原作開始前に魔王を倒した修羅が最高の師となるまで〜ヒロイン死亡率100%の世界で教え子たちを命懸けで守り育てていたら、どうにも様子がおかしい

みなと れん(水都 蓮)@書籍発売中

第1話 凡人が修羅になるまで

 酷い世界に転生してしまった。


 どうやらここは剣と魔法とロボットの世界アーケイディアのようだ。

 あまり詳しくはないが、登場ヒロインの100%が死ぬか廃人化する、鬱シナリオが売りのスマホゲームの世界だ。


 この世界の人類は魔族によって支配されており、魔族に遭遇すれば彼らの気まぐれで生死が決まる。

 悪ければ彼らの玩具にされて死ぬか、良くても家畜化されて尊厳を奪われるだけ。


 そんな世界の貴族の凡才息子として俺は生を受けた。

 武術も学も人並み以下で、前世の俺と遜色ない出来損ないぶりだ。


「リオンよ。ジークヴァルトの剣は守護の剣である」


 そんな地獄のような世界で、俺は父――バルドルの剣に憧れた。

 俺なんかと違って、真に才能に溢れた人で、至高の騎士、剣聖、英雄、父を表す名は数多くある。


「決して、殺すための剣ではない。力なき者を生かし、守るため。そのために私たちは剣を振るうんだ」


 俺にとって、父は掛け値無しに英雄であった。

 理念だけではなく、確かな実力を持ち、父は常に魔族との戦いの最前線に立ち続けた。

 魔王が支配する世界で、帝国が存立を保ち、僅かばかりの平和を享受できたのは父のおかげと言ってもいい。


「バルドル殿がいれば、我らに負けはないな!」

「彼ならば、魔王をも倒してくれるはずだ」


 国のみんなは次々と、父を讃えたし、俺もそんな父が誇らしかった。

 遠征から凱旋する父の姿はかっこよくて、彼に憧れて木剣を毎日のように振るったりしていた。


「お前は私の息子だ。きっと、強い騎士になる。強く育てよ」


 留守がちな父と過ごせる時間は少ないが、それでも彼は目一杯俺の稽古に付き合ってくれた。

 俺は才能が無くて、物覚えも悪かったけど、父は決して俺を見放さず、根気強く剣を教えてくれたのだ。


「私だって、昔はてんでダメだった。落ちこぼれとばかり馬鹿にされていた。だから、ちょっと失敗したくらい、どうってことはないさ」


 指導は厳しかったけど、それでも失敗したときは頭を撫でて慰めてくれた。

 それに、普段の父は親馬鹿という言葉が似合うぐらい優しかった。

 俺は父と過ごすこの時間が好きだった。


 そうして幸せを噛み締めるたびに、前世を思い出す。

 俺の前世は悲惨だった。


 ――どうして、あの人のように出来ないのよッ!!


