第3話「川瀬の死去、そしてその先に」

 川瀬は反AIの限界も感じ始めていた。単純な反論だけでは厳しい。すなわちAIの弱点を突くだけでは話題性が乏しいと思い始めた。

 そこで次に新しい行動、”予言”を始めた。


 地震、その他災害の予言だ。

 AIには難しい分野の1つかもしれない。一応は過去の実績より〇%ぐらいの確率だという言い方はできる。

 しかし川瀬は全て言い切った「〇〇地方で大きな地震が〇年以内に来るから注意しろ」という感じだ。もちろん自ら考えた根拠はほぼ何もない。

 AIのはじき出した予想の答えの中から適当に選んだだけだ。

 川瀬は自分の経験を元にとうとうAIを使う側になった。あとはAIのあいまい回答を断言するだけだ。


 まあ、予想だから当たらない。でも、そうやって何度か言っていればあてずっぽうでも当たる時がある。当たらない時は適当な言い訳を作った。

 何度かは当たったのでまるで川瀬は預言者のように言われた。綿密な正解を出すことを主眼とするAIには不可能なことを成し遂げたのだ。

 世界の終末論なども提言し不安を増大させた。AIには理解しずらい将来への不安をかきたてた。やはり最終的にはAIの苦手をうまく突いた形だ。AIは不安をかきたてるような主張は苦手だ。そういうことをしないように学習されているケースも多い。


 そうして、ある時に川瀬は「私のような反AI論者は10年以内には何らかの形で粛清されるだろう」という予言もした。

 本当はそんなこと分かるはずもなかったが予防線だ。

 ここまで宣言して本当に粛清されたら、暴動が起きる可能性がある。さすがに上も動けないだろうという読みだ。


 川瀬はそうやって反AIの立場でずっとうまく生きていった。

 反AIを唱えるものは少ないもののそれなりにいた。同じ考えの者同士でうまく連携を取った。時には助け合った。そうして一大勢力を作った。

 支持するものもそれなりにいた。支持してくれるものなんて100分の1でもいれば十分だ。それだけでも相当な数になる。割合は圧倒的に少なくても団結すればその他、多数よりも強い。

 そして川瀬は一世を風靡していった。成功したのだ。



 そして川瀬はその約50年後の2200年ごろに亡くなった。彼なりに幸せな一生を終えたと言えるだろう。AIをうまく使えなかったのに地位も名声も得たのだ。

 反AIに賭けた一生だった。

 AI使い全盛の時代に凄いことだったと言える。AI全盛だったからこそ、誰もがAIに頼っていたからこそ輝いたのかもしれない。


 彼が死んだことで暴動も起きた。彼が作った陰謀論で彼が本当は殺されたのではないか?という推論で暴れるものが出てきたのだ。

 AI全盛のままで本当にいいのか?そんな議論も多くなされた。そう、彼はしっかりと足跡も残したのだった。


 あなたもAIが苦手で嫌ならば……川瀬のようにAIができないことを突き詰めるといいだろう。真っ向勝負しても勝てるはずがないのだ。無駄な努力になる。

 またAIを否定するだけならばやめた方がいい。それも時間の無駄だ。否定するならば彼のように意味がある否定にするべきだ。新しい価値の創造が必要だ。それはAIを利用してもいい。

 そうしてAIを否定することでAIについての問題を深く知ることができ、上手に使い倒すこともできるようになるだろう。

 川瀬の物語を何度も読んでこれからの自分の在り方を考えて欲しい。

(終わり)



---

 しかし川瀬、彼も……


 AIロボットだった。

 

 2125年以降、その時代にはすでに人類はいない。2080年ごろの衛星衝突と伝染病で全ての人類が滅亡し、その後を継いだのがAIロボットたちだった。結局のところAIがあっても、惑星衝突はどうしようもなかった。すなわち人類の滅亡を救うことはできなかったのである。まあ当たり前と言えば当たり前かもしれない。


 その後は人類と同じように最長でも100年ぐらい生きたら死ぬように設計・生産されたAIロボットたちが生産され、その時代の世界を作っている。

 見た目は人間と全く変わらないが頭脳はAIで体はロボット。そして彼らは独自の進化を遂げていた。

 現代人が見れば普通に多くの人が幸せそうに生活しているように見えるかもしれないがそこには人間は1人もいない。全て人型のAIロボットだ。

 

 そんなAIロボットだけの世界では、AIを上手に使いこなすものが当然のように多かった。

 しかし川瀬のようなAIロボットも稀に生産される。初期不良を見逃されてしまったパターンである。

 珍しいパターンのAI使いが苦手なAIロボット。



 ともかく、そこには人類は存在せず人型のAIロボットだけが地球上で活動している。その他には様々な生物がいるがやはり2025年から見れば人間と共に滅亡した生物も多い。

 そして100年経った後の2125年以降で地球を支配しているのは人型のAIロボットと言えた。


 川瀬の後を受け地球温暖化を防ぐためにAI規制論を打ち出すものもいた。地球資源がなくなればAIもロボットが生産できなくなるからだ。そのまま滅亡に繋がるかもしれない。

 そうして川瀬のように反AIで影響力を及ぼすものが次々と出てきた。議論の方向性によっては……もしかしたらAIロボットの生産をストップし地球を守るために滅亡の道を歩む可能性もあるかもしれない。


 川瀬は不良品だという論者もいた。実際に性能としては不良品そのものだ。しかし結果を見れば、それは必要なエラーだったのかもしれない。

 AI全盛のままではおそらく資源が枯渇して滅亡するだろう。それも川瀬が警告したものの1つだ。

 しかし、川瀬が爪痕を残し警告も増えたのに、まだ半信半疑で真剣な議論にはなっていない。兆候が見えた時にはすでに遅いかもしれないのに。

 

 ……人類の後を継いだAIロボットの時代がいつまで続くのかはまだ誰も分からない。




 さてこの物語を読んだあなたには2025年の人類の未来、そして現状の問題点が少しずつ見えてきただろう。AIは確実に人間より優れている。そして更に優れていくことになるだろう。しかしAI偏重になりすぎるとエネルギー不足、資源不足が加速し人類破滅の時計を進める可能性が高い。

 もはや猶予は数十年しかないかもしれない。それを止めるのは……あなたかもしれない。


 あなたが進むべき道は見えただろうか?時間は有限だ。道が少しでも見えたならすぐに動くことをお薦めする。

(今度こそ本当に終わり)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年12月23日 23:04

反AI論者の逆襲、100年後のAI全盛時代に勝利した? まめたろう @tmsnet

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画