第8話 残された結果
違和感は、予測よりも早く訪れた。
都市の喧騒が急に薄くなり、人の流れが一方向に歪む。
足音が重なり、怒鳴り声が先に立ち、逃げる準備だけが先行している。
彼は歩きながら理解した。ここでは暴力が選択されている。
それは衝動ではなく、繰り返された結果としての選択だ。
路地は狭く、視界は建物に切り取られていた。
複数の人影が武器を隠さず構えている。
その中央に、倒れている人間がいた。動かない。
血が路面に広がり、呼吸の気配もない。
彼は即座に理解する。間に合わなかった。これは、すでに終わった結果だ。
遅れて銃声が響く。彼は反射的に介入する。弾道を捉え、回転と密度を崩す。
発砲は成立するが、結果は返らない。弾は空中で意味を失い、力なく地面に転がる。だが、最初に倒れた一人は戻らない。生命活動は完全に停止している。
「前にも同じだっただろ」
武器を失った男の一人が吐き捨てるように言った。
止められたが、俺たちはまたやった。今回は運が悪かっただけだ。
その声音に恐怖はなく、ただ慣れがあった。彼は無力化を続ける。
次の銃も沈黙し、刃物は歪んで切断能力を失う。
数秒で戦闘は終わった。生きている者は立っているが、一人だけが地面に残された。
誰も触れようとしない。逃げる者たちは振り返らない。
死は日常の延長として放置されている。彼は近づき、確認する。
この結果は自分が直接生んだものではない。だが、防げた可能性はあった。
以前に無力化した時点で、終わらせていれば。
そう考えてしまう自分を、初めてはっきりと自覚する。
人を殺せる。その選択肢が自分にあることは知っている。
だが、ここで殺す理由を、まだ定義できない。
この死が誰の責任なのか、どこまでが自分の判断領域なのかが分からない。
善悪の基準も、裁きの意味も、まだ持っていない。それでも犠牲は残った。
無力化は守れなかった。世界は壊れていないが、この一人の世界は終わった。
男たちは逃げる。また別の武器を探し、同じ行為を繰り返すだろう。
止められることを前提にした行動。
その前提を作ったのは、自分だ。彼は立ち上がる。
後悔とは呼び切れない重さが胸に残る。だが、それは明確な失敗だった。
無力化は正しかったのか。守るという判断は成立していたのか。答えはまだ出ない。彼はその場を離れる。殺さない。だが、次も同じ選択ができるかは分からない。
残された結果だけが、現実として静かに横たわっていた。
異世界から来たのに、誰にも歓迎されなかった @cho26
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