最終章 再誕

 霧が晴れてから、子どもたちは公園でまた遊び始めました。でも、胸の奥のぽっかりと空いた場所が、時々ざわざわと疼きます。

 ある日、みんなで集まり、木陰でそっと話しました。「僕、ときどき何だか怒っちゃうんだ」「私、寂しくなることがある」と、影のような気持ちを打ち明け合いました。


 影を認め合うと、子どもたちの胸に温かいものが広がりました。

 仲間と笑い合った日や、誰かに話したい小さな出来事を思い出し、「この気持ち、誰かと分かち合いたい…」そう思った瞬間、心の奥で、あたたかい気持ちが、そっとふくらみました。

 でも、「誰に?」と問いかけても、名前は出てきません。


 子どもたちの願いが溢れると、胸の奥の小さな灯りが、ふわりと光を放ち始めました。

 まるで風に揺れるキャンドルのように、その光は心の中のぽっかりと空いた場所に集まり、誰かを呼び戻すように輝きを増していきました。カゲロウという心に残っていた、あの場所が、静かに輝き始めました。


 光が集まるたび、子どもたちの心に懐かしい感覚が戻ってきました。「誰か…いたよね。僕たちを守ってくれた誰か…」名前は思い出せないけれど、その存在が確かにそこにあった記憶が、胸の奥で温かく広がりました。


 光が一番強く輝いた瞬間、そっと風が吹きました。子どもたちが何かに導かれるように後ろを振り返ると、そこには今までいなかったのが不思議なくらい自然に、薄い影のような姿が立っていました。


 それは、カゲロウでした。優しい笑顔で、まるで「ただいま」と言っているようでした。


 カゲロウの姿は薄く、触れることはできませんでした。でも、その声は確かに聞こえました。


「待っていてくれて、ありがとう」


 子どもたちは笑顔になり、胸の奥の空いた場所が温かさで満たされるのを感じました。


 カゲロウはそっと空を見上げました。「まだ、僕にできることがある。みんなと一緒に…」子どもたちも頷き、カゲロウとともに歩む新たな道を感じました。


 心の灯りは、これからも輝き続けます。


 カゲロウは、胸に手を当てて、小さくつぶやきました。「…うん。きみも、ここにいるね」と、心の奥に隠れる影にそっと語りかけるように。

 みんなの心の中の影は、今もどこかに隠れているかもしれません。でも、もう大丈夫。怖い気持ちも、悲しい気持ちも、誰かと分かち合えば、それは温かい光になるのです。そして、その光は、カゲロウのように、いつか誰かを守る力になるでしょう。


 朝霧に覆われた植物の葉に一粒の朝露が光を通して七色に光っているように、カゲロウはすべてを暖かく照らしていました。

 その光は、つよくはありませんでした。でも、確かに、そこにありました。


 子どもたちはその光を見つめ、胸の奥の温かさがこれからも続くことを信じました。

 心の影も光も、カゲロウと共に、いつまでもそばにあると信じて、みんなで歩み続ける気持ちが自然に湧き上がりました。


 どんな時も、分かち合う心があれば、光は消えないと知って。

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カゲロウと子どもたちの物語 イソトマ @omiso_senpai

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