コンビニエンス
ゆぴの
コンビニエンス
推しの配信まで時間があるので、2日ぶりにアパートから這いずり出て徒歩3分のコンビニに食料調達に向かう。
この街に越してきて4年程経ち、足繁く通ういつものコンビニは店員の顔もシフトもほぼ把握できるまでになった。
リモートワークで在宅勤務な上、元来のコミュニケーション能力の無さが災いし、今日のような休日も友達と遊ぶというイベントは発生しないのですっかり引きこもりスタイルが定着した。
画面越しでない人間と接する時間がコンビニしかないのだ。
店員は無愛想なのが多いが1人だけ笑顔を向けてくれる女性の店員がいて、大体この時間に働いている。
レジで会話するわけでもないし、スマホ決済のバーコードをスキャンしてもらうくらいなのだが「ありがとうございました」という言葉と共に、目を糸のように細めて微笑む彼女の姿は割と好きだった。
店内に入ってすぐに左に曲がり惣菜コーナーのサラダチキンと海藻サラダとパスタをカゴに突っ込み、ドリンクコーナーで烏龍茶を2本手に取ってからレジに向かう。
「あれ?」
マスクをしていたしかなり小声だったから聞こえなかっただろうが、店員が見慣れない無表情の男性で僕は戸惑った。
今日はシフトが違ったのかな
そう思い、買い物を終えた僕は帰路に就いた。
それから1ヶ月ほどの間、何回かコンビニに行ったが彼女の姿を見ることはなかった。
ああ、辞めたんだな
コンビニのバイトが辞めるなんて当たり前だし、親しくしていた訳でもないのになぜか心臓のあたりがギュッと掴まれたような、心がザワザワするような、極めて不快な感覚を覚えた自分に驚いた。
ふとスマホを手に取り「コンビニ」と検索した。コンビニとはコンビニエンスストアの略。知っている。
コンビニエンスは便利という意味と共に好都合という意味もあるらしい。
僕はそれを見て腑に落ちた。
コミュニケーション能力が抜け落ちた自分がほんの一瞬だけ心を許せた相手。
そんな彼女のことを、僕は寂しさを埋めてくれる好都合な人間だと解釈していたのだろう。
自分にコミュ力があったらあの子は辞めてなかったのかな
たらればを脳内でループさせながら僕はまたコンビニに向かう。たとえ好都合な場所でなくても、生きる為には僕にはあの店が必要だから。
コンビニエンス ゆぴの @yupino
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