「彼らを殺したいなら良い方法があります」彼の国で殺人方法を提案してくれたのは共に働くスタッフだった。

ねここ

東アジアの隣国 中の国

話題の彼の国での出来事。


 彼の国は四千年の歴史ある国。あの広い国土の長い歴史の中で起きた壮絶な戦い、その生き残りである彼らこそ人類最強ではないかと私は思っている。これは嫌味などない。本当にそう思っている。


 その理由として彼の国に住んでいた時に起きた驚き思い出ランキングトップ三を上げる。



 第三位【ツッコミどころが多すぎて全てを受け入れた日】

 職場での昼食はいつもスタッフが調理場で作ってくれていた。食事ができたら呼びに来てくれるシステムだったため知らなかった事実。知りたくなかった事実が判明した。


 ある日、彼の国の料理でも習おうと調理場に行った。「米を炊くからシンクの下にある米袋から米をこのカップで計量してくれ」と、言われ、土嚢袋のような米袋を開けるとゴキブリがババッ!!と飛び出してきた。それも五、六匹、あまりの衝撃に声も出なかったが、スタッフは平然としている。

 

 幼い頃よりゴキブリ退治する宣伝に洗脳されている日本人の私は、白い米の上を走るゴキブリの姿がお化けよりも怖く感じるのだ。

 

 その衝撃に心臓が止まりそうだった私は「無理」と言って椅子に腰掛けた。

 彼らはそんな私を横目に、米櫃に適当に米を入れ、適当に洗い、適当に水を入れ、十分後炊飯器からは水蒸気と共に白く濁った水がじゃんじゃん溢れたが気にする様子もなく食事の準備は全て終わった。突っ込む場所がありすぎて呆然としたが、それでも彼らと一緒にそれを食べた自分に衝撃を受けた。

 

 ゴキブリに関する意識改革に成功した瞬間でもあった。

 

 第二位【やっぱりやられた!】

 ビジネスパートナーだった現地の女性。彼女は常に私を色々な食事会に連れて行ってくれた。食事会の相手はいつも経営者や政府関係の男性。高級店の個室で開催される。

 どの店に行っても赤ワインが二、三ケース山積みにされており、それを乾杯するたびに一気飲みする。一人で三本飲み、倒れそうになった時「これくらいでダウンんするなんてだめよ。吐いて吐いて血が出るまで吐いても飲みなさい。それがこの国の付き合い方よ」と言われ、私はフラフラのままトイレで吐き、またボトルを開け「めっちゃ飲む日本人」と喜ばれた。

 だが、実は何のために飲んでいたのかわからなかったが、彼女の信頼度を上げるお飾り日本人だったことが後で分かった。日本人のお友達が必要だった理由。


 彼女は体を武器にする生粋の詐欺師だった。

 

 彼女の標的は彼らだけではなかった。怪しいと思い始めた時にはすでに会社のお金を八百万以上使い込み、会社は軌道の乗る前に倒産してしまった。未だに思い出すと腹が立つ。だがおかげでそれ以来アルコールは卒業でき健康になった。

 

 第一位【殺しの提案】

 問題があるスタッフを解雇したその翌日、解雇したスタッフがチンピラ風情の男三人連れ職場に乗り込んできた。その男たちはスタッフを脅す。私は日本人だ。チンピラ風情が手を出すにはリスクが高い。彼らの様子からそれを察し、凄まれたが負けず睨み返した。絶対に目を逸らすなと自らに言い聞かせた。

 目を逸らしたら負けを認めることになる。こんな奴らに屈したくない。その思いだけだった。よく格闘技で試合前に睨み合いするアレと全く同じ状況になったが私は一歩も引かなかった。いつでも「日本人舐めんな!!」精神だ。

 

 もちろん睨み合いは勝ったが、職場はめちゃくちゃ。彼らは自分の言い分を述べ帰っていった。

 田舎から出てきたスタッフは怖がり、危険な目に遭わせてしまったことが本当に申し訳なかった。

 そんな自分に腹を立てながら肩を落とし片付けをしていた私にスタッフが話しかけてきた。

 

「あいつらを殺したいならその方法がある。その時は相談してください」

 

「!?」


 まさか普通に育った大学まで出ている真面目なスタッフがそんな事を平然と言うなど驚いた。


「それを頼める人がいる。ここを何処だと思っています? 何でもありですよ。で、彼らが決行する日、あなたは出国する。絶対にバレないから大丈夫」


 その妙に説得力ある言葉に戸惑った。普通にそんなことを提案できるなど私の常識では考えられなかった。が、スタッフが言った通り、ここは彼の国だ。

 だが、同じ国の彼らは私を心配し提案してくれている。


 やはりゴキブリご飯を食べた仲間なだけある。

 

 その優しい気遣いと温かさが心に染みる(その優しさ、温かさ、方法はかなり間違っているが)

 

「ありがとう。でもそこまで憎らしくないから大丈夫。殺したいほどの情熱は……ないかな」


 そう言ってその場を収めたが、彼の国の闇を見た気がした。


 そして、いつも職場に顔を出してくれるスタッフの旦那さん。彼は一見とても穏やかな人。その彼は殺人を犯し服役を終えたばかりの人だった。



 昨今、彼の国に対し様々な意見はあると思うが、私は、私の周りにいた人々はとても優しく大好きだった。


 私の人生で殺人の方法を唯一提案してくれた彼の国の人間。


 彼らは四千年の歴史の生き残り集団、人口が十四億、その全員がいわゆるサバイバーだ。

 そんな彼らの殺人提案は不思議ではないと納得しつつ最強な彼らに勝てる気がしない。


 島国の私が彼らに勝てるとしたら、と、考えるが、未だその想像ができないのが現実だ。

 


 

 

 

 

 

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