第四話・雪女系列異妖『イグ女』

 妖湖とイバラ童子は、毛むくじゃらの化け物に飲み込まれて。

 その化け物が人間界に顔だけを地面から出した口から、吐き出された。

 化け物は妖湖とイバラ童子を夜の公園に吐き出すと、地面の中に消えた。

「うわッ、キモッ……異妖界から人間界に行くには、あんな方法しか無いワケ……毛むくじゃらの化け物に飲み込まれる方法しか」

「仕方がないな、あの移動異妖は、自由に異妖界と人間界を往復できるから」


 中華風な衣服を着ている妖湖が、外灯の下で言った。

「一度、家に帰って着替えたいんだけれど」

「人間界に帰る家なんて無いぞ」

「どういう意味?」


 イバラが半裸の体に巻きついた、イバラ童子が言った。

「人間界に居る妖湖の家族の記憶は、妖湖が妖転生した時に自動的に消去された……転生するってことは、現世界アチの未練を断ち切るってコトだ……ラノベでも転生者は異世界で勝手にやっているだろう」


「確かに……ぐじッぐじッと現世界に帰りたがっている転生者は……最低に格好悪い」

「こっちの世界の住む所なら、オレの家に同居するコトが決まっている……心配するな、異妖界にも妖湖が住むツリーハウスがあるから」

「なにから、なにまで手際がいい……で、あたしは人間界で、とりあえずナニをすれば? 歪みを鎮めるって具体的にどうすれば」

「それは……」


 イバラがそう言った時──妖湖の手首にハメられたブレスレットの球体化が点滅して、ラキの声を発した。

「歪みです、歪みです、歪みです」

 自動音声のような声に驚いた妖湖が、点滅している球体を押さえると、声と点滅が止まった。

 その代わり、球体に矢印のようなモノが表示される。

「なにコレ?」

「その矢印の方向に、歪みに呑み込まれた異妖がいる」


 矢印の方向から冷気が流れてきて、妖湖は両腕で体を押さえて言った。

さむっ、ブルッときた」

 イバラ童子が寒さで体を押さえた妖湖を抱きしめて、片手を近くの建物に向けて言った。

「しっかり、オレの体につかまっていろよ」

 イバラ童子の腕から伸びたイバラのつるが近くの建物に絡みつき、妖湖を抱いたイバラ童子の体は……手首からクモ糸を出して空中を移動するクモの超人か、密林で蔓を使って移動する野生児のように空中を移動していく。


 風の中で妖湖が思わず口にした一言。

「マジすごい、空中を移動している……イバラ……童子すごい」

 次の瞬間、イバラ童子の表情が険しい表情に変わる。

 

「おめぇ、今なんて言った……オレの名前はイバラ童子だ! キに濁点はいらねえんだよ!」

 いきなり、イバラ童子は妖湖を抱いていた手を離して、落下した妖湖の体は地面で待ち受けていた。毛むくじゃらの移動化け物の口に呑み込まれた。

 イバラ童子が着地した、建物の屋上近くに毛むくじゃらの化け物の口から吐き出された。


 いきなり、空中から落とされた妖湖は、イバラ童子に詰め寄って文句を言う。

「ひどいじゃない、急に落とすなんて」

「はぁ? 妖湖が悪いんだろうが……オレの名前は『イバラ童子』だイバラ童子じゃねぇ」

「わかった、イバラギ・・・・童子」

「濁点はいらねぇんだよ! それ以上、おちょくったら、ぶっ飛ばすぞ!」


 言い争っているイバラ童子と妖湖に向かって、空から雪と氷が降ってきて吹雪になった。

 イバラ童子が言った。

「言い争っている場合じゃないな……見ろ」

 イバラが指差した先に、スノーブルー色の生地で雪の結晶紋がある着物を着て、片目を髪で隠した女性が座り込んで股間と胸を触っていた。

「イグッ……イグゥゥゥッ……あはぁん」

 黒髪の先端が雪のように白い異妖『イグ女』が、恍惚とした表情をするたびに冷気が強まっていく。


 イバラ童子が言った。

「マズイな、イグ女のヤツ……完全に歪みに取り込まれている、鎮めて解放してやらないと……妖湖、出番だ」

「どうすれば?」

「腕輪に付いている球体を回せ……この状態に最適な武器や異妖の仲間が現れる」

 妖湖が言われた通りに球体を回転させると、球体がオレンジ色に変わり……空中に触手のようなモノが現れて集結して、無反動砲バズーカのような武器が現れた。

 妖湖は出現した武器を肩に担いで、照準をイグ女にセットする。

 イバラ童子が言った。

「それが〝妖湖激震砲〟だ……イグ女に向かって撃て!」


 妖湖が、何も考えないで激震砲のトリガー銃爪を引く。

「あたしを好きになっちゃいな! ファイヤー!」

 発射された激震砲の衝撃波が、イグ女を包み込み……歪みが吹っ飛ぶ。

 イグ女が憑き物が落ちたような顔で言った。

「あぁ、整いましたぁぁ」

 放心状態からもどったイグ女が、イバラ童子を見て言った。

「アレ? イバラ……どうして、ここに? あたし今まで何やっていたの?」

「歪みに取り込まれて暴走していたんだよ」

「そうだったんだ……その隣の女、誰?」

 イバラが妖湖の背中を押して前へ出す。

「喜べ、妖湖が妖転生で復活した」


 キョトンとした顔をしていたイグ女が、顔天パパと同様に妖湖に抱きつく。

「妖湖……妖湖ぅ、逢いたかったよぅ」

 イグ女の体の冷たさに、悲鳴を発する妖湖。

「ぎゃあぁぁぁ……ブルッときた」

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転生妖怪令嬢「これって転生や令嬢じゃなくてもよくねぇ」 楠本恵士 @67853-_-

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