ルームソックスの日
ひつじのはね
第1話
目を開けたら、随分天井が高かった。
見慣れない天井ではあるが、見知らぬ天井ではない。何せここは我が家自慢の吹き抜けリビングだ。
案外、しみじみリビングの天井を見上げる機会はないものである。
布団を鼻まで引き上げ、温かく湿った空気を吸い込んだ。
ゆっくり瞬いたまぶたが、目の玉より冷たくてひやりとする。
ベッドまで行くことと、リビングにマットを敷いて寝ること、果たしてどちらがめんどくさいのか。私は、昨夜の私の奇行に戸惑いを覚えつつ起き上がった。
マットに沈む尻を感じながら、昨夜脱ぎ捨てた上着を羽織る。
布団をまくると、案の定ルームソックスが出て来た。
このルームソックスというのは、実に潔いものだ。
『私は、家から一歩も出ない』
その堂々たる宣言のような趣がある。
決意の証たるソックスを装着し、キッチンの鍋に火を入れた。
中身は夕食の残り、と言えば聞こえはいいが、所以煮物の汁と言うべきものだろう。つまり、世間一般で言うと『空』と言えるかもしれない。
しかし、確かにそこには液体が存在している。ゼロとゼロでない数字は、圧倒的にポテンシャルが違うとよく言うではないか。
見る間に沸き立つ煮汁に水を足し、少々味を調えてやって、オートミールをぶち込んだ。
とろり、粘度を増したそれがとふとふ音をたてはじめる。
さあっと溶き卵を回しいれ、微かに笑った。
見るがいい、みにくいアヒルの子が、白鳥となって羽ばたくさまを。
湯気の立つ雑炊を椀に入れ、木のさじを選ぶ。
椅子の上で膝を立てて座り、椀を膝のてっぺんに載せた。
ふいにポケットで鳴り始めたアラーム音にぴくりとして、スマホを手に取る。
いつものように時計を見て、そして今日は、にんまり笑う。
何せ、ルームソックスの日だ。
ここに、堂々たる宣言をしよう。
私はゆっくりオートミールをかき混ぜて、ふう、ふう吹き冷ました。
これでいい。これがいいのだ。
ルームソックスの日 ひつじのはね @hitujinohane
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