肝試しダンジョン配信者ハルル。通りすがりのサキュバスやダメ聖女、ぼっち冒険者(アンデット)たちとコラボ配信をするもカオス過ぎて、炎上かBANのせめぎ合い。

@Asa6425

第1話 ハルルという女。と、サキュバス。

「じゃ、じゃあ始めますかの……」


『弱い探索者:立ち入り禁止』の表札を越え、ゴツゴツとした洞窟へ潜入する私──ハルル。


「ひ、ひぇぇ……やっぱ夜ダンジョンは怖い。

いや、頑張るんだ!全ては金の為!まにぃ!」


すっかり暗くなった19時。

凍てつく夜気が白い髪を撫でる中、手袋を外す。震える指でアイコロフォン(最新型携帯機)を起動した。


「はいどーもー。今日もまた肝試しダンジョンやっちゃうハルルだよー。

今日ファンになってくれた人は、ハルル推し古参だよー。ってことで、ドシドシ来てねー」


初動はいつも通りのゼロ。

伸びる様子もまた、ゼロ。


(これさ、流石にアルゴリズムおかしく無い?

絶対、私のこと虐めてるじゃん?)


我ながら、極限化した勘ぐりをしてしまう。


(はあ、今日も0人配信かあ。

いっそ、ネタにして貰いたいくらいだよ)


手に持つカンテラの光を頼りに、屈んで進む。すると、岩肌に張り付くモンスターが。


「これはっ!」


たちまち不機嫌モードから回復する。

青色に発光するカエルだ。

手のひらサイズで、高めなペットとして販売出来る、まさにベリーマニーなモンスター。


なので、ヒップバックから取り出した虫籠に突っ込んでやった。


「よっしゃ!まにぃまにぃ!棚からボタまにぃ!」


ちなみに、この手のモンスターは、強敵が棲みつくダンジョンの入り口付近に生息してる。

つまり、マニーの匂いが濃くなってきたということだ。滅多に出会えないから嬉ちい。


そうして、もう何匹か捕まえつつ進んでいく。


(もう少しで、広場かの。

にしても虫籠は鱈腹たらふくだなあ)

口角がグイッと上がって戻らない。


広場に行けば、きっと配信映えする強敵が徘徊しているのだろう。そしてもし、その広場に道が続いていればさらなる強敵が。


ま、正直、金の元はあるからどうでも良いが。

承認欲求は別腹だった。

(今度こそ、バズれよー?)



私が配信する理由の殆どは家庭にあった。


まず、私は今年、26歳になる。

このロリ体型からは想像できないが、ちゃんと良い歳と言われるお年頃である。


ただ、私はニート。それも、職歴皆無。

まさに、筋金入りのツヤツヤニート。

ある意味、最強であった。


故に、かな。

家庭内における裏ボスという感じの、謎ポジに至ってしまい──結果、立ちはだかる者が現れるようになった。


「義務教育が終わった者は『普通』、独立して家を出るんだ。なのにお前と来たらなんだ、幼子の生活に戻っておるではないか!」

「やっぱり、教育本の作者が間違っていたのだわオヨヨヨヨ〜」

(※若干の脚色が入ってます)


これは、最強のニートである以上、背負わされる宿命なのかもしれない。


ま、妹だけは守ってくれたけど。

「きっとお姉ちゃんには……この部屋に追いやられるだけの傷があるの!

だから、そんなに酷いこと言わないであげて!

心の心配をしてあげて!」

実は、一番効いたなんてのは秘密だ。


そんなこんなで、一念発起してやろって辿り着いたのが配信者。


(ま、結果はぴえんというかの。

世間は本当に世知辛い。ごめんよ妹~心配させる姉に育ってしまって)


広場に着いた。人5人で暮らせる一室くらい。

先に続く通路は見当たらない。ハズレか。

ただ、それよりもモンスターがいない事に違和感を抱く。


あれれ? おかしいな、広場に出る度にモンスターと出会えるのが相場のはずだけど。

先客に蹴散らされたのかな。


と思ってると、真ん中に穴が。


「これって……」


どうりで、モンスターがいない訳だった。

洞窟は一般的に、横にしたアリの巣みたいな構造かつ、1フロア仕立てになっている。


広場は、通路を挟んで前や横に続いてて、奥に進むほど強いモンスターに出会えるけど。

まあ地上だからね、たかが知れてるんだよね。


でも今回は……。正直、私にも未知の領域だ。


つよつよ探索隊の掲示板で『穴がある洞窟には入らない方がいい』とか、『入って戻ったものはいない』なんてのは、聞いたことはあるけど。


私は息を飲む。

(行っちゃおかの、いややっぱやめとくかの……金の元はもうあるし)


一応、ヒップバッグから魔力計測器を取りだす。

人やモンスターの力量を測る機械だ。

設定をモンスターにして……。


──ピピッ!

