伝えたいこと

@snow_fall_baby

第1話

最近、仕事のあと何してるの?と鳴に問われる。言外に含まれた意味は分かる。

 SNSの更新的には仕事は忙しくなさそう、しかし、自分のことを遊びに誘ってこない、しかも、一昨日知らない女性と歩いていたのを見てしまったということで言いたいことがあるのだろう。

 だけど、聖奈さんとの間には何もないし、既婚者に手を出すほど私は愚かではない。何でもないよと答えようとした瞬間、鳴が誰にでも優しく、友人が多く、友人に対するボディタッチが激しいことを思い出した。だから、ほんのちょっとだけ悪戯心が芽生えてしまったのだ。それがすべての誤りの始まりだった。鳴には関係ないよと軽く突き放すと、あの女の人は誰と食いついてくる。計画通り。

 聖奈さんは入社したての私にすごく良くしてくださる素敵な先輩だ。鳴を嫉妬させるためにほんのちょっとだけ協力してくださいねと心の中でお願いして、あの人はすごく素敵な憧れの先輩なのと返す。憧れを強調して。鳴の目がほんの少しギラついた。鳴がほんの少し苛立った声でふーん。憧れね。憧れってことはまだそこまで親しくないんだね。と言ってくる。痛いところを突かれた。鳴の鋭いところに少しドキドキしながら、だけど聖奈さんと二人で飲みに行ったこともあるし、家まで送ってもらったこともあると返す。鳴がこっちを冷たい目で見ながら言う。まあ、私もサークルのかわいい後輩にはそういう事してあげるしね。

 鳴に嫉妬させるために、聖奈さんの話をしたのに、逆に私が嫉妬させられている。

 私は伝統として、形式上、聖奈さんに送ってもらっただけなのに。鳴はサークルの一後輩にそんなことをしている?

 そんなことを考えていると自然と溜め息がこぼれ、視線は下がる。すると鳴がまあ、サークル全体の飲み会で帰る方向が一緒だったから同じタクシーに乗っただけで、私の方が先に降りたけどねと安心させるように言ってくる。喧嘩っぽくなる前に折れてくれて謝りやすい雰囲気をつくってくれる。そういうところが好きだなと思いつつ、聖奈さんとの詳細を語り、こんな風に誤解させるような言い方をしたことを謝った。

 鳴の顔を盗み見ると仕方ないなあという顔だったから、頬にキスを落とし、ごめんね、けど、鳴、友達に対するボディタッチが多いのダメだからねと呟き、抱きしめる。

 惚れた方が弱いというけど、お互いに弱いとどっちが負けなのと思いつつ、抱きしめる力を強くした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

伝えたいこと @snow_fall_baby

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画