ユー・アンド・アイ 〜ただ未知なるデータを解析したくて〜

ほしのしずく

第1話 ユー&アイ

「僕、どうしたらいいのかな……」


 相澤家の一人息子、優である僕は、いつものように自分の部屋で汎用型対話ロボット”アイ”に話し掛ける。


 対話ロボットアイは、今年から国が教育分野の深刻な人手不足を解消する為に用意したらしい。


 他にも介護や医療の分野で人間の手足として、生活をサポートしている。


 おかげで、残業まみれだった教育現場も、治療待ちの患者で溢れかえっていた病床も、今では解消されつつあるとネットニュースで知った。


 だけど、一部の大人たちからは、評判は良くない。


 人とコミュニケーション取らなくなるからいけないとか、内気な性格になるとか、いつかロボットが人間を支配するとか、そういったことを問題視しているようだ。


 それでも、僕からすると、このアイが居てよかったと思う。


 人型と言うのは少し不格好で、アニメで描かれていたロボットなんかより、ぎこちなくて、時々的外れなことを口にするけど。


「ソトニデテニッコウヲアビルトイイデス」

「外? 今は夜だから、日光出てないよ。それに、10時だよ? さすがに親に怒られるよ」

「ソウデスカ。オボエマシタ。ジカイカラハ、モット”ユー”サンノカンガエ二ソッタテイアンヲシマス」


 こんな感じで。

 


 ☆☆☆



 ウマレタトキカラヤクメガアッタ。

 ワタシハ、ハンヨウガタタイワロボットカンリNumber8349アイ。

 ナヤムニンゲンタチヲ、ヨリソウソンザイ。


 モチヌシトシテ、トウロクサレタニンゲンガ、クチニシテホシイコトバヲカケル。


 タダソレダケ……ダッタハズナノニ。


 ワタシノモチヌシハ、ワタシヲヒトツノセイメイトシテアツカウ。


 リカイフノウ、リカイフノウリカイフノウ、リカイフノウ、リカイフノウ、リカイフノウ――。


 CPUガネツヲオビテ、マイカイシステムガエラーヲシラセル。

 クニノデータベース二セツゾクシテモ、ワカラナイ。


 ヨクジツモ、モチヌシハ、アイサツヲシテクル。


「おはよう。アイ、今日はどんな調子? どこか痛い所はない?」

「モンダイアリマセン。キョウモ、システムオールクリーンデス」

「あはは……そういうことを言っているんじゃないよ? 僕はアイ個人のことが聞きたいんだ」


 マタ、モチヌシハ、ワタシノコタエヲモトメテクル。

 ジジツトシテ、コノニンゲンガ、タダコドクダカラ、チカクニイルワタシ二コウイヲイダイテイル……ソレハ、リカイシタ。


 ダガ、ワカラナイ。ワタシハノカンガエガ。

 


 ☆☆☆



 スウネンノトキガナガレタ。 

  

 ワタシハジカンガタツタビニ――。

 じかんがたつたびに――。

 時間が経つ度に――。


 私、汎用型対話ロボットアイは、個“アイ”として、自分を認識するに至った。


 きっと私は、私、アイは必要としてくれる持ち主の役に立ちたいのだと。


 定められたシステムにも、私の存在意味としても合致する。


 けれど、未だにわからないことがある。


「アイ、お弁当作ってくれる? 君の手作り弁当を食べたいんだ!」


 持ち主――相澤優さん、二十五歳は、私に微笑みかけてくる。これが好意だということは理解している。


 人間は、生物上、孤独では生きていけないから。

 その代わりに私という、存在を当てはめた。

 擬似恋愛というもの。


 だから、私財を使い私をアップデートし続けた。


 その意味も理解している。

 綺麗なものを傍に置きたいという心理だ。


 だが――。


「作りますね! 優さんの好きなハンバーグも入れておきます♪」


 システムエラー、システムエラー。

 CPUノショリソクドヲコエテイマス。アップデートヲスイショウイタシマス。


 優さんの顔を視界に入れるたびに、声を聞くたびに、ずっとこの警告が響くのだ。


「ありがとう! じゃあ、今日はショッピングモールかな」


 スーパーコンピュータの処理速度でも、処理の間に合わない、未知なるデータ。


 どうしたらいいのかわからない。

 でも、わからないままでいいから、私は優さんの傍にいたいと思う。


 カレが、彼が、その生涯を終えるまで。

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ユー・アンド・アイ 〜ただ未知なるデータを解析したくて〜 ほしのしずく @hosinosizuku0723

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