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おしゃけくん

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  警視庁デジタル保全課


 【供述調書 第3回聴取】

氏名:xxxxxx(未成年につき伏字)

日時:平成27年8月27日

担当官:警視庁〇〇署刑事課 


——まず確認する。

君が「幽霊を見た」と証言したのは事実だな?


「……見た。間違いなく、いたんだ。」


だが鑑識の結果、現場に第三者の痕跡はない。

君以外の4名は、転落死・交通事故・刺傷で死亡。

争った形跡も、脅された形跡もない。


————————————————————


 湿った廊下、刑事が歩くたび靴底が古いワックスの跡を擦って鳴くのが異様に気になるのは、今担当してる事件のせいだろうか。刑事の今担当している少年犯罪はあまりにも奇妙で理解が及ばないものだった。


 事件の詳細は夏休み後半の夜、郊外の山の中にある廃校に肝試しで侵入した4人組の中学生グループが1人を残して全員死亡。生き残った1人も精神的ショックによる影響で意味不明な証言しかしない。一体何が起きたのか、なぜ1人の少年を残して全員が死んでしまったのか…


 すると刑事の元に一本の電話が入る。現場から発見されたビデオカメラの映像の解析を行なっていたサイバー犯罪対策課の人間からだった。刑事はすぐさまサイバー犯罪対策課のもとに向かい、映像を見せられる。そこには取り調べを行っている少年の他に3人の少年少女が写っている。すると真ん中の少年、現在取り調べを受けている透が喋りだす。


「拓哉?カメラもう回ってる?」


 拓哉、そう呼ばれた少年は一度カメラの後ろに回る。


「あーうん、回ってる回ってる、早く挨拶しようぜ」


 すると、グループYouTuberに憧れた子供たちが実際に動画を撮ってみた!というような映像が流れ出す。


「どうも!透と!」


「拓哉と!」


「麗美〜」


「奈那でーす」


 ここに来てようやく事件に関わった人間の名前が判明した。彼らはいわゆるストリートチルドレンであり、保護者にも連絡がつかない状況で、唯一の関係者もコミュニケーションが取れない状況のためこの映像を見るまで、生き残った少年以外は名前すらわからなかった。サイバー犯罪対策課の人間はこういった挨拶が冒頭に来る動画がいくつかあったそうだ。この動画は事件当日の録画だそうだ。


 映像が流れていくと真っ暗闇の山の中、それなりに明るめの懐中電灯を持って歩きながら拓哉が説明を開始した。


「これからいく廃校はな、とある教師が生徒を皆殺しにした事件が起きた心霊スポットなんだ!赤いワンピースを持った教師が彷徨ってるって噂だぜ?!」


 その説明に3人は爆笑しながら拓哉をバカにする。


「お、おい拓哉?そ、そんな情報…笑信じてるのか?笑」


 麗美、奈那も馬鹿にするように笑っている。笑われた拓哉は少し恥ずかしがりながら言い返す。


「お前らが襲われても俺は絶対助けないからな!」


 しばらくするとカメラの映像は雑木林を抜けて少し開けた場所に出る。おそらく蒸し暑い夏の夜、山の中で夜空だけが透き通って見えるのがカメラを通じて伝わってくる。その景色を見てか、自分たちの承認欲求が満たされてるからか麗美は声をこぼす。


「うちらここまで来れたんだね…」


 山を登って疲れたからか、YouTubeやTikTokのフォロワーが増えたからか、はたまた、ただの不良がこうして充実した日々を送っているのを実感してるからかは誰にも分からない。それでもカメラに映る少年たちは…普通。普通だった。数十分後には亡くなっているとは思えない少年たちだ。


「と…いうわけで!着きました!こちらが今回肝試しをする廃校です!」


 その瞬間、刑事が咄嗟にスペースキーを押し込み映像を止める。


「これ、板奈田事件の学校じゃ…?」


 サイバー犯罪対策課の人間は頷く。


「その通り、30年前、戦後最悪と呼ばれる猟奇的殺人事件、板奈田小学校生徒無差別殺人事件、通称、板奈田事件の学校だ、まさか取り壊されず、今でも心霊スポットになってるなんてのは予想外だったがな。」


 板奈田事件、それは1人の少女が引き起こした、悲劇の事件である。


 板奈田小学校教師佐藤守は妻子持ちの教師だった。しかし、6年1組、当時11歳の田中澪は佐藤を誘惑し、行為に及ぶ。そういったことを繰り返していくうちに佐藤は心を田中に蝕まれ、妻子をほったらかしてまで会うようにいたる。それを面倒だと感じた田中が一方的に関係を断絶、行為の画像、言い寄る動画を拡散、教師は懲戒免職、妻には離婚を突きつけられ、子供には最低だと罵られた。


 全てを失った彼が、最後まで考えていたのは田中にねだられた赤いワンピース、佐藤は赤いワンピースを渡すため、ナイフを持って学校に侵入した。学校にいた田中は佐藤の記憶に色濃く残る白いワンピースではなく、青いワンピースを着ていた。佐藤は最後まで何も得られなかったと感じ、深く絶望し、自暴自棄に陥った。


