロントに戻り、ウーロン茶を3杯つくって再度オペラくんの待つ304号室へ。3階 につくと。
「あぁーーーーあぁぁぁーーーーー!かわのながれのよぉぉぅーーーにーーーー!」
というオペラくんの大きく美しくそして広がりのある歌声が、すでにフロア全体に響き渡っていた。歌っているのは美空ひばりの往年の名曲「川の流れのように」だ。 ドアを2度ノックし室内に入る。オペラくんはいつもの様にマイクを使わず、一生懸命、そして情熱的に歌っている。私はそんなオペラくんを尻目にウーロン茶を一つずつテープルにおいていく、丁度サビに差し掛かかっているところだ。そして最後のグラスをテーブルに置いた瞬間
「あぁぁぁーーーーー!あぁーーーーーーーーりがとうございますぅー」
って川の流れにのって言われた。めっちゃええ声で。 なんか分からんけどむかついた。今思い出してもごっつ腹立つ。先輩にこの話を伝えたら、「ひばりの息子」ってあだ名に変わった。
⭐️⭐️本編−血環 大阪ブラッズー⭐️⭐️
毎日19時22分更新中です。
アウトローノワール群像劇 是非宜しくお願いします
http://kakuyomu.jp/works/822139841484497687
大阪の路地裏より愛を込めて 京田 学 @kyoji0814
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