第1節-11章【相談(2)】

返信しよう。

そう決めたのは、

「最後」という言葉が、どうしても引っかかっていたからだ。


というより、

考えてみれば連絡手段はSMSしかない。

番号しか知らない相手に、

電話をかける勇気はない。

なら、文字でいい。


迷惑なんかじゃないけど、正直驚いた。

体調、どう?


短い文章。

余計な感情は入れない。

送信してから、

スマホを伏せる。


しばらくして、

また通知音が鳴った。


しばらく、雪、見れなさそうなんです。

すごく悲しいけど、お母さん、心配してて。

ごめんなさい。


……そりゃ、そうなるよな。


そう思った。

自分が親なら、間違いなく怒る。

あんな寒い中、

一人で外に出て、

倒れかけたなんて聞いたら。


でも、

彼女に悪意がないことだけは、

俺は知っていた。


雪を追いかけるみたいに、

目を輝かせていたこと。

触れた瞬間に溶ける雪を、

何度も確かめていたこと。


「見たい」

ただ、それだけだった。


外に出れないなら、

無理して見にくるなよ。

嫌ってほど降るだろ。


少しだけ、

強い言い方になったかもしれない。


でも、

それ以上、何を書けばいいのか分からなかった。


送信して、

スマホをポケットに入れる。


家路につく。


雪は、

相変わらず降っている。


足元を照らす街灯の下で、

白い粒が途切れなく落ちてくる。


……なんで俺、

SMSなんて使ってるんだろう。


普段、

ほとんど使わない。

友達との連絡は、

別のアプリで十分だ。


でも、

今回はそれが使えない。


緊急で、

電話番号だけ交換したから。


メッセージアプリの話なんて、

今度聞こう、

そんな余裕のある言葉じゃない。


今度、って。

あるのか。


歩きながら、

ふと、窓際の子の言葉を思い出す。


「最後は、最後よ」


あまりにも、

淡々としていた。


深く知れば、

戻れない。


それは、

忠告だったのかもしれない。


知らないままでいれば、

何も起きない。

この雪が溶ける頃には、

全部、思い出になる。


でも、

もう、名前も知らないままの存在じゃない。


番号がある。

メッセージが届く。

返事をしてしまった。


一歩、踏み込んだ。


雪は、

今日も変わらず降っている。


でも、

同じ雪には見えなかった。


俺は、

まだ戻れる場所に立っている。


そのはずなのに、

どこかで、

もう戻れない気がしていた。


深く知れば、

戻れない。


その言葉が、

胸の奥で、静かに残っていた。

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After the Snow❄️ ciamelt @curolia

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