 我が母は、男に捨てられたシングルマザーで、自分を捨てた父と俺を重ねていた。

 どうしてあの人のように育ってくれない、どうして言ったことが出来ないと、毎日のように情熱的に罵られ、愛のある暴力を振るわれ続けた。

 そして、養育費の支払いが止まった瞬間、母はこんな〝出来損ない〟産むんじゃなかったと暴れ散らかし、最期は心中を図る始末であった。


 どこまでも自分中心の酷い親だ。

 だからこそ、本当の家族の温もりを教えてくれた父が愛おしく、俺も父のようでありたいと思った。


 しかし……


「い、いや……許して……もう悪いコトしないから……あたしに酷いコトしないで……いやあああああああああ!!!!!!!」


 俺は、父とは真逆のことをしていた。

 初めて人を殺したのは十歳の頃だ。

 相手は俺よりも幼く見える少女の魔族。


「どうして……? どうして、こんなことするの……? あたし、何も悪いことしてないのに……許して、許してよおおおおおおおおおお」


 だから俺は、知恵を振り絞って、少女を罠にかけた。

 これは、騎士ではない俺が、魔族を仕留めるための数少ない方策だ。


「ママ!! ママああああああああああああ!!!!」


 少女は必死に泣き叫びながら命乞いをし、親の名を叫び続ける。

 まるで、罪の無い幼子を弄んでいるかのようで、胸糞が悪くなった。


「村の人たちは……命乞いすら許されなかった……」


 だが、俺は躊躇いなく少女の首を刎ねた。

 この女に、世話になっていた村の人たちを皆殺しにされたからだ。

 狩りから戻った時、彼らは人形のように弄ばれ、動かなくなった人たちはみんな魔獣の餌にされていたのだ。


 お偉い騎士様によると、俺は異常者らしい。

 普通の人間は魔族には勝てない。それは、鼠が獅子を食い殺そうとするに等しい行いだと。

 それだけに、生身で魔族に挑む俺は正気ではないとか。


 次に殺したのは、夫婦の魔族であった。


「頼む! 妻も私も、もう誰も殺さず、静かに暮らしたいんだ! 頼む見逃してくれ!」


 二人は間違いなく、お互いを愛していたのだろう。

 人を殺さず静かに暮らしたいというのも本音だろう。だが……


「一つだけ聞く。今まで何人の人を殺した?」

「い、今更、そんなの数えられるかよ!」

「なら死ね」


 まとめて二人を斬り捨てた。

 人と同じ顔をして、人と同じような言葉を吐くなと、俺は心の中で吐き捨てた。


「嫌よ……来ないで……死にたくない……」

「この人殺しが!!」

「娘を返してよ……あなたと私たち、何が違うっていうの!」


 それから数え切れない程、魔族を殺してきた。

 罠、待ち伏せ、毒、欺罔、どんな卑劣な手段だって使った。

 そうした戦いの中で、俺は生身で魔族に対抗できる数少ない存在となっていた。


「いくら魔族が相手とはいえ、人を人とも思わない戦いぶり、まるで修羅だな」


 いつしか俺は、そんな大層な名で呼ばれるようになった。

 俺が振るうのは人を守る剣などではない。ただ憎い相手を殺すだけの殺人剣だ。

 きっと、この剣を教えてくれた父も失望していることだろう。


 だが、それでも俺が歩みを止めることはなかった。

 奴らは、俺の父を殺した。

 母を、故郷の人たちを……


 だから、俺はその仇を取るんだ。


*


 俺が五歳の頃。

 それは、俺が全てを失った日だ。


「リオン、これがお前に教えられる、最期の剣だ」


 大剣を構えるその後ろ姿は、今でも目に焼き付いている。

 突如として燃え上がる空、故郷に押し寄せる魔族の群れ。


「もし俺が死んだら、お前がこの剣を完成させるんだ」


 俺の故郷は突如として魔族に襲撃された。

 故郷を蹂躙する敵を前に、父はゆっくりと剣を引き抜き、空に陣を描く。

 やがて、空を引き裂いて現れたのは、白銀の機械兵だった。


「そして、目に刻め。騎士の戦いというものを」


 この世界では、魂を覚醒させ、魔族に対する力を得たものを騎士と呼ぶ。

 魔族に対抗できるのは騎士だけと言われるのはそういう理由だ。

 騎士は己の魂をその象徴がこの巨大ロボットだ。


「俺がいる限り、息子も妻も、守るべき領民達も、誰にもやらせん!!」


 数万はいる魔族の群れに敢然と立ち向かい、次々と魔族が屠られていく。

 騎士とは文字通り、何物かに騎乗する戦士のことだ。


 この世界における騎士は、巨大ロボット――魔導騎兵を駆り、魔族と戦う者達だ。

 それは人の肉体の延長であり、一度騎乗すれば、肉体のポテンシャルを何倍、何十倍にも引き伸ばす。


「一気に片を付けさせてもらおう」


 父は巨大な騎士剣を一度鞘へとしまう。

 そして、剣の柄に手を伸ばすと、鞘から眩いばかりの光が溢れ出した。


 それからの決着は一瞬だ。

 刃が完全に引き抜かれたその瞬間、夜空に光の奔流が描かれ、それはまるで流星のように夜空を割くと、ものの数秒で魔族たちを消し飛ばしたのだ。


 それは、間違いなく俺が憧れた至境の剣であった。

 数万の軍勢ですら一瞬で葬る。そんな芸当が出来るのは、世界ひろしと言えど父だけだ。


 だが……


「確かに君は強かった、これまで戦った誰よりも。だけど……それだけだ」


 夜空を覆う流星が、ただの一太刀で引き裂かれた。

 騎兵は真っ二つとなって爆散し、父は大地に放り投げられたのだ。


「まさか……たったの一撃で……ごふっ……」


 最後に立ちはだかったのは可憐な少女だった。

 その見た目とは裏腹に、同じ空間に立つだけで息が出来なくなるほどの威圧感を放っている。


 ――魔王。


 魔族の頂点に立つ存在で、二千年に及んで人類を支配してきた存在だ。


「ふ、ふふ……そうか……これが……魔王の剣……至高の領域か……」


 父は笑っていた。

 圧倒的な存在を前にして、これまで鍛えてきた剣の全てを否定された。

 それでも父は、笑っていたのだ。


「さあ、散るがいい」


 次の瞬間、目映い光が全てを消し去った。

 父も、母も、故郷も……俺はこの瞬間、全てを失った。


 父は確かに故郷を守り抜いた。この地上の誰よりも強かった。

 あの魔王さえ、現れなければ……


「我が憎いか?」


 何もかもが消えた世界で、少女が問う。

 白銀の長髪をなびかせながら、その紅い瞳を真っ直ぐに向けてくる。


「ならば怒れ、憎悪しろ。そして、いつか私を殺しに来い。怨嗟えんさまきべ、心火しんかを燃やすが良い」


 少女はただじっと、俺を見下ろしていた。

 俺は何故か、彼女に殺されなかった。


 その日からだ。

 俺は魔王を殺すことを誓った。


 原作は未完で、圧倒的な力を持つ魔王を倒す方法はわからない。

 だけど、そんなことは俺には関係なかった。


 俺はひたすらに魔族を斬り続ける日々を送った。

 両親と故郷の仇を取ること、そして、父の剣技を継いで完成させる。

 それが俺の人生の全てとなったのだ。


「いくら魔族が相手とはいえ、残酷ではないか!」

「彼らにも家族や仲間を愛する心があるのだぞ!」


 そんなふざけたことを言う騎士もいた。

 聞くに値しない。


 戦わない騎士は命が惜しいだけのクズだ。

 もっともらしく立派なことを言って、戦いから逃げているだけだ。

 この世界において、良い騎士は死んだ騎士だけなのだ。俺の父のように。


 そうして敵の血を浴び、死を振り撒いているうちに、俺は十五を迎えた。


「ありがとう……私を……殺してくれて……」


 俺は、少女の胸に剣を突き立てていた。

 かつて俺の人生をめちゃくちゃにした、憎き魔王だ。


 最期の瞬間、彼女もまた笑っていた。

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2026年1月21日 12:02

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