音楽と、わたし
天音おとは
音楽と、わたし
幼稚園 ― 音が光る季節
あの頃、音楽は空気の中にきらめく粒だった。
先生の指先がピアノの鍵を押すたび、園児たちの声が花のように咲き、二人の女の子が舞うスカートが、まるで歌の一部になって揺れていた。
鍵盤ハーモニカやハーモニカは、幼いわたしの宝物だった。息を吹き込むと、音が小さな虹のように広がった。大きな紙に音符を描き、壁に貼り、何度も眺めては「これは私の音楽」と胸を張った。音楽教室へ向かう小さな背中には、軽い音楽バッグと、それより少し重い夢が揺れていた。
小学校 ― 音の色を知る
低学年、教室に響く歌と鍵盤ハーモニカの音は、無邪気な笑いと一緒に混ざり合っていた。楽譜をめくるたび、この黒い点と線がどうして心を震わせるのか、不思議でたまらなかった。
中学年になると、音楽室という小さな舞台が日常になった。「曲の山」という言葉を先生から聞いたとき、音楽にも頂きがあるのだと知った。演奏していると、心の天気が音色に映ることも学んだ。晴れの日は明るく澄み、曇りの日は重く揺れる。体育の時間、風にのって届いたリコーダーの音色に、思わず足が止まった。
最高学年では、歌も演奏も全力だった。声を合わせた瞬間、音楽室の空気がわずかに震え、その振動が胸の奥に届くのを確かに感じた。
中学校 ― 音の影を知る
合唱祭の練習は、音楽の厳しさを初めて教えてくれた。
きれいに歌おうとしても、「地声」「声出して」「アルト行け」と突きつけられる。
声ではなく、存在そのものを否定された気がして、歌が嫌いになりそうだった。
それでも、歌うことをやめなかった。
最優秀賞を受け取ったときの喜びは確かにあったが、同時に、心の奥には複雑な影が残った。歌声の美しい同級生への憧れと嫉妬、その人が放つ音は、自分にはない透明さを持っていた。
高校 ― 遠くなった歌、消えない声
学年全体での歌練習は、いつしか義務の匂いが濃くなっていた。
それでも、歌いたいという思いは、静かに胸の底で燃え続けていた。
小学生の頃から歌い続けた「COSMOS」という曲は、私の音楽人生を通して何度も現れた。初めて歌ったとき、感情があふれ、涙が声に混ざった。中高生になると、その曲には少し飽きも感じたが、それでも不思議と縁が切れなかった。まるで音楽そのものが、私を手放さないかのように。
現在 ― 聴くことで奏でる
今、私は歌う人ではなく、聴く人になった。
音楽は耳から入って、頭で解析され、心で温められる。気に入った曲はアラームにして、朝の空気と一緒に迎える。歌っていた頃の自分は、音を放つ人だった。今の私は、音を受け止め、味わい、形を変えて心の中で奏でる人だ。
音楽は、離れたようでいて、ずっと私のそばにいる。
たとえ声が枯れても、旋律は心の奥で鳴り続ける。
あの頃の虹色の音も、今、静かに私の中で響いている。
音楽と、わたし 天音おとは @otonohanenoshizuku
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