第2話 戦力
『それでは…ようこそ、"新世界"へ——君達の冒険は始まった』
その言葉を最後に残し、何事もなかったかのように声が聞こえなくなった。
揺れが収まり刹那の静寂、たちどころに喧騒を取り戻し、生徒が一人「俺の時代が来た!」などとのたまいながら教室の外へと走っていった。
あいつの名前は確か…
他のクラスメイトを見渡すと数人、尻尾や獣耳が生えていたり、かなりの人数が日本人離れした瞳に変色していたりと、その異様な光景に唖然とする。
「ユイ、リンカ…さっきの声は……」
「聞こえたよ。それよりユキ君、すごく格好良くなってる…オッドアイっていうんだっけ、それに角も」
結依は話しながら近づき、突然俺の頬に触れて指をなぞる。
「雪兎…血が出ているぞ、手当てしてやる」
割れた窓のガラス片によって、頬が切れていた事を思い出す。凛花は準備が良く、軽くハンカチで血を拭ってから絆創膏を貼ってくれる。
しかし、どうも結依の様子がおかしい(いつもの事だが)。なぜ頬を朱に染め、恍惚とした表情で俺の顔をじっと見つめるのか。それにオッドアイに角とはどういう事か、コスプレする趣味はないぞ。
「結依…どうやら君も私たちと同じく、肉体が変異したようだぞ」
そう言った凛花は耳の先が尖り、二本の角が頭を囲うように後ろに折れ曲がりながら生えていた。悪魔というか鬼というか、姿が変わっても凛とした佇まいは変わらない。漆のように黒く染まった瞳に、思わず目が吸い寄せられる。
俺にも二本角が生え、耳の先が尖っていた。オッドアイという事だが、どうやら右目が琥珀色に染まり、左目は灰のように色素が薄くなっているそうだ。
そして改めて結依の顔を窺うが、凛花のように耳が尖り、エルフのように長くなっている事以外は特に変わらないような気がする。いや…髪で隠れているが、結依にも小さい角が二本あるようだ。そして瞳は赤みを帯びている。
「ユキ君、そんなに見つめないでよ…ドキドキするなぁ」
身長が下がったのか、少し視線を落として観察する。はち切れんばかりの豊満な胸が目につき、なぜか猛烈にそこに顔を埋め抱きしめたくなる。全体的にボディラインが丸みを帯びており、程良く柔らかそうだ。いつも以上に可愛くて蠱惑的な魅力を……は?
「えっ、おまっ…もしかして女に!」
「落ち着け雪兎、そんな事よりもこれからどうするかを考えるべきだ。外を見てみろ」
「そんな事で切り捨てられるかよ…」
戸惑いつつも凛花に手を引かれ、床に散らばったガラス片に気をつけながら窓の方へと向かい、すぐさま異変に気づく。
「…何が、起きてるんだ?」
地震の影響か、倒壊した建造物。車が事故でも起こしたのか火災も発生しているようで、各所から黒い煙が昇っていた。それだけではなく他にも異常を発見する。あれは———魔物か?
「二人とも、スマホが使えないみたいだよ」
「自称『神様』の言った通り、文明の一部…電子機器の使用を制限されたという事だろう」
「なら他にも、スマホみたいに使えなくなった物があるのかな。例えば銃とかヘリ…救助は期待できないかもね、学校のサイレンも鳴ってないし———」
二人は既にこの惨状を受け入れたのか、冷静に事態の把握や今後の方針を固め始めた。こいつらと一緒にいると何故か気が抜けるというか心強いのだが、残念なことに俺は冷静さを欠いていた。外には魔物…ゲームでよく見たゴブリンのような生物や、見たことのない鳥型の飛行生物が外には溢れ返っており、すぐにでも校舎内へと侵入しそうだ。
俺は確かに退屈な日常を吹き飛ばすような、刺激的な何かをいつも望んでいた。でもこの光景は、あまりにも常識を逸脱し過ぎている。
しばらくの間、呆然と立ち尽くしていると背後から凛花に声を掛けられ、夢から醒めるように現実へと引き戻された。
「雪兎、少しは状況を飲み込めたか?…あまり時間はないぞ、じきに此処にも魔物が攻め込んでくるだろう」
「自称『神様』が言っていたよね、『戦う力は与えた』って…。あのさユキ君、ステータスって言ってみてよ」
結依に催促され恐る恐る唱えてみると、眼前に半透明の画面が表示され思わず声を上げ驚いてしまう。
「慣れれば意識するだけで出せるんだけど…その画面は自分にしか見えてなくて、『ステータスオープン』って言えば見せたい人にも共有できるみたいだよ」
ゲームのようなステータス画面を読む。
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——————————
名前:神崎 雪兎
年齢:15
種族:魔人族〈悪魔〉
状態:ーー
LV:1
魔力:Srank
神力:Drank
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【Aスキル】
・血の契 Lv 1〈2/10〉
・神眼-偽 Lv 10
・堕天の光翼 Lv --
・霊剣-
【Pスキル】
・堕天の曙光 Lv --
【固有スキル】
・傲慢 Lv --
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《Gshop》
【所持Mp】1,000point
[神室結依]1,000point
[大神凛花]1,000point
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《称号》
【神候補】【主人】
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何やら項目が多いが、種族の変化や『スキル』とやらの存在を認めなければならないのか。常識という物が悉く否定され、瓦解していくようだ。自称『神様』の言っていた通り此処はもう『新世界』で、元の姿を取り戻すことはないのかもしれない。
「私達のステータスを共有しよう」
言われるがままに、ステータス画面を三人で見せ合う事になった。
先ずは結衣のステータス。
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名前:神室 結依
年齢:15
種族:魔人族〈妖精〉
状態:ーー
LV:1
魔力:Arank
神力:Erank
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【Aスキル】
・
・操血 Lv 1
・魔弓-吸血姫 Lv --
【Pスキル】
・魔力還元 Lv --
・状態異常耐性 Lv 1
【固有スキル】
・色欲 Lv --
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《Gshop》
【所持Mp】1,000point
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《称号》
【神候補】【眷族】
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続けて凛花のステータス。
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名前:大神 凛花
年齢:15
種族:魔人族〈鬼〉
状態:眷族
LV:1
魔力:Arank
神力:Erank
——————————
【Aスキル】
・
・式神 Lv 1
・鬼火 Lv 1
・妖刀-桜姫 Lv --
【Pスキル】
・金剛不壊 Lv --
【固有スキル】
・憤怒 Lv --
——————————
《Gshop》
【所持Mp】1,000point
——————————
《称号》
【神候補】【眷族】
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新世界の歩き方 橘樹 @hinakana
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