何度も夢に出てくる場所
CHIDORI
何度も夢に出てくる場所
その場所は、小さい頃から何度も夢に現れる。 踏切を渡った先にある、白を基調とした駅前広場。 老若男女、さまざまな人たちが行き交っている。
左に進むと、森へ続く道がある。 昔行ったキャンプ場へ向かう道に、どこか似ている。
その道を進むと、古い本屋さんがある。 外にはたくさんの本が並び、まるで古書店のよう。 おじいさんとおばあさん、そして娘さん。三人で切り盛りしている。
本屋の前は砂利敷きの広い駐車場で、たまに白いバンが停まっている。
本屋に入ると、おじいさんとおばあさんが、いつもお茶を飲んでいる。 この光景を、幼い頃から何度も夢に見てきた。
昨日久しぶりに、この場所が夢に出てきたのだ。
おじいさんと、少し歳を重ねた娘さんが、わたしを出迎えてくれた。
娘さんは、こう言った。
「ずいぶん久しぶりに来たね。」
いつもお茶を飲んでいた場所には、おばあさんの写真とお花が飾られていた。
娘さんは続けた。
「最後に来た日から、もう何年も経ったからね。お母さんは数年前に亡くなったのよ。」
夢の中なのに、わたしは、胸が少しきゅっとなった。
「また来るね。」
そう言って、目が覚めた。
Another
彼女は、たまに、ここに来る。 初めて来たときは、二つ結びをしたあどけない顔だった。 少し歩き疲れたように、本屋の前で足を止める。
長年売れずに少し日に焼けた本を、じっと眺めていた。 本が好きなのだろう。 キラキラとした瞳が、本棚の端から端へと忙しなく動いている。
「お茶でも飲む? こっちの方が涼しいよ」 そう声をかけると、一瞬戸惑った顔をしたが、すぐに「うん!」と明るい声が返ってきた。
店の奥にはテレビがあり、父と母がゆっくりお茶を飲んでいる。 「いらっしゃい」 高齢の母が声をかけると、彼女は少しもじもじしながら「こんにちはぁ」と挨拶した。
その直後、彼女はふわっと消えた。 また、来るだろうと思った。
その後、彼女は何度もやってきた。 駅のほうから小道を上がってきて、ふと視線をこちらに向け、 「あっ」と、少し驚いたような表情を浮かべる。 それから、いつものように外に並べられた本を、じっくりと眺める。
「入りなよ」 父が少しぶっきらぼうに声をかけると、 「お邪魔します…」と、彼女は少し緊張した様子で椅子に座る。
母とわたしは、ニコニコしながらお茶を淹れる。 この日は、お客さんが多かった。 ご近所さんたちも、ふらっと立ち寄って、おしゃべりしながらお茶を飲んでいた。
「他の人もいるんだ…」 そう、ぽそっと呟いた彼女は、またふわっと消えた。
それから、しばらくのあいだ彼女は来なかった。 母はもう、写真の中にしかいない。 父の背中も、少しだけ小さくなっていた。 店内は、静かになっていた。
そんなある日、 きょろきょろと周囲を見渡しながら、彼女が現れた。 「あ、こんにちは…」 その声はもう、大人のそれだった。
でも、どこかに面影が残っていた。 「ずいぶん久しぶりに来たね」 そう声をかけると、彼女は「はい、だいぶ久しぶりで…」と、店の中をゆっくり見渡した。
驚きと、少しの寂しさが、彼女の目に浮かんでいた。
あぁ、そうか。 「最後に来た日から、もう何年も経ったからね。お母さんは、数年前に亡くなったのよ」
そう伝えると、彼女は小さな声で「そんなに経ったんだ…」と呟いた。 その声には、静かな悲しみが混ざっていた。
「また来るね」 そう言って、彼女は初めて、帰る前に約束をしてくれた。 そして、ふわっと、消えた。
また来る、と言った彼女に、わたしたちは手を振った。 あの日から、またしばらくの時が経っている。
次は、いつ来るんだろう。
何度も夢に出てくる場所 CHIDORI @chidoriro
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