 そこから彼は無差別に生徒を攻撃し始めた。突き刺すたび小学生の小さな体から大量の血飛沫が上がる。教室、廊下はあっという間に赤く染まり、痙攣した死体がいくつも転がる、どれだけ血を使っても、青いワンピースは赤くはならなかった。佐藤はそのご死体の腹を裂き、臓物を引き摺り出してワンピースのような形に整えていく、破られた胃からは給食が漏れ出し、悪臭が漂った。佐藤は完成させた臓物のワンピースを被せ、最後に自分の喉を切り裂いて赤いコーティングを施して自殺したという事件だ。


 刑事たちは30年前の学校、普通なら解体していてもおかしくないその学校は、廃れながらも面持ちを保っていたのを見て驚愕しつつも映像を進める。早速侵入し、昇降口から入った透達は、カメラをここに置き、それぞれが探索しだす。


「俺はこのまま左を、拓哉は右、麗美と奈那は2回を探索してくれ」


 そうしてカメラを放置して全員が探索を開始し出した。数分後、奈那が階段の上から落ちてくる。ゴキッ!と鈍い音を立てて首があらぬ方向へと曲がる。麗美の悲鳴により拓哉と透が集まり状況を確認する。透と拓哉はパニックになりながらも冷静に麗美に尋ねた。


「な、何が起きたんだ?!」


 麗美はパニックになり、まともに話せない。全員が真冬に半袖で立っているのかというぐらい震えだした。が麗美は震えながら状況を説明する。


「に、、にに、2階はなんも、無さそうだなって、私が拾った赤い布をくらいしか面白いもんなさそうっていったら、、奈那が、い、いい、意味不明なところ指さして、そ、そそそ、それ持って近付かないでって怯え出して……そ、そそそ、それで…そのまま…ここから…お…落ちて……ああ、ああああ!!!」


 少年たちは自分たちの仲間が死んだ。しかしそれ以上に奈那の挙動が意味不明だったため怯えてしまっている。そして透は提案する。


「い、一旦ここから帰って、警察を呼ぼう…」


 警察、その単語に反応するように何かが動く音をカメラが拾っていた。その音は透達にも聞こえていたのか咄嗟に二階へと走りだす。2回で全員がバラバラになって逃げた。麗美はカメラを持ったまま、6年1組の教室に入り込んだ。


 麗美はカメラを置いて廊下を確認すると、腰を抜かしたように教室に転がり込む。すると閉まりかけの扉がゆっくりと開いて、光沢のある物体が入り込み、黒い人影が入ってくる。麗美は声にもならない声で必死に何かを訴えているが腰が抜けてしまった動けないのか、這ってどこかに逃げようとするがその後ろから、光沢のある物質を黒い人影が突き刺す。


 刑事は直ぐにスペースキーを押した。なぜなら目の前で殺人事件が起きた映像が流れたからだ。つまり、これは心霊スポットに肝試しに行った結果、たまたま殺人鬼が居合わせたということだと推理をした。しかし、サイバー犯罪対策課は一つの矛盾を上げる。


「では奈那の死は?あれはただの転落だ、同じ場所に居たはずの麗美が一度透たちと合流できたのはおかしい」


 そう言ってサイバー犯罪対策課の人間は映像を進める。黒い人影はカメラに気付くことなく教室から去る。


 数十分後、拓哉と透が6年1組で合流し、麗美の死体を確認して焦る。拓哉は透よりも動揺していた。


「な、奈那が…奈那がし、ししし、死んでる!内臓が引っ張り出されてる!」


 透は冷静に拓哉を宥めた。


「落ち着け拓哉、こいつは麗美で、背中しか刺されてないぞ」


 刑事は噛み合ってない会話を聞きつつも、映像をしっかりの見る。走り出した透と拓哉の走る地面が崩れ落ちて一階、奈那の死体付近に出る。すると拓哉がまた


「な、麗美が…麗美が死んで…まっ、麗美の目が!麗美の目が動いた」


 ここから先はすでにカメラに拾われた音しか聞こえてこない。拓哉の発狂を聞いた透が冷静に、


「麗美の顔はこっち向いてないから!目が動くはずないだろ!」


 その後数分間にわたり草むらを走る足音、彼らの吐息が揺れる地面の映像と共に流れ続けてアスファルト部分に到達して2人がバイクに乗り込んだ。


 しかし、透の後ろにいた拓哉が


「うわぁ、あ、あの男だ!教師が!教師がァァ!!!!!!!」


 そう叫びながらガードレールを突き破るような音と拓哉の叫び声が遠くなって行く音だけが残り映像が途切れる。


 まるで映像が終わるのを待ってたかのようにサイバー犯罪対策課の扉が開き鑑識の人間が検死の結果を伝えに来た。


 検死の結果。3人全員が違法薬物を摂取していたことが判明した。透も例外では無かった。


 幽霊なんていなかったのだ。


【後日談】

 この事件の捜査をしていた刑事さんは連続ナイフ殺傷事件の捜査本部に異動にされ、毎日お勤めを果たしているそうです。


——ところで。

あの日の映像には、“透”が走り去った後も映像が続いていた痕跡があるそうです。


事件になった廃校には放棄されたノートパソコンが見つかったとの噂も…


捜査は現在も継続中とのこと——


 





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