(え、なのこの魔力……私の5倍じゃん!)


ちなみに、穴がある1フロアにモンスターがいないのは、地下2フロアから漏れ出る"強者の電磁波"のせいだとか。


足がガクガク、震え始める。


(うん、やっぱやめとくかの……膝も笑ってるし。そもそもここで死んだら、妹はどうなるのさ)


そこで、家庭内の記憶がフラッシュバックする。


『お前も『普通』に働きなさい』

『貴方はもういい歳した大人でしょ』


何が普通だ。いい歳した大人だ。

別に良いじゃん、いい年した大人で普通じゃない生活送ったって。幼児みたな生活送ったって。


なんなら赤ちゃんみたいな生活送らせろっていいたいよ!!


『お姉ちゃんにもっと寄り添ってあげて!』


心配されるほど私弱くないもん!元気でこんなだもん!!!


私は叫ぶ。「あ"ー!!! ここで引き返してちゃ"それも"証明出来ないね!

分かったよ! 私入っちゃうよ! 度胸みせちゃうよ! だから皆!リスナー! 私の事、とくと見ててよ! 」


───視聴数ゼロのままにしとかないでにょ!! 死んじゃった時寂しいかりゃーーー!!!!!


と、噛みながら私──ハルルはピョーンと穴へ飛び込んだ。


1人分のそれは、長くてクネクネのホースのような形をしていて。


「うぉあぎゃみゃみゃみゃみゃあああああ!!!!!!」


目をグルグルにしながら落っこちて行く。


そして、ドスッと尻もちをつく──と思ったら下に、可愛いツノと羽を生やした金髪美少女!??


「ふぇ?」とこちらを見上げてる。


やばいやばいやばいやばい!ぶつかる……!

「あわわぎゃぎゃぎゃぎゃあああああ!!!」


モンスターのような悲鳴を上げながら────ドサリっ!!!!!


「いててててて……! って、金髪美少女は!?大丈夫び!??」また噛んでしまう。


も、ふにっと手に柔らかな感触を感じて。

「ひゃっ……」

「あれ?……これって」

艶やかな顔で目を逸らす金髪美少女。


「そんな、淫魔サキュバス相手だからっていきなりは応えられませんよ♥」

「え……」


そこで分かった。

私が今、サキュバスの上に乗っていて、

さらに、胸を鷲掴みしていた事に。


「ひょえっー!!すみません!すみません!

私、上の穴から落ちてきちゃったみたいで」

何故か他人事で言うハルル。


「上の穴?」

「あそこです。あれ? 穴がない」

「ああ、上の階の穴ですか」

「え、他に何かあるんですか?」

「つい、お口かと」

何故か顔を赤らめるサキュバス。

「あー、ってなんで赤くなってんの!?」


ハルルは純粋だったようだ。


穴から落ちてきたにも関わらず、天井に穴がない理由。それは、天井にある蓋とのことだった。

それは、1フロアの穴からここに落ちた際に、勝手に閉まる仕様だそうだ。


「つまり、もう戻れないの!??」

「物理的に穴開けたら、多分……///」

また何故か顔が赤いサキュバス。

「なるほど……いや何を考えてるの!?」

「もう……言わせないでよ♥」


地下2フロアに落ちて、もう戻れないと知ったハルル。動揺しつつも(ま、仕方ないの。クヨクヨしてても変わらないし、とりあえず楽しむかの)と前向きであった。


が───その時、彼女のアイコロフォンではとんでもない事が起こっていた。


コメント


:「覚悟ヤバすぎ」

:「この子死ぬぞ」

:「救助はよ」

:「いや、地下に落ちたらもう戻れないぞ」

:「我は、この子の覚悟を最期まで見届けるぞ」

:「サキュバス初めて見たけどエロすぎ」


彼女の覚悟やサキュバス、戻れない場所への落下。それらが、アルゴリズムを動かしたのか。


100、500、1000……。

配信の視聴数は続々と増えていく。


もちろん、皆、彼女を助からない前提で覗きに来ているのだが。

彼女はその事には気づいていない。

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