飾り

@under_coreikisugi

第1話

1時間目の始まりを告げるチャイムが鳴っても舞の姿はなかった。

ちょうど先生が来るのが遅れて、自習を期待する空気が教室を包む。

「おい!先生絶対休みだからさ、ゲームしようぜ、ゲーム!」

男子の1人がそう言ってスマホを取り出すと、2人、3人と、それに続いた。

一個一個の声の散らばりが塊になっていて、あまり聞こうという気も起こらず、私はただ舞の席を見る。

そんなとき、後ろの方で、

「ねぇ、あいつまた休んでるよ」

「違うって。休んでるんじゃなくて逃げてんの」

そんな声が聞こえる。

いつもの癖で笑うのを我慢しようとしたけど、そうだと思い出して、今は笑ってみた。

でも、周りの目はやはり気にするべきなようで

「ねぇ、何にやにやしてんの?そんなに先生が来ないこと、嬉しいの?」

拓真くん、舞、今日も休みだって。面白いね!

なんて、言えたら嬉しいのにね。

「ううん。なんか無法地帯だなって。ちょっとウケただけ」

「そう。」

拓真くんに後ろの毛を巻いてきたの、見つけてほしくて、でも拓真くんは隣にいて、それは嬉しいけど、見つけてもらえなくて、机に伏せた。ちらって拓真くんを見たら、つまんなそうに教科書見てた。せっかく伏せたから、まだ何かしたくて、アイラインを長く引いたの見つけてほしくて、自然な見つかり方を考えた。ペンを落として上目遣いする?いや、不自然。髪を耳にかけて流し目?いや、不自然。ちょっとかがんで胸を寄せる?うん、違う。

そうやって思いを巡らせていると、スマホゲームをしてた男子が

「おい、人影!先生だ!」

その声で一斉に静かになって、ガラガラって扉が開く。ちょっと怒られそうな気がして、顔だけ上げる。

少しの間が流れる。

唖然?驚嘆?恐怖?

なんで、舞が来てんの?

「えっ、高井さん?どうしたの?」

「なんで来れんの?」

「なんか雰囲気変わってる…きも」

「おはよう!高井さん」

声を出すのは女子だけだ。男子はみんな友達と話し合ってる。なんの話かは容易に想像できた。

何もないように自分の席に座る。

拓真くんの前の席。

「高井さん、髪巻いてきた?綺麗。」


何しに来たんだよ、マジで。

水槽割ったのお前だろ。グッピー殺したのお前だろ。散々みんなに嫌われて。ついに学校来なくなったと思ったら。


「あかり、おはよう。」


「おはよう」




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