三章 聖女教の陰謀

第19話 幸せな朝

 カトレアが全てを思い出してから約一週間。


 今日は週末、学校も休み。だというのに、カトレアは早朝に目を覚ました。


「……我、起床……」


 ムクリと起き上がる。枕元でピピピッと鳴るスマホのアラームを止め、ふかふかベッドからスタッと下りる。


「この時間なら、まだあいつは寝てるな」


 ソロリと移動。扉も静かに開け、ナルルの部屋の前に。


 ドキドキする胸を抑え、邪魔な扉をゆっくり開ける。


「……むにゃ……カト、レア……」


 自分の名前を呼ぶベッドの膨らみ。やっぱり静かに近づき、彼の寝顔を拝見する。


「……天使かよ。写真撮っとこ」


 朝日に煌めく綺麗な金髪。少しアホ面、無防備で油断しきった美少年。


 カシャカシャとスマホで撮りまくる。写真フォルダがナルルで埋め尽くされていく。


(尊い……尊い爆弾が破裂してる……好き……)


 あれ以来キスはおろか好きとさえ言ってない。ナルルはナルルでカトレアからという言葉に従い、二人きりになっても何もしてこない。


 優しい彼氏だが、もう少し求めてほしい。けど今さら自分の言葉を撤回できるはずもない。


「はぁ……はぁ……無理、したい……チューしたい……」


 目がグルグル回る。ベッドに手を付く。ベッドが揺れるのも構わずナルルに迫る。


(起きるなよ、まだ寝てろ)


 んーっと唇を突き出す。ナルルまであと十センチ。八……三……。もうナルルしか見えない。止められない。


 そして唇が触れようとした瞬間。


「おはよ、カトレア」


「んむっ⁉︎ んーっ!」


 突然目を開けた。逃げようとしたカトレアは呆気なく抱き寄せられ、熱いキスをされた。


「んー! んんっ! ……んにゅ……んっ……」


 力が抜けていく。コテンとナルルにのしかかってしまう。


 ナルルトラップにしてやられた。悔しいのに抵抗できにゃい。


「……カトレア。顔、トロけてるよ?」


 離れるオオカミの唇。だけど体はガッチリ捕まり逃げられない。


「卑怯、だぞ」


「寝込みを襲ったカトレアが言う?」


「うぐ……」


 正論で返される。何も言えない。頭を優しく撫でられる。


「カトレア……可愛い……」


 甘やかされる。一週間振りのキスで頭が溶けそう。それに前世の頃から思っていたが、こいつ本当に積極的だ。


「もう一回、いい?」


「やら、今はらめ……」


 呂律が回らない。ナルルが妖しく微笑む。


「ごめんね……ん……」


「ふにゅ……」


 もういいや、魔王じゃない。聖女じゃない。ただの女と男。それでいい。


 舌を絡め取られる。息が上手くできない。体の奥がジュンと疼く。もっとほしくなる。


「……はい、おしまい」


「え……」


 急に現実に戻された。唇が離れ、背中の腕を解かれる。


「にゃんで……」


 ダラしない顔になっているだろう。どうでもいい。情けなく懇願してしまう。


「これ以上は、その……僕が我慢、できなくなるから……」


 ナルルの視線が落ちる。その先には膨らんだ毛布。


「……許可する」


 してしまった。ナルルが「えっ?」と顔を上げる。だけど優しく首を振った。


「ダメだよ。僕、カトレアをちゃんと大事にしたい。それに急がなくていいから。……ねっ?」


「……いじわる」


 切ない。けど嬉しい。もっと好きになる。好きが溢れて苦しい。


「さ、そろそろ起きよっか。今日はデートの約束でしょ?」


「……分かった」


 嫌だけど起き上がる。ナルルも一緒に体を起こす。その仕草にすら目を奪われる。


 手を繋ぎ、部屋をあとにする。お揃いの水色のスリッパ。同じ歩幅で歩き、執事とメイドに頭を下げられる。


 見えてきた大扉。扉の前にいたコークスが一礼し、朝食が並ぶ大食堂が開かれた。


「朝からバイキングだー!」


 ナルルの手を振り払う。色気より食い気。「あはは。」と笑うナルルをジッと見つめ、カトレアも「ふふっ。」と笑った。



「ナルル! あのオムレツ美味いぞ!」


「知ってるよ。僕も毎朝食べてるもん」


「それならあのクリームパスタはどうだ!」


「あれもすっごく美味しいよね」


「じゃあじゃあ、あのグラタンは――」



 二人の関係は、明確に進み始めていた――。

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呪ってやった元聖女(♂)が可愛すぎるんだが? リスキー・シルバーロ @RiskySilvero

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