Sランクパーティに入った無能な俺、追放間近なので自分から辞めます。お願いだから辞めさせてくれ!
セレンUK
Sランクパーティに入った無能な俺、追放間近なので自分から辞めます。お願いだから辞めさせてくれ!
俺の名はカシー。Sランクパーティ「火竜の牙」の一員だ。
「火竜の牙」は4人パーティ。
聖剣士ライアン、上位聖職者クリアーナ、時空魔導士タニア、そして俺の構成だ。
Sランクパーティにふさわしく、災害級のモンスターを何度も葬ってきた誰もが認める冒険者集団だ。
だけど……。
「おい、カシー。お前の攻撃力じゃあトロルの再生力に追いつかない」
「カシーさん、私の
「カシーは体力なさすぎ。後ろで見学してれば?」
などなど、パーティメンバーから俺の能力不足の指摘が相次いでいるのだ。
説明するまでもない。俺は落ちこぼれ。この「火竜の牙」にふさわしい能力を持っている男ではないのだ。
能力が足りない、パーティの足かせになっている、という理由で追放された奴らの噂はたくさんある。酒場では話のネタとして鉄板だ。
だが、当事者としては酒のネタなんかになりゃしない。
「ちっ、あの野郎、まだ「火竜の牙」にいやがるのか。俺ならもっとうまくやれるのによ」
酒場で飯を食ってたら聞こえてきた侮蔑。
A級ギルド「アイスウルフ」の力闘士ボルングの声だ。
自分の方が優れている、そう思ってるやつだ。俺が「火竜の牙」にいるのが気に食わないらしい。まあ間違いなくボルングのほうが俺より強くて活躍できるのは間違いない。
よかったなボルング。俺はもうすぐ追放されるよ。
俺がみんなの足を引っ張っているのは理解している。だから追放されるのは仕方がないと思っている。
でも、追放を言い渡されるのは辛くて我慢できそうにない。
だから自分から辞めよう。
次の日、俺は大切な話があると言ってパーティメンバーを呼び出した。
「どうしたカシー。大切な話があるだなんてよ」
リーダーのライアン。頼りになるやつだ。
「もしかして体調が悪いのですか?」
「ごはんをたくさん食べないからよ。今から行く?」
女性陣も深刻な雰囲気を察してくれている。
「みんな、今までありがとう。俺は「火竜の牙」を抜けさせてもらいたい」
「「「なっ!」」」
え? なんでみんなそんな驚いた顔してるんだ?
もしかして追放する算段が付いてたのに先に言われたのが気に入らなかったのか?
そうだとしたら申し訳ない。でも、言ってしまったんだから仕方ない。すまない!
「クリアーナ!
「はい!」
「タニアはクリアーナに
「もうやってる!」
え、おい、何を始めるんだ? 街中だぞ?
「クリアーナ、分かってるな!」
「はい! 命の続く限り、かけ続けます!」
クリアーナの体から眩しい光が吹き上がり、普段は細目でニコニコしているその顔が、カッと目を見開いたかと思うと、俺に
この魔法は戦闘時のステータスを向上させるとともに、怯えを無くしてイケイケで戦えるようにするものだ。
「クリアーナ、1日でも2日でもいけるわよ。あたしの魔力を甘く見ないでね」
「はい、これならカシーさんも!」
なななななな、にににににに、おおおおおお!
「もう大丈夫だカシー。気の迷いなんか無くなるさ。お前は「火竜の牙」の大切な仲間だ。抜けるなんて言わないでくれ。そうだ、今日は奮発してカタストロフドラゴンの討伐に行くか!」
馬鹿な事言うなよ!?
俺はお荷物だって言ってるんだ。お前たちは良くても俺は死ぬだろ!?
もうやだ。適性なパーティに入りたい……。
そもそも俺がこの「火竜の牙」に入った経緯は、田舎から出てくる途中で魔物に襲われたところを3人に助けてもらったからだ。
剣士としては並以下の俺。キラキラとした3人にあこがれて、その場でパーティに入らないかと誘われたので即決したことによる。
それが1か月ほど前のことだ。
ギルド発足時からの初期メンバーというわけでもない。同じ村の仲間だったというわけでもない。
付き合い始めて日の浅い他人。それが彼らと俺なのだ。
だから、パーティを抜けると言っても簡単に認められると思ってたのに!
「ぎゃぁぁぁぁぁ! ブレスくるぅぅぅぅぅ!」
なんで目の前にカタストロフドラゴンがいるんだよ!
「
「ナイス、クリアーナ! あたしだって!
クリアーナの魔法でドラゴンの炎がかき消され、タニアの魔法でドラゴンの下半身が消失する。
「おいタニア! 素材が取れないだろ!」
「なによ! 危険の除去が第一よ!」
「馬鹿野郎! 安全は最低ラインだ! 大事なのは素材だよ素材!
そう言って、ライアンはカタストロフドラゴンの首を切り落とした。
なんだよこれ……。
打ち上げを終えて報酬を山分けして。そして宿への帰途の途中。
「おい、カシー。お前、いつまで「火竜の牙」にいやがるんだよ! 早く抜けろ!」
ガタイのいい力闘士のボルングに絡まれた。
人間かと思う程背も高く横も広い。オーガと言っても通じるくらいだ。
「俺だって抜け――」
途中まで言った所で――
「ボルング! うちのカシーに何してやがるんだ!」
ライアンがやってきた。
「ちっ、俺は諦めねえからなっ!」
そう言って捨て台詞を残して尻尾を巻いて逃げ去ってしまった。
言いたいことばかり言いやがって。俺だって抜けたいよ!
他の冒険者からの視線も痛い。
パーティを抜けたいとギルドの職員に相談したこともあったが、ニヤニヤと笑みを浮かべるだけで取り合ってもらえなかった。
俺がわざと不祥事を起こしてパーティから追放される方法も考えたが、それは駄目だ。
パーティの名に傷がついて迷惑がかかるからな。
とすると物理的な方法しかない。
俺はとあるダンジョンの奥深くにいる時にその方法を実践しようとした。
よくある追放ネタでは、ダンジョンの奥底に置き去りにされるというのがある。
もちろんライアンたちがそんなことをするわけはないので、俺が自主的にダンジョンの奥底に残って実行しようというわけだ。
クエストを終えた後の最深部から地上への転移魔法陣。
「終わったな。さあみんな帰ろう。先に乗ってくれ。俺も後から行く」
先に三人を行かせる作戦だ。
だが……。
「カシーさんが最後だと危険です」
「そうそう、あたしらと一緒に行こ」
左右の腕をクリアーナとタニアにがっしりと掴まれてしまった。
後ろを振り返ると、ライアンが良い笑顔でお見送り。
そしてそのまま転移魔法陣へ連行されてしまい、計画は失敗に終わった。
でも俺は挫けない。
次の作戦は「逃げる時に囮にされる作戦」だ。
よくある話では、魔物に囲まれて大ピンチな時に、囮にされてみんなに捨てられて死ぬやつだ。
俺は別のダンジョンの深層で、わざとモンスターを集めた。
「み、みんな! モンスタースタンピードだ! 逃げろ!」
魔物を背に走る俺。
「この数じゃ無理だ! 俺が囮になる! みんなは先に逃げてくれ!」
仲間たちの顔がこわばった。
いいぞ、その調子だ。でもまてよ、これ、あいつらが本当に逃げたら俺はどうやってこの危機から脱するんだ?
「うおおお、
「神よ! カシーさんを守り給え!
「カシー。私の背中を見ておきなさい。
王国を滅ぼすほどの量の魔物をことも無さげに殲滅しやがった……。
そしてクエスト終了後の帰り道。
「おいカシー!」
失意のどん底なのでトロルと見間違えたが、ことあるごとにいちゃもんを付けてくる力闘士のボルングだった。
「お前、危ない所だったんだってな! もうパーティを抜けろ!」
抜けろ抜けろ抜けろ抜けろって、いつもうるさいな!
俺だってな!
「抜けるよ! 抜けてやる!」
「お、おう、まじか……」
ん? なんだ、様子が変だな。抜けるんだから喜ぶと思ったんだが?
「じゃ、じゃあよ、うちのパーティはどうだ?」
「え?」
「俺のパーティに入ったら、いつでも好きなクエにつれていってやるぞ? 採取がしたいならする。他にはなんだ? 金か? 女か? 俺が都合できるものなら何でも都合してやる!」
なんだ? ボルングは俺の事を嫌ってたんじゃなかったのか!?
「こら、ボルング! お前また!」
ライアンがやってきた。
「なんだよ! カシーを独占しやがって! お前らのパーティは不満なんだとよ! だから俺のパーティの方がいい条件を出して、カシーに入ってもらうぜ!」
「なんだと! だったらうちはこうだ!」
やいのやいのと言い争いが始まった。
そんな様子を一人のギルド職員が見ていた。
(ああなるわよね。だって彼、守ってあげたくなるもの。華奢で身長もちょっと低くて、中性的な顔立ちで、幼さが残ってて。特別なスキルなんて持ってないんだけど、前向きでがんばってるし。それに、背伸びして自分の事を俺って言ってるところも可愛いわよね。小さなことに気づいて気を回してくれるし、そんなにじみ出るやさしさは皆には隠せないわ。もちろん私にもね)
「ほら、あなたたち、争うならパーティを解散させますよ! そうなったら、カシー君はギルドで働いてもらおうかしら」
「横暴だ!」
――おわり――
Sランクパーティに入った無能な俺、追放間近なので自分から辞めます。お願いだから辞めさせてくれ! セレンUK @serenuk
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます