【お題フェス11①】ついてくる

若涼

ついてくる

 ついてくる、ついてくる。

 黒いかたまりがついてくる。

 

 いそげ、いそげ。

 黒いかたまりに追いつかれないように。

 

 後ろを振り返る。

 黒いかたまりは、やはり静かにそこにいた。

 なにをするでもない。ただぼくをジッと見ているようだった。

 

 幸いこの場所はとても広く、人もたくさんいる。この黒いかたまりが、ぼくになにか悪さをしてくるとは考えづらかった。

 だけどぼくは、こいつから逃げたい衝動に駆られている。

 

 いったい、どこに逃げれば——

 

 そのとき、どこからかゴオーッと音がして、ぼくの頭上を巨大な鳥さんが通り過ぎていく。つられて上を見上げたけど、まぶしくてきゅっと目をつぶることしかできなかった。

 

 今の音で、あいつがどこかに行っていたりしないかな。

 そう期待して、そっと目を開ける。しかし黒いかたまりは、相変わらずそこに佇んでいた。

 

 くそっ、どうしたらこいつから逃げられるんだ。

 手当たり次第に、走り回ってみる。だけど、どこにいってもやっぱりそいつはついてきた。

 

「ふぅ……」

 走り回ったせいか、体がぽかぽかと暖かい。よいしょとその場に座り込んでみた。すると黒いかたまりは、ぼくと地面の間に隠れるようにして小さくなる。

 

 そんなところに隠れるぐらいなら、どっかに行っちゃえばいいのに。

 ぼくがそう思ったとき、お空が少し暗くなった。黒いかたまりがすうっと薄くなって、消えかける。

 

 よしっ、いいぞ! そのままいなくなっちゃえ!

 しかし、ぼくの願いは通じなかった。お空が明るくなると同時に、黒いかたまりはさらに黒くなる。

 

 ぎらぎらぎら。

 じんじんじん。

 

 なんだか、かたまりに飲み込まれそうで怖くなって、ぼくはその場に立ち上がった。

 かたまりがぎゅんと大きく伸びる。


 わっ、逃げないと! このままじゃ食べられちゃう!


 そう思ったとき、ぼくの目に飛び込んできたのは、大きな口を開けたお山だった。

 そうだ、あの中に……!

 

 ぼくは走ってそこへ飛び込む。少し暗くてジメジメしてるけど——まあ、問題はない。

 

 後ろを振り返る。

 黒いかたまりはいなかった。

 

 うろうろとあたりを探してみる。

 やはりかたまりは、どこにもいない。

 

 やった! ぼくの勝ちだ!

 

 その場でぴょんっと飛びはねる。ずっとついてきたあいつがいなくなって、とんでもない嬉しさが込み上げていた。

 

 いったいいつからいたんだろう。

 少なくとも、うちを出るときにはいなかったはず……。

 

 でも、そんなことはもうどうでもいい。だってあいつはもういない。最高の気分だ。

 

 ぼくは余韻に浸りながら、暗い場所を後にする。

 これでようやく、心置きなく遊べるぞ——そう思いながら、先ほどまでの癖で後ろを確認する。


 ぼくの心臓が、どくんと跳ね上がった。

 

 あいつが……いる。

 

 ぼくはどうにかして黒いかたまりを振り切ろうと、自分のできる限界の速度で走りだす。


「はあっ、はあっ……」

 よしっ、ここまでくれば大丈夫——もう一度振り返ってみる。

 黒いかたまりは、当たり前のようにぼくの足にぴたりとくっついていた。

 

 なんでこんなにぼくについてくるんだろう。

 どうしていつも、足にくっついているんだろう。

 

 そう思って、足踏みしてみる。すると、黒いかたまりもぼくと全く同じように動いていた。

 えっ……なんで真似するんだ?

 よく見てみれば、黒いかたまりはぼくみたいな形をしている。

 

 なんなんだ、これ。

 

 難しい顔で、そいつと睨めっこしてみる。

 すると、

「そろそろ帰ろう〜」

 隣にいる、ぼくの大好きな人がそう言った。


 そうしたいけど……この黒いかたまりがまだ僕についてくるんだ。必死に訴えても、ぼくの言葉は伝わらない。

 

「ね、帰ってご飯食べようよ」

 大好きな人がしゃがんで、ぼくに目線を合わせてくれた。

 だめだめ。この黒いかたまり、どうにかしてよ。今度はかたまりを指で指して訴える。

 

 すると、大好きな人は大きな声でぼくを笑った。

「はははっ! 見つけたんだ、そうちゃん」

 

 ぼくは首をかしげる。なにがそんなに面白いんだ。そう思ったけど、大好きな人が楽しそうだから、ぼくもつられて笑った。

 

「あのね、そうちゃん。それは影って言うんだよ」

 大好きな人は、そう言ってぼくの手を包み込む。

 

 ……影?

 ぼくはもう一度、自分の足元を見下ろした。

 ぼくの黒いかたまりは、先ほどよりもなんだか嬉しそう。

 

 なんでだろう。そう思いながら、体をぐっと大好きな人に預けてみる。ぼくのかたまりもぐにゅーと同じように動いた。

 

 かたまりは、隣の大きなかたまりとひとつになっていく。

 この大きなかたまりはどこから——

 

 あっ。

 たどった先は、大好きな人の足元。

 

 なーんだ。君もぼくと一緒だったんだね。

 ぼくは、大きくなった黒いかたまりに話しかける。

 

 君もぼくも、ままのことが大好きなんだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【お題フェス11①】ついてくる 若涼 @Phono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画