四百という数字と共に顧みる

小狸

掌編

 インターネット上の小説投稿サイトにて、私は不定期的に小説を投稿しているけれど、この度晴れてその総数が、400作品に到達した。


 2022年の2月にサイトに登録してから、3年半と少々で400作品である。


 同時並行で公募新人賞にも応募しているから、実際に今まで書き上げた実際の総作品数をあげるとしたらもっと多くなるだろうが、取り敢えずここで400以上は確定である。


 今まで何度か節目節目に、書いた小説数を記念してこういった自らを鼓舞するような小説を書いてきたけれど、何だかんだと言いつつ、よく書き続けてきたものだなあ、と思う。


 続いた――のだ。


 その事実は、簡単には揺らがない。


 陰鬱な私小説ばかりを書く私らしくもなく、何だか感慨深い気持ちになった。


 私が作品内で良く触れる「何かを続けることは相当な胆力を必要とする」というのは、本当にその通りだと思う。まあ、私にその胆力が備わっているかどうか、というのはまた別である。400という数字も、私は、終着点だとは思っていない。通過点――過ぎ行きて超えるべき場所なのである。数字は、勝手に積み重なっていくものである。「質より量」とか「量より質」だとか、そんな議論をくっちゃべっているような暇は、私にはなかった。どちらの方がより良いなんて、私程度では決められない。


 しかし、である。


 振り返って周りを見渡してみると、例えば私と同時期に小説投稿サイトに書き始めた人の大半は、アカウントを削除するか、音沙汰がなくなっている。


 よくよく考えてみればそれは至極普通なことで、誰も我々に、書くことを強要してはいない。私は職業小説家ではないし、いつだって書くことを辞めることができる権利を、当たり前のように持っているのである。辞める理由だってたくさんあるはずだ。日常生活の充実、仕事の繁忙、別の趣味。何も小説を書くことだけが人生ではないのだ。私だってそれを承知している。それに小説を書いていて、誹謗中傷ともとれるDMダイレクトメッセージが届き、落ち込み、書くのを辞めてしまおうかと思ったこともある。小説は、読者の手元に届きページを開いた時点で読者のものになり、その時点で発露した感情や言葉は全て読者自身のもの、矛先を作者に向けるのはお門違いなのである――と、私はそう思っているが、皆もそう思っているというわけではないのだ。そう考えると、むしろ、辞めてしまえる理由の方が多かったとも言えよう。


 にもかかわらず。


 私はそれを手放さず――ずっと持ち続けて、書き続けた。


 少なくとも、この3年半と少々の間は。


 私は、自分を褒めることが大変苦手である。理由は簡単で、褒められずに育ったからだ。幼い頃から、テストの点数がいくら良くとも、勉強を頑張っても、何かに一生懸命に取り組んでも、私が一番褒めてほしい人は、私を決して褒めてはくれなかった。むしろ「その程度で調子に乗るな」「それが何だ」「学業に意味のないことを努力して何の意味がある」と平然と言ってくるくらいであった。勿論もちろん、小説を書くことに対しても、周囲はかなり否定的だった。そんな環境で育って、一種の無力感に満ちていた時期もあった。決して人から褒められたくて何かをしていたわけではないけれど、けな虚脱感というのも、確かにあった。


 それでも継続することができたのは、他ならぬ読者の皆様のお蔭である。


 感謝する。


 誰かが読んでくれる、たった一人でも、サイトを開いて読んでくれている、それだけでも大変光栄なことであるのに、それだけに留まらず「いいね」を押したり、評価してくださったり、応援コメントやおすすめレビューを残してくださる方もいる。通知欄でそれを確認するたびに励まされ、頑張ろう、続けようという気持ちを維持することができた。今の私があるのも、読者の方のおかげだと言っても過言ではない。こんな陰気な人間が書く、頭が痛くなるほどに陰鬱な掌編、短編、そして時折長編小説を、ずっと読んできてくださった方には、足を向けては眠れない。私が書き続けられたのは、間違いなく、読まれ続けてきたからなのだ。


 ありがとうございます。


 とはいえども――である。


 私が飽き性であることもまた否定できない。


 小学生時代、一体いくつの習い事を途中で辞めたか、覚えていないくらいである。そんな私が、ある日突然、書くのを辞めたくなって「あーあ、やーめた」となっても、不思議ではない。


 それでも。


 これからも私は、小説を書く。


 今、書きたいと思うから。




(「四百という数字と共にかえりみる」――了)

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