第4話 霧の再来
ある朝、街の空が急に暗くなりました。カゲロウが消えてから、みんながまた心の奥に気持ちを隠し始めたからでしょうか。冷たい風が吹き、公園のブランコが不気味に揺れました。
黒い霧が、音もなく街を包みました。どこからか、だれかがため息をついているような、そんな気配がしました。
霧の中から、黒い影のようなものが現れました。
それは、誰かの怒りを映したような目つきや、ずっと泣くのをがまんしてきたみたいな、重たい足どりでした。
街の人々を追い詰めます。子どもたちは怖がり、大人たちも不安に震えました。
子どもたちは石を投げ、大人たちは大声で追い払おうとしました。でも、影は痛がることもなく、ただ、もっと大きくゆらゆらと揺れました。まるで「そんなやり方じゃ、気づいてもらえないよ」と言っているみたいに。
霧はさらに濃く街を包みました。抵抗すればするほど、心が重くなるようでした。
空を見上げていた子が、影を見つめました。影の鋭い目つきが、なんだか自分の中の怒りに似ている気がしました。
「…怒ってるんだね。」
少し考えてから、その子は言いました。
「僕も、ときどき同じ気持ちになるよ」と小さくつぶやくと、影が一瞬だけ揺れ、鋭い目つきが少しだけ和らぎ、まるで静かにうなずくように形が柔らかくなったように見えました。
子どもたちは手を握り、大人たちもそっとうなずき合い、子どもたちの肩に手を置きました。「私たちも怖かった」「何だか悲しい気持ちが消えなかった」と声を出し合うと、霧が少しずつ薄くなり、影が静かに立ち止まりました。
霧が薄れると、子どもたちの胸に温かいものが広がりました。「誰か…いたよね。僕たちを守ってくれた誰か…」その子は胸に手を当て、懐かしい名前を思い出そうとしました。
カゲロウという、心に残る痕跡が、そっと光っているようでした。まるで胸の奥に小さな灯りがともるように、その場所だけ、心の中にぽっかりと空いていて、何かが戻ってくるのを待っているようでした。
大人たちも、子どもたちの言葉に耳を傾けました。
「そういえば…誰かがいたような…」とつぶやきながら、心の奥に、かすかな影のような笑顔が浮かびました。
ずっと隠していた不安を、そっと口にする大人の声が響きました。
薄くなった霧が晴れて見えなくなった時、空に光が戻りました。まるで新しい朝を迎えるように、街全体が温かな輝きに包まれました。
公園のブランコが静かに止まり、鳥の声が再び響き始めました。
その瞬間、子どもたちの胸に残る痕跡と、大人たちの心に浮かんだかすかな笑顔が、互いに引き合うように光を放ちました。
そっと光を放ちました。
その光は、子どもたちの手と、大人たちの手のひら、みんなが触れ合っている場所で、一つに溶け合うような不思議な輝きを放ちました。
まるで、みんなの心が「カゲロウ」という一つの場所で繋がったみたいに。
優しい風が吹き抜け、風は「待っていて」ではなくて、「もうすぐだよ」と囁くようでした。
みんなの心が、カゲロウという場所で繋がり、光と影が一つになった瞬間でした。
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