第一部 1章:化学に成る種
1−1−1
冬が終わり、太陽の活動が活発になりはじめた。
雲は綿のように軽くなり、風にはどこか優しさを感じる。
こんな日に山に行けば、春特有の香りがするだろう。
「ハァ……これからどうしよう……」
そんな陽気な気候とは対照的に、マナは晩秋の物悲しさを感じていた。
―――
マナ……マナティクスは国立魔法研究所付属学園に在籍する、魔術研究者見習いである。
研究者を志したきっかけは幼少の頃、母親が魔法で生み出した小さな水玉に、幼いマナの心が奪われたところから始まる。
ある日働く父親のもとへ、マナの面倒を見ていた母親が駆け寄る。
「おまえさん、マナが魔法を!!!」
「なにぃ!?」
まずマナは喃語を覚えるよりも先に、母親が行使した魔法を模倣した。
娘の急な才能の開花に両親は驚きつつも、大いに喜んだ。
それから数か月後
母親が周囲の助けを借りながら少しずつ店に復帰しようとしていた頃、面倒を見てもらっていた近所の知り合いが店を慌ただしく訪れる。
「お母さん!マナちゃんが水柱を!!!」
「本当ですか!?」
立ち上がるよりも先に、マナは術式を自在に構築できるようになった。
マナの急成長に両親は「ついに魔法の応用を」と大いに喜んだ。
それから数年後
父親が近所の広場で遊ばせていると、ふと思いついたようにマナは魔法を発動させる。
「ひ よ、あの き を やけ!」
「は……?ちょ!? 水よ!!!」
罪悪感を覚える頃には、四大属性の魔法を発動できる様になっていた。
人間の体の成長に見合わない、娘の飛躍的な成長に、マナの両親は「あの子ならやりかねない」と達観していたのだった。
彼女の実家は、首都郊外の小さな商店であった。
「ヤー!!!」
「マナ!それは売り物だからダメ!!!」
5歳になったマナは店の手伝いをするかたわら、雑貨・日用品の中に混在する魔道具を、知育玩具の代わりにその魔道具を分解して遊んでいた。
「この術式は、この解釈と同じなのね……」
しかし、その遊びはいつしか研究へと変化していき、両親は専用の作業部屋を用意されたマナは魔道具の研究に没頭した。
その裏には両親よる、理解と協力が不可欠だった。
マナの研究には、破損・爆発・裂傷・火傷・中毒など、大なり小なりの怪我や事故がついて回った。
娘の成長を達観していた両親も、さすがにこの魔道具の研究については止めさせたかった。
しかし、日増しに過激になる娘の研究内容に『隠れて事故を起こされるよりかは、目の届くところで事故される方がマシだ』と考えた。
そこで『何をやって・何が分かったか等を報告する事』『指摘された懸念事項があれば改善すること』を条件に、研究を続けることを許可した。
そうしてマナは時折問題を発生させながも実験を続け、14歳になる頃、ある雑貨の改良に成功する。
次の更新予定
その化学は宗教へと至る 山坂良樹 @yamasaka_yoshiki
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