Everyday Everytime Exciting!!!

Asi

1-1話-登校

りん、朝だぞ、おはよう」

 閉じられていた瞼の上から聞き馴染んだ低い声がする。尚広なおひろかすみがかって見えない表情がこちらを覗き込んでいる。

 そうだった今日は入学式なんだ、でも体が重い。呻き声のような挨拶を返しながら体を抱えられて居間に運ばれる。

 早く起きないと遅刻する、と尚広に急かされる。うるさいな眠気が引くのを待ってよと言うのもだるいので小突いてやった。

 ちょうど電気ケトルが湧いたのかそのまま白湯を渡された。水とお湯を混ぜて飲みやすい温度の水分を流し込んでようやく落ち着いた。

 制服がかかってるハンガーを取りながら床に下ろされる。 「今日は1番大事な日だから迷う時間も考慮して早めに行かないと行けない。なにせ土地が馬鹿デカいからな」

「でもスマホでマップ開ける現代にそんなこともないでしょ?色んな噂があるとはいえ現代だから、ほら30分も余裕があるじゃん」

 スマホを取りだして説明してあげた、それでも心配性には抗えないらしく不満気な顔を覗かせる。

 国立桜ヶ丘学園こくりつさくらがおかがくえん、広大な土地を持つマンモス校で良い噂から悪い噂まで色々な面を持つ。 入学式にたどり着けないのも噂のひとつだ。彼がたらればを口にしているが気にせず身支度をする。

「スカートってなんか変な気がするな。なんていうかこう…エロい」

「それはそうだがしょうがない、が良いから早く着替えてくれ。今はもう女の子なんだから」

「うーん」

 2週間前に性別が変わってしまった俺からしたら本当に慣れないものだ。寝て起きてはい美少女ですなんてラノベもいいところだ。低身長に長髪、洗う場所もかなり増えた。現実に起きてしまって気にすることが増えてしょうがない。しかしブラがつけにくいな…でかくなり過ぎた。尚広に手伝ってもらいようやく外に出る。



 駄弁りながら自分の住む三階建てのアパートを降りる。一階で営業されているコンビニを通り過ぎ通学路を進む。春の陽気がとても暖かい良い日だった。石塀の上で寝転ぶ黒猫に少し構って歩き出す。

「体力が…無くなったのを感じる…」

 歩き出して10分もしないうちに弱音が漏れ出る。

「持ってあげようか?」

「動詞がおかしいだろ、物じゃないんだから」

 220cmというNBAも顔負けの巨体で140cmの物体を持つなんて造作もないだろうが尊厳くらいはくれよ。

 自分の住む住宅地から街並みは変わり人通りも増えてきた。周りの同じ制服を着た生徒の比率が増えて少しだけ緊張する。それと同時におそらく学校の敷地内だろうという実感を得る。。もうそろそろ着いていいころだがスマホのマップはあと5分と指している。なかなかの距離だ。

「誰か校門まででいいから運んでくれないかなー、タクシーとか御曹司とか気の利いた……ん?」

 少し狭い十字路に差し掛かった時にモーターの駆動音のようなものが横から聞こえた、が時すでに遅かった。

 自分の肺から空気が漏れ出るような声を情けなく出しながら、自分の体は車をゆうに超える速さで小脇に抱えられてひったくられていた。

「いや〜急に飛び出してくるから焦ったよ〜ごめんね?キックボードの動画でぶつかりそうなのを回避する時にこんなふうにしてて…」

「誰か助けてぇ!誘拐でーす!」

 街の風景が一瞬にすぎていく光景はさながらジェットコースター。目線も低いのもあいまって内臓が持ち上がるのを感じる。

「まーまーそんなこと言ってもほら楽しいでしょ?学園紹介でもするから楽しんでよ、であそこが技研でー…」

 呑気に説明をする金髪の男を他所よそに後方からドリフトをキメる大型兵器なるものが後方に迫ってきている。4脚のキャタピラが支える台座には到底対人兵器とはかけ離れた2本の機銃、その間にその2倍はあろうか大砲が備え付けられた恐ろしい兵器がそこに居た。

「そこにいる人たらしの鬼畜め!我がエネルギー機械技術研究部の予算を減らした悪徳を今ここで清算させてやる!今日がお前の命日だ!」

「あれはさっき言った技研の部長だね、まいったな~逆恨みでここまでくるとはもはや愛ってやつ~?ちなみにこれは技研から押収したキックボード」

 盗品じゃねえのか、というツッコミも出てくるがそれどころじゃない。どうやら向こうの怒髪天どはつてんを衝いた様子を機械の駆動音が物語っている。それと同時に何かをカウントダウンする機械の音声が聞こえる。

「エネルギー充填進行…80%…92%…」

「まずいそろそろ君を手放しておかないと巻き添えを喰らうがどうしようかな…」

そう、この状況において貧弱な体を宙に放り出されるのは危機的状況に違いない。しかしあの兵器に追われてる以上脱出する術が残っていない。まずい、そう思っていた時、

「凛!こっちだ!」

 ほとんど車同然のスピードで脇道から走ってくる尚広の姿が見えた。

「広!受け止めて!」

 金髪の男を足蹴に飛び込んだ。その刹那に自分の真横を通ったレーザーが彼に着弾。斜め上のベクトルで飛ばされていく人間を尻目にしながら爆風の勢いもありなんとか抱きかかえられていた。あれ死んだんじゃない? そう思い茫然としていると、

「大丈夫か!?どこか怪我してないか!?」

 唐突にお腹に顔を埋め大きい声を出すのでくすぐったくて頭を叩いた。無事だとわかるとふざけ始めるこの男は全く度し難い。状況を考えろ。

 尚広が顔を上げ、彼の見えない瞳と目が合う。その瞬間安心したのかどっと疲れが押し寄せた。

 高エネルギーが横を通り抜けた衝撃と爆風で怯んでしまって体に力が入らない。このまま持って行ってもらうしかない。ふざけないように躾けた大男が感づいたかのように抱えなおす。

 昇降口に歩き出そうと方向転換してみれば、爆破されたキックボード、それともう一つ人間の体が転がっているはずなのだが…?そう思いあたりを見回す。

 路地に走って逃げる半裸の金髪と追いかける巨大な兵器が見えた。どうやら無事なようだが服もやられたらしい、しかしなぜ生きているのか理解できなかった。周りにいる生徒たちも写真を取ったり呆れた顔で歩き直す等反応が様々だ。



 そういえばと焦ってスマホを確認する。時刻は入学式の受付締め切り20分前、幸いなことに校門に近い場所に着地したおかげもあって遅れずに済みそうだ。大丈夫だと安堵していると顔をあげる、が、やけに視線が気になる。

「やだ〜可愛い〜」「お姫様抱っこで登校って良いわね~」「ありがたや…ありがたや…」

 言われて気づいてももう遅い。というか誰だ有難がっている奴は。

 お姫様抱っこで登校する人はおそらく学園で1人だろう、周りがざわつくのも頷ける。恥ずかしくて顔が爆発しそうだ。登校初日でこれはまずい、そう思い身をよじるが降りれない、いや降ろしてくれない。

「何やってんだ恥ずかしいからもう離せよ!おい!」

 どんなに力強く顔を押しのけてもビクともしない、くそ!何がお前を突き動かすんだ!巨大な大木に相撲を挑んでいるイメージが脳内を駆け巡る――――変な回想をしてしまった。意味が分からないと手で振り払った。

 正直勝てる気がしないので諦めた、今日は黙って持っていかれよう。



 歩みを進める彼の表情は分からない。モヤのようなものがかかり始めたのはいつからだっけ。顔をいつから見ていないのか分からない。周りにもおそらく見えていないのだが誰も気にしていないのだ。超常現象だとも言えるのだが、今はわかる。ニヤニヤしているだろうと顔をぺたぺたと触りながら表情を確かめていた。

 昇降口に差し掛かり体の調子も戻った頃なので流石に降ろしてもらった。上履きに履き替えるところでさっきまでの痴態を思い出し、いっそ殺してくれないか、なんて悶えながら受付を済ませる。

 新入生は教室へ行かずにそのまま体育館へ流される方式になっていたため、かなりの人数がひしめき合う廊下を進みながら歩を進める。

 広のベルトを掴んで離されないように力を込めていたらいつの間にか着いていた。 有名なマンモス校ということもあり、開けた扉をくぐれば圧巻の光景だった。

 人口密度は何にも例えられない程でありながらも広々とした空間。キャットウォークには新入生を撮影するであろう夫婦や親戚のような人達が並んでいる。少し羨ましい。



 案内を担当している生徒が行列を捌いて席につかせる。 椅子に座り、お偉いさん方のお話を受け、生徒会長の話を聞く。

 壇上に先ほど見た金髪の男が立っている。服は元通りになっていたが少し焼けた髪が登校の激しさを表していた。が、知らない人は寝癖と感じるだろう。生徒会長だったのか…。

 様々な思慮が脳裏を巡るが真面目な生徒以外は話を聞く時間が長いと眠気には抗えないものであり大半は船を漕いでいる。そのうちの一人に入るのは時間の問題だ。何かしらの予定や紹介などもあった気がするが、ようやくお話タイムは終わりを迎えた。垂れそうな涎をぬぐいながら起きていた尚広に全部予定を聞いてしまおう。

「これからなにかするんだっけ」

「今日はこの後教室で担任とクラスメイト達が集まってアイスブレイクやらやるらしい、どんな奴がいるのか知らんが面倒臭いな」

「人見知りだからって好き嫌いはだめだぞ?良い奴がいるかもしれないし1番初めが肝心なんだからさ、それ考えると同じクラスでよかったな」

 配られていた書面に目を通しながらそこの内弁慶を諭した。

 少しだけ楽しみにしていた、どんな学園生活になるのか。

 新生活を迎える生徒の列に飲まれながらまたベルトに掴まって行くのだった